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『オーレリア戦記』  作者: りあと
外伝『アンチアルマ避難民藩地』帝国歴303年〜304年
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オーレリア外伝『アンチルマ避難民藩地』その12

帝国歴304年1月半ば――。


前夜から降り続いた大雪は、早朝にはぴたりとやみ、「アンチルマ避難民藩地」を一面の白い世界へと変えていた。


厳しい寒波や戦火の影に怯えていた避難民たちだったが、親王妃リゼリアたちのもたらす幾多の「奇跡」と、先日の新年の賑やかな行事によって心を取り戻し、集落には確かな活気が満ちていた。


そんなある日の昼下がり、本陣近くの広々とした積雪地帯に、甲高い歓声が響き渡っていた。


「そ~れっ! エミーナ、後ろがガラ空きよ〜っ!」


「ひゃあぁっ!? セシリア様、待ってくださいですぅ〜!」


セシリアが綺麗に丸めた雪玉を繰り出すと、青鬼のお面ならぬ可愛らしい防寒巾着をかぶった侍女エミーナが、悲鳴を上げながら雪の中に派手に転がり込んだ。


「あはは! 大直撃! 私の勝ちね!」 セシリアはおもむろにポンと胸を張り、眩しい笑顔を弾けさせた。


「……セシリア様。油断は禁物です」


静かな声とともに、視界の端からすさまじい速度で白い球体が飛来した。


パカァン!


「きゃっ!?」 セシリアの真横の雪山が爆発した。振り返ると、そこには黒髪の侍女ロゼッタが、整った顔立ちを崩さぬまま、寸分の狂いもない綺麗な雪玉を手に佇んでいた。


「……計算通りの軌道です。いくら雪合戦とはいえ、味方の背後を脅かす敵(=セシリア様)は見過ごせません」 「ちょっとロゼッタ! 今の、本気で当てにきてたでしょ!?」


二人がきゃーきゃーと笑い合っていると、物陰から様子を伺っていた避難民の子供たちが、目を輝かせてわっと飛び出してきた。


「あ! セシリアお姉ちゃんだ!」 「エミーナお姉ちゃん、大丈夫〜!?」 「ロゼッタお姉ちゃん、すっごくかっこいい! ねぇ、僕たちも混ぜて!」


「まあ! みんな!」 エミーナが雪を払って立ち上がり、パッと顔を輝かせた。「もちろんいいですよ〜! みんなで雪合戦しましょう!」


こうして、セシリア、ロゼッタ、エミーナの三人対、十数人の避難民の子供たちによる「大雪合戦大会」の火蓋が切って落とされたのである。


◇


「みんな、狙いを定めるのよ! 突撃〜っ!」


「「「おーっ!!」」」


子供たちは身を低くし、一斉にセシリアたちへ向けて雪玉の雨を降らせた。


「きゃあ! すごい勢い! でも、負けないんだから!」 セシリアは身をかわしながら、持ち前の優れた運動神経で雪玉を次々と回避していく。しかし、相手は数の暴力。小さな手で一生懸命丸められた雪玉が、容赦なく押し寄せる。


「ふふ、セシリア様、援護します!」 ロゼッタが「千里眼」の集中力を微小に応用し、子供たちの投擲軌道を瞬時に読み切った。「……左から三発、右から二発。回避運動、開始」 ロゼッタは舞踏のような無駄のない動きで雪玉を全てかわしつつ、子供たちの足元ギリギリを狙ってソフトな雪玉をぽんと投げ返した。


「わあ! ロゼッタお姉ちゃん強すぎるよ〜!」 「エミーナお姉ちゃんを狙え〜!」


「ひぇぇっ!? なんで私ばっかり狙うんですかぁ〜!?」 エミーナは泣きそうになりながら逃げ惑うが、転んだ拍子に手をついた雪が、たまたま絶妙な防壁の形に盛り上がった。「ふぇ? あれ……?」


実はセシリアとエミーナの「微小な空間・物理干渉」の異能が、無意識の連携として発動していたのだ。子供たちの投げる雪玉は、なぜかエミーナの直前でふわりと失速し、パウダースノーとなって崩れ落ちる。


「あはは! エミーナのバリアだ〜!」 「ずるいぞ〜! 僕たちも防衛基地を作るんだ!」


戦いは白熱し、誰もが泥や雪にまみれて夢中で駆け回った。戦火の中で笑顔を失っていた子供たちが、腹の底から声を上げて笑い合っている。その光景は、冬の寒さを忘れさせるほど温かいものだった。


◇


小一時間ほど雪合戦を楽しんだ後、子供たちの息が上がり始めたのを見計らって、セシリアが手を叩いた。


「はーい! 雪合戦はここまで! 今度はみんなで、すご〜く大きくて可愛い『雪だるま』と、みんなが入れる『かまくら』を作りましょ!」


「「「わあーい!! やりたい!」」」


子供たちは歓声を上げ、雪を集め始めた。


「雪だるまはね、普通のじゃつまらないわ!」 セシリアが腕を捲り上げる。「私たちが前につくった『可愛い鬼さん』の雪だるまにしましょう!」


「賛成ですぅ!」エミーナが目を輝かせる。「頭に可愛い角をつけて、顔もにっこり笑顔にするんですねぇ!」


大人数での作業が始まった。子供たちが小さな雪玉を転がし、セシリアたちがそれを引き継いで巨大な胴体へと育てていく。ロゼッタはナイフと木彫りの道具を取り出し、雪の表面を細かく削って、崩れにくい見事な鬼の角や丸い耳を造形していった。


「見て見て! ロゼッタお姉ちゃん、彫刻家みたい!」 「すごい! 本当に可愛い鬼の顔になってきた!」


子供たちが歓声を上げる横で、セシリアとエミーナは「かまくら作り」に取りかかった。


普通なら、大人数が入れるサイズのかまくらを作るには固い雪を積み上げて中をくり抜くなど、かなりの時間と重労働が必要となる。


だが、そこはリヴィエール一族の乙女たちである。


「エミーナ、土台の密度を高めるわよ!」 「はいっ、セシリア様! ぎゅぎゅっと固めちゃいますぅ!」


セシリアが雪を小山のように盛り上げると、エミーナとともにそっと手をかざした。微小な熱操作と物理干渉により、雪の結晶同士が瞬時に適度な強度で結合し、内部が崩れない完璧な強度を持つドーム構造へと一瞬で変貌した。


「よしっ、中をくり抜くわね!」 セシリアが手で掻き出すふりをしながら異能を滑らせると、かまくらの内部の雪が一瞬で消え去り(空間調達の逆応用で別場所へ移送され)、大人数人がゆったりと座れる広々とした空洞が完成した。


「……完成です」 ロゼッタがかまくらの入口を綺麗に整え、内部に温かな布と、安全な魔導ランタン(表向きはただの油灯)を設置した。


「できた〜っ!!」


完成したのは、頭にちょこんと二本の角が生えた巨大で愛くるしい「鬼の雪だるま」と、その隣に佇む、中がぽかぽかと温かい大きな「ドーム型のかまくら」であった。


子供たちは大興奮でかまくらの中に飛び込んだ。


「うわあ! すごい! 中がぜんぜん寒くないよ!」 「広い! みんなで入れるね!」


「ふふ、成功ね!」 セシリアがかまくらの入口から顔をのぞかせ、子供たちに微笑みかける。


◇


「——まあ、みんなで楽しそうに何をしているのかしら?」


鈴の転がるような美しい声とともに、かまくらの外に姿を現したのは、アルヴェリア親王妃リゼリアであった。その傍らには、侍女ベルナデット(ナデット)も控えている。


「リゼリアお姉様! ナデット!」 セシリアが嬉しそうに駆け寄った。「見てください! 子供たちと雪合戦をして、可愛い鬼の雪だるまと、大きなかまくらを作ったのよ!」


「おや、素晴らしいですね」 ナデットが眼鏡の奥の目を光らせ、手帳にペンを走らせる。「子供たちの自発的な身体運動による体温上昇、および精神的充足感の獲得。また、強固構造のかまくら作成による極寒時の緊急避難訓練としての合理的価値……素晴らしい成果です」


「ナデットったら、相変わらず固いんだから〜」エミーナが苦笑する。


リゼリアは優しく目を細め、かまくらの中で嬉しそうに手を振る子供たちと、大きな雪だるまを見つめた。


「本当に……素敵な雪だるまとかまくらね。みんなの笑顔が、一番の春の訪れだわ」


「はいっ!」セシリアはお面を被った時のように、飛び切りの笑顔を咲かせた。「寒さなんて、みんなで笑っていれば吹き飛んじゃいます!」


夕暮れ時、黄金色の太陽が雪原をオレンジ色に染め上げていく。 かまくらの中から漏れる温かな灯りと、子供たちの賑やかな笑い声、そして寄り添う乙女たちの絆が、アンチルマの白い世界をどこまでも優しく包み込んでいたのだった。

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