第61章『ビガンテ城包囲戦と王都の混乱』
ビガンテ城を包囲した連合軍の陣営は、まさに壮観の一言に尽きた。
北と東の陸路を埋め尽くすのは、オーレリア帝国の洗練された鉄騎兵と重装歩兵の群れ。南の海沿いには帝
国の巨大な軍船が合流し、黒々とした船体を連ねている。そして西側には、長年の恨みと祖国再興の執念に燃
えるラシル王国軍が陣を敷いた。
対するビガンテ城の守備兵は、度重なる敗戦と補給途絶により、すっかり疲弊しきっていた。城壁の上で槍
を構える兵士たちの瞳には、もはや戦意ではなく、死への諦絶が浮かんでいる。
「総司令官殿、オーレリア帝国軍より合図が出ました。全軍一斉攻撃の火蓋を切ります!」
親王イリアードの陣から打ち上げられた赤き狼煙が、黒く垂れ込めた空を切り裂いた。
「打て! 投石機、城門を打て! ラシルの勇士たちよ、今こそ長年の無念を晴らす時だ!」
ムジンの号令とともに、巨大な岩石が猛然と空を舞い、ビガンテ城の堅牢な城壁を砕いた。激しい打撃音が響き
渡り、城門の木組みが悲鳴を上げる。
ラシル軍の兵士たちは、梯子を手に城壁へと群がった。長年、ダラーン王国の圧政と侵略に苦しめられてき
た我が兵たちの情熱は、まさに狂熱と言ってよかった。矢の雨が降り注ぐ中を、身を省みずに駆け上がり、城
壁の上で凄絶な白兵戦を繰り広げる。
「押せ! 引くな! ここで攻め落とさねば、死していった若者たちに合わす顔がないぞ!」
◇
城上からは、悲痛な叫び声と鉄のぶつかり合う音が絶え間なく聞こえてくる。
だが、かつてラシル軍を震え上がらせたダラーン軍の強靭な組織力は、そこには存在しなかった。将兵をまと
めるベテランの指揮官はすでに死に絶え、あるいは獄に繋がれ、あるいは無謀な前線へと駆り出されていた。
城壁を守るのは、まともな訓練も受けていない若年兵と、飢えに喘ぐ老兵ばかりであった。
「報告! 西側の第二城門、我がラシル第一大隊が突破いたしました! 城内に雪崩れ込んでおります!」
「東側も帝国軍の鉄騎兵が突破! 城内の兵曹詰所は完全に制圧されました!」
破竹の勢いとはこのことであった。かつてラシル王国を絶体絶命の淵まで追い詰めた巨大な軍事国家・ダ
ラーンは、その中心部から脆くも崩れ去っていったのである。




