第三話 辞めてやる
不合格の結果を受けて、支部では急遽、追加講習が組まれることになった。
一か月間、就業後に魔法の基礎訓練を叩き込まれる日々。カイン、ノア、ブルーノは、それぞれ自分の役割の復習程度で済んだが、愚王だけは、講師にみっちり付きっきりで指導される羽目になっていた。
「いいか、狙いは、まず的をちゃんと見てから」
「見てます!」
「見てないから外れるんだよ」
講師も、さすがに匙を投げそうな顔をしていた。
一か月後、再試験の日がやってきた。
「今度こそ頼むぞ」
カインがそう釘を刺すと、愚王は自信満々に胸を叩いた。
「まかせろって。僕、この一か月ですげえ成長したから」
その根拠のない自信に、カインは嫌な予感しか覚えなかった。
案の定だった。
カイン、ノア、ブルーノの三人は、危なげなく規定の成果をクリアした。だが、愚王の魔法だけは、相変わらず狙いが定まらず、発動も遅い。結果、パーティー全体の成果は、辛うじて合格ラインに届いた――ものの、個人評価では、愚王だけが基準未達となった。
「お前だけ不合格って、どういうことだよ」
通達を見たカインが、思わずそう漏らした。
愚王は、しばらく呆然とその場に立ち尽くしていたが、やがて、ぽつりと呟いた。
「……もう、辞めてやる」
「は?」
「どうせ僕なんか、向いてないんだ。辞めてやる」
投げやりにそう言い放つと、愚王はその場に座り込み、両手で顔を覆った。
「お前だけ辞めても、状況何も変わんねえだろ」
「うるさい! どうせ僕は、みんなの足引っ張るだけの、いらない人間なんだ!」
「今更、それに気づいたのかよ」
「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」
カインの容赦ない一言に、愚王は盛大に泣き崩れた。
結局、その場では誰も、愚王を本気で引き止めようとはしなかった。だが、翌日には、愚王はいつも通りの顔で出社してきた。
「あれ、辞めるんじゃなかったのか」
「え、辞めないよ?」
あまりにあっさりとした前言撤回に、カインは何も言い返せなかった。
結局、愚王はもう一か月、追加の講習を受けることになった。今度は支部長自らが、多少の温情を込めて、簡易な基準での再々試験を用意してくれた。
「今回はさすがに受かってくれよ、頼むから」
カインが半ば祈るようにそう言うと、愚王は神妙な顔で頷いた。
結果は、辛うじての合格だった。基準にわずかに届くかどうか、というギリギリのラインでの通過だった。
「やった! 合格!」
愚王が、満面の笑みでガッツポーズを決めた。
「お情けだろ、それ、どう見ても」
「合格は合格だから!」
悪びれる様子もなく、そう言い切る愚王を前に、カインはもう、突っ込む気力すら失っていた。
(こいつと、この先何年一緒にやってくんだろうな……)
その先の長い道のりを思い、カインは静かにため息をついた。




