第二十三話 悪運の強い男
あの話を聞いてから、数ヶ月が経った頃。
「例の件、社内で完全にバレて騒ぎになったぞ」
サイモンが、開口一番、そう切り出してきた。
「ついにか」
「相手の女が、嫁と別れてくれって言い出したらしくてさ。ダニーがそれを断ったら、その女、『私この人と不倫してます』って社内で言い出したんだと」
「うわ、修羅場じゃねえか」
「それだけならまだしも、ダニーの奴、驚いたのか慌てたのか知らないけど、『もうお前にクンニしてやらない』とか言い出して、下品な言い合いになったらしい」
「あいつ、こういう時だけ余計なこと言うよな……」
カインは、頭を抱えるしかなかった。
「つーか、幻のクンニテクは一応本当だったってことか」
「一応そういうことじゃないか?知らないけど」
「で、結果、どうなったんだよ」
「ダニーは、支部の遠いところへ左遷。相手の女は、仕事辞めたって」
「それだけの騒ぎになったら、離婚コースだろ、普通」
カインがそう予想すると、サイモンは、意外そうな顔で首を振った。
「それが、会社側が色々隠したのもあるけど、あの嫁さんだから、そもそも気付いてもいないみたいでさ。夫婦で左遷先に引っ越すらしいよ」
「マジかよ」
「しかも、これ実は、一応ダニーに気を使った上司が、いくつか候補出した中から選んだ場所らしくてさ。嫁さんの地元があったから、そこに決めたんだと」
その話を聞いて、カインは、思わず唸った。
あれだけの騒動を起こしておいて、なぜか上司には気に入られたまま。奥さんにも一切バレず、しかも転勤先まで気を使ってもらえる。
(相変わらず、悪運だけは強えんだよな、こいつ……)
呆れを通り越して、ある種の感心すら覚えるほどだった。
「次の帰省先、嫁さんの実家ってことになるのか」
「まあ、本人がそれでいいなら、いいんじゃねえの」
カインがそう言うと、サイモンも同意するように頷いた。
「にしても、あいつがどこ行っても、この調子で何とかやっていきそうだよな」
「だろうな」
二人は、顔を見合わせ、揃って乾いた笑いを漏らした。
この一件を最後に、カインとサイモンの前から、ダニーの姿は、しばらく見えなくなることになる。




