第二十一話 お前らのためを思って
賭博場:現代日本でいうパチンコ屋みたいなもの。庶民が気軽に入れる場所。
回胴機:現代日本でいうパチスロみたいなもの。
「そういや、賭博場とか行く?」
ある日の雑談で、カインとサイモンは、お互い回胴機が趣味だという話で盛り上がっていた。
「行こうぜ、今度」
「いいね。趣味合う奴と行くの、久しぶりだわ」
そんな軽い流れで、二人で賭博場に行く約束が決まった。
*
当日、待ち合わせ場所に向かうと、なぜかそこに、呼んでもいないダニーの姿があった。
「……なんでお前がいるんだよ」
カインが、思わずそう聞くと、ダニーは腕を組んで、得意げな顔をした。
「賭博なんかダメだよ! 僕が止める!」
「つーかなんでお前いるんだよ。お前ギャンブル嫌いっていうから誘ってないのに」
カインがそう突き放しても、ダニーは聞く耳を持たなかった。
隣で、サイモンが、疲れたような顔でため息をついた。
「賭博場に行くって話したら、『賭博なんかダメだ、俺が止める』とか言い出して。断り切れなくて、渋々連れてきた」
「僕、二人のこと心配で仕方ないんだよ!」
賭博場に着くまでの間も、ダニーは空気を読まずに、そんな説教じみたことを言い続けていた。
「じゃあ付いてくんなよ」
「お前らのためを思って言ってるんだろ!」
その言い分に、カインとサイモンは顔を見合わせ、揃ってため息をついた。
「趣味なんだから、放っといてくれ」
カインがそう宥めて、ひとまず賭博場に到着した。
回胴機の前に座った二人が、次々と金を溶かしていく様子を見て、ダニーは、店内であることも構わず、大声で二人を止め始めた。
「もうやめようよ! お金なくなっちゃうよ!」
「うるせえ、静かにしてろ」
「静かになんてしてられないよ! 二人とも冷静になって!」
*
周りの客からも、次第に白い目で見られ始めた。耐えられなくなった二人は、勝負を切り上げ、ダニーを引きずるようにして外へ連れ出した。
「お前が嫌いなのは分かってるけど、大声で空気読めないこと言うなよ。他の客もいるんだから」
カインがそう咎めると、ダニーは、急にしんみりとした顔になった。
「実は、僕の親戚に、賭博で身を持ち崩した人がいてさ」
「初耳なんだけど、それ」
「その人、若い頃はすごく羽振り良かったのに、賭博にはまって、最後は家族もバラバラになって……」
「お前、さっきまでそんな話一言もしてなかったじゃねえか」
「言ってなかったっけ」
「言ってねえよ」
「だから、お前らにそうなって欲しくないんだよ!」
「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」
ダニーが、路上で盛大に泣き出した。
「俺ら家族バラバラになるほどのめり込んでないし」
「つーかその親戚が酷かっただけで、俺らと一緒にすんなよ」
「そんなことないって! お前らもそうなるんだって!」
なおも食い下がるダニーに、カインとサイモンは、揃って白けた顔を向けた。
(こいつ、本当に人の話聞かねえな……)
カインは、そんなことを思いながら、いつも通り、深いため息をつくしかなかった。




