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愚王と呼ばれた男  作者: 中原九尾


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第五話 これ何の集まり?

「今日、飯行こうぜ!」


 ある日の仕事終わり、愚王が唐突にそう誘ってきた。


「急だな。何の集まりだよ」


「いいから、いいから! 奢るから!」


 奢りという言葉に釣られ、カインは深く考えずについていくことにした。これが間違いだったと気づくのは、店に着いてからのことだった。


「あ、来た来た! こっちこっち!」


 愚王が案内された席には、すでに一人の女性が座っていた。年齢はカインたちと同じくらいだろうか。人当たりの良さそうな顔立ちをしているが、その表情には、明らかな困惑が浮かんでいた。


「遅いよ、ダニー」


 女性が、気安い調子でそう言った。どうやら、愚王とはそれなりに親しい間柄らしい。後で聞いたところによると、昔からの幼馴染だという。


「悪い悪い、待った?」


 愚王も、いつもの馴れ馴れしさとはまた違う、気の抜けたタメ口で応じている。


「え、あの、この人は……」


 女性が、今度は困惑気味にカインの方を見た。


「僕の同期のカイン! いいやつだから!」


「いや、そうじゃなくて、なんで急に同期連れてきたのって話……」


「あの、すいません」


 女性が、たまりかねたようにカインに向き直り、こちらには一転して丁寧な口調で話しかけてきた。


「これ、一体何の集まりなんでしょうか……ダニーから、詳しいことは何も聞かされてなくて」


「いや、俺もそれ聞きたいんですけど」


 カインも同じくらい困惑しながら、そう答えるしかなかった。


「わたしも、急に『飯行くから来て』って言われただけで……」


「俺もです。今日いきなり『飯行こうぜ』って誘われて」


 二人して顔を見合わせ、揃って小さくため息をついた。この状況を作り出した張本人だけが、なぜか一人、満足げな顔で二人を見比べている。


「二人とも、なんか意気投合してるじゃん!」


「いや、してねえよ」


「困惑を共有してるだけ」


 カインと女性が、ほぼ同時にそう突っ込んだ。


「ちょっとダニー、これ絶対そういうことでしょ」


 女性が、愚王の方を睨みながら、今度はまた気安い口調に戻ってそう言った。


「いいじゃん別に。二人ともフリーだって聞いたし」


「誰から聞いたのそれ」


「勘」


「勘て」


 女性は、呆れ果てたように天を仰いだ。


「まあまあ、遠慮しないで、飲んで飲んで」


「いや、そもそもこれ何の集まりなんだよ、って話をしてるんだけど」


「細かいことはいいから!」


 結局、その日の食事会は、愚王一人がやたらとテンション高くはしゃぐ中、カインと女性が終始困惑したまま進んでいった。


「ごちそうさまでした……」


 店を出たところで、女性はそそくさと帰っていった。


「なあ、あの人、幼馴染なんだろ? なんでこんなことしたんだよ」


 カインがそう尋ねると、愚王は悪びれる様子もなく、あっけらかんと答えた。


「だって、あいつずっと彼氏いないし、お前もフリーだって言ってたし。ちょうどいいかなって」


「ちょうどいいって、本人たちに一言も相談せずにか?」


「相談したら、緊張して変な空気になるかもじゃん。サプライズの方がいいかなって」


「サプライズじゃなくて、ただの不意打ちだよ、それ」


「いい出会いになったかもだし!」


「なってねえよ、何も!」


 カインの怒声など気にする様子もなく、愚王は上機嫌に帰り道を歩いていった。


(こいつ、本当に何も考えてねえんだな……)


 その日カインは、改めてそのことを、痛いほど思い知らされることになった。

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