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愚王と呼ばれた男  作者: 中原九尾


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第二話 フェリシオン支部だけ

 配属から一月ほど経った頃、FPCでは新人全員に対して、社内独自の認定試験が課された。


 初心者向けのダンジョンに、配属先ごとの新人パーティーで挑み、規定の成果を上げられるかを見る試験だった。全国八カ所の支部で、同時期に一斉に行われるらしい。


「まあ、余裕っしょ」


 ダンジョン入り口で、愚王がそう言って、ぐっと親指を立てた。


「お前が余裕とか、一番信用できねえ言葉だな」


 カインが即座にそう突っ込んだが、愚王は気にした様子もなく、能天気に笑っていた。


 パーティーは、カイン、愚王、ノア、ブルーノの四人。役割の上では、カインが戦士、愚王が魔法使い、ノアが盗賊、ブルーノがポーターだった。


 最初のうちは、そう悪くない滑り出しだった。ブルーノが荷物を黙々と運び、ノアが罠を的確に処理し、カインが前衛で魔物を叩く。順調に思えたその流れが崩れたのは、初めての魔物との遭遇戦だった。


「ダニー、援護しろ!」


「し、してる!」


 愚王が唱えた魔法は、狙いを大きく外れて、あさっての方向の壁を焦がしただけだった。


「してねえだろ、それ!」


「い、今のは風のせいで!」


「ダンジョンの中に風なんてねえよ!」


 カインが叫んでいる間にも、魔物はじりじりと距離を詰めてくる。結局、その場はブルーノが力技で押し切ってどうにか凌いだが、愚王の魔法は、その後も似たような調子だった。狙いが外れる。発動が遅れる。挙句には、味方のいる方向に向けて撃とうとして、ノアに本気で怒鳴られる一幕まであった。


「お前、なんで魔法使いやってんだよ」


「会社が決めたんだもん」


 悪びれる様子もなく、そう返してくる愚王に、カインは頭を抱えた。


 結果、パーティーは規定の成果を大きく下回り、不合格となった。


 後日届いた通達によれば、全国八支部の中で、不合格になったのはフェリシオン支部の新人パーティーだけだった。


「うちの支部だけかよ……」


 結果を聞いたカインは、思わずその場に崩れ落ちそうになった。


「まあまあ、次がんばろうぜ!」


 愚王が、能天気にそう言って、カインの肩を叩いてきた。


「お前がそれ言うか?」


 カインが愚王に詰め寄ると、愚王は途端に目を潤ませ始めた。


「そ、そんな言い方しなくても……」


「事実だろうが。魔法当たったの一回もねえじゃねえか」


「頑張ったもん!」


「頑張っても当たんなきゃ意味ねえんだよ!」


「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」


 愚王が、盛大に泣き出した。ダンジョンの外だというのに、その声は妙に響き渡った。


「おい、まあまあ、カインも言い過ぎ」


 ノアが慌てて間に入る。


「次頑張ればいいだろ、な?」


「うっ……うん……次は、頑張る……」


 鼻を啜りながら、愚王がそう呟いた。


 その場は、なんとなく「次頑張ろう」という空気で収まったが、カインの中には、釈然としない気持ちだけが、重く残っていた。


(こいつ、絶対次も同じことするだろ)


 その予感は、悲しいほど的中することになる。

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