第七話 ラーメン博士の面目
「今度さ、ラーメン食いに行こうぜ!」
ある日、ダニーがそう誘ってきた。
「……お前とラーメンは、もう懲り懲りなんだけど」
カインは、思わず渋い顔をした。
以前、ダニーに「話題の店だから」と連れて行かれたラーメン屋で、二時間近くも行列に並ばされた記憶が、まだ根深く残っていた。しかも、いざ食べてみれば、無添加を売りにした、あっさりとした味わいの一杯で、体を動かす仕事をしているカインにとっては、正直、腹の足しにもならなかった。
「今回は違うって! 僕、ラーメン博士だから」
「その博士号、誰が発行したんだよ」
「今回はジロー系だから。極太麺で、こってり系。カインにはちょうどいいボリュームのはずだから」
自信満々にそう言い切るダニーに、カインは半信半疑ながらも、ひとまず付き合ってみることにした。
案内された店は、なるほど評判通り、いかにもガテン系向けといった雰囲気だった。丼からはみ出さんばかりの麺の量に、期待が高まった。
「普通盛りでも、結構な量あるらしいぞ」
「なら、大盛りで頼もうぜ」
ダニーが、迷いなくそう言った。カインも、この日ばかりは同意した。
「大盛り、二つで」
運ばれてきた丼は、想像以上のボリュームだった。極太の麺が、山のように盛られている。
「これは、ちょうどいいわ」
カインは、黙々と箸を進めていった。空腹だったこともあり、大盛りを完食するのに、それほど苦労はしなかった。
一方、ダニーの方は、明らかに苦戦していた。小太りの体格からすれば、大盛りくらい難なく平らげそうなものだが、実際の食の細さは、その見た目とはまるで一致していないらしかった。
「うっ……お、思ったより多い……」
箸の動きが、目に見えて鈍っていく。半分ほど食べ進めたところで、完全に手が止まってしまった。
「なあ、カイン……残り、手伝ってくれない……?」
「は? お前が頼んだんだろうが」
「お願い……もう無理なんだ……」
情けない顔で頼み込んでくるダニーに、カインは深いため息をついた。
「……仕方ねえな」
結局、カインは、自分の丼を空にした後、ダニーの残した分まで、苦しみながら平らげる羽目になった。
店を出た後、カインは、満腹感を通り越した重い胃を抱えながら、ダニーに苦言を呈した。
「食えないなら、あんな大盛り頼むなよ」
「あんな量あるなんて、思わなかったんだよ!」
「ラーメン博士はどこ行ったんだよ、それ」
「うっ……」
「いっぱい食えそうな体型してるくせに、全然食えねえじゃねえか」
カインが容赦なくそう畳みかけると、ダニーの目に、みるみるうちに涙が溜まっていった。
「そんな言い方しなくても……」
「事実だろうが。俺だけ二人分背負う羽目になったんだぞ」
「でも、僕なりに、カインのこと考えて店選んだのに……」
「考えた結果がこれかよ」
「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」
ダニーが、路上で盛大に泣き出した。
結局、あれこれ言い合ったものの、カインの中では、自分のオススメだった店で、相手を満足させられなかったという事実だけが、ダニーの中に重く残ったらしかった。泣きながらも、なおもぶつぶつと「博士なのに」「ちゃんと選んだのに」と繰り返すダニーを前に、カインは、ただただ呆れるしかなかった。




