第二十四話 消えた愚王
ダニーの左遷から、しばらく経ったある日。
「俺、この会社辞めることにした」
サイモンが、そう切り出してきた。
「独立するのか」
「ああ。一人でやってみようと思って」
「そうか」
カインは、特に驚くこともなく、素直にそう受け止めた。長い付き合いの中で、サイモンが仕事に対して真面目に向き合ってきたことは、よく知っていた。彼なら、独立してもうまくやっていくだろうという確信があった。
「じゃあ、もう愚王とは関わりなくなるんだな」
カインがそう漏らすと、サイモンは、少し考えるような顔をしてから、小さく笑った。
「まあ、あいつのことだから、どこにいてもこの調子で何とかやっていくだろ」
「だろうな」
その言葉に、カインも思わず笑ってしまった。
あの新人講習で出会った日から、ずっと振り回され続けてきた。仕事のこと、女のこと、家族のこと、金のこと。数えきれないほどの「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」を聞かされ、そのたびに、呆れながらも付き合ってきた。
それでも、不思議と憎めない部分があったのも、また事実だった。
「まあ、元気にやってんだろ、どうせ」
カインは、そう呟きながら、静かにグラスを傾けた。
この日を境に、カインとサイモンの前から、ダニーの――愚王の姿は、完全に見えなくなった。
連絡が来ることも、噂を耳にすることも、二度となかった。
ただ、時折ふと、あの独特な嗚咽を思い出しては、カインは一人、小さく笑ってしまうのだった。
〈了〉




