表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚王と呼ばれた男  作者: 中原九尾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/12

第八話 煙が嫌いなだけ

「支部長、ちょっといいですか」


 ある日、愚王が支部長のもとへ、妙に真剣な顔で向かっていくのを、カインは休憩室の隅から見ていた。


「休憩室の喫煙、外にしてもらえませんか。煙、苦手で」


 支部長は、少し驚いたような顔をしたが、意外にもあっさりと頷いた。


「まあ、確かに、他にも気にしてる子がいるかもしれないしな。じゃあ、今日から外にするか」


「ありがとうございます!」


 満面の笑みでそう言い残し、愚王は上機嫌に休憩室へ戻ってきた。


 新人が、しかも入社してまだ間もない人間が、こんな要望を出して、あっさり通る。普通の会社であれば、まず考えられないことだった。だが、この愚王という男に限っては、なぜか通ってしまう。理由は誰にも分からなかったが、上司たちの間で、なぜか妙に可愛がられているらしいことは、カインも薄々感じていた。


「おい、聞いたか、これ」


 その日の夕方、ノアがカインのところに来て、そう耳打ちした。


「聞いた。あいつ、また勝手なことしてくれたな」


「まあ、俺は別に、煙苦手じゃないから困らないけど……お前は吸うだろ」


「吸う」


 カインにとって、休憩中の一服は、数少ない息抜きの時間だった。それを、こんな形で制限されるのは、正直、腹立たしいものがあった。


 しかも、腹立たしいのは、それだけではなかった。


 全支部の中で、成果が最も低いのは、相変わらずフェリシオン支部の新人たちだった。それも、愚王一人の足を引っ張る割合が、圧倒的に大きい。それにもかかわらず、当の本人は、こういうところでだけ、やたらと積極性を発揮する。


「おい、ダニー」


 カインは、休憩室から出ようとする愚王を呼び止めた。


「何?」


「お前、普段仕事しないくせに、こういうことだけは一生懸命だよな」


「え、これは煙が苦手だから、健康のために」


「健康のためにって、お前の健康より先に、成績のこと気にしろよ」


「それとこれとは別問題でしょ」


「別問題じゃねえよ。上司に取り入るのだけは上手いのに、肝心の仕事はできないって、一番タチ悪いパターンだろうが」


 愚王の顔が、みるみるうちに歪んでいった。


「そ、そんな言い方しなくても……」


「事実だろうが。休憩時間削られてまで、お前のわがまま付き合わされてるこっちの身にもなれよ」


「わがままって言うな!」


「わがままだろうが、これ!」


「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」


 愚王が、休憩室の真ん中で、盛大に泣き出した。他の社員たちが、何事かとちらちらこちらを見ている。


「お前、これで支部長にまた変な取り入り方すんなよ」


 カインがそう釘を刺すと、愚王は鼻を啜りながら、恨めしげにこちらを睨んできた。


「カインは、いつも僕に厳しい……」


「お前が甘えすぎなんだよ」


 その後、支部長の耳に、この一件がどう伝わったのかは分からない。ただ、翌週には、なぜか愚王の席の周りにだけ、ちょっとした甘い菓子が差し入れされているのを、カインは見かけることになった。


(なんでこいつだけ、こんな優遇されてんだよ……)


 理不尽さに、カインはただただ頭を抱えるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ