第二十話 僕より大事な保険会社
その頃から、ダニーからの保険の勧誘が、目に見えて激しくなっていった。
「ねえ、そろそろ保険入らない? いいプランあるんだけど」
「この前も同じこと言われたけど、俺もう保険入ってるから」
「今回は本当にいいやつだから!」
しつこく食い下がってくるダニーに、カインは、さすがに違和感を覚え始めた。
ある日、サイモンに、それとなく事情を尋ねてみた。
「最近、あいつの勧誘、やたら必死なんだけど、何かあったのか」
「ああ……あいつ、全く契約取れてなくて、首が近いんだよ。それで、やっと必死になりだしたみたいで」
「お前が色々フォローしてたんじゃないのか」
「俺も、単独で仕事任されるようになったから、正直、あいつの面倒まで見る余裕がなくなっててさ」
サイモンが、少し申し訳なさそうな顔でそう言った。
「次についた指導係が、あんまりフォローしてくれない人でさ。契約も取れなくて、社内でも突き上げられてるらしい」
「まあ、自業自得な気もするけど」
「まあ、そうなんだけどな」
*
その話を聞いた数日後、また例の勧誘が来た。
「今度こそ、本当に入ってほしいんだけど」
「俺も、今の保険があって付き合いがあるからさ」
カインがそう断ると、ダニーは、めげずに食い下がってきた。
「じゃあ、二つ入るとさらに安心だよ!」
「いや、何の安心だよ、それ」
ダニーの表情が、目に見えて曇った。
「僕より大事な保険会社がいるとか、おかしいだろ」
「いや、おかしくねえだろ、普通に考えて」
「そんな……」
「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」
ダニーが、盛大に泣き出した。
「泣いたところで、契約はしねえからな」
カインがそう突き放しても、泣き声は収まらなかった。
「僕、このままだとマジでクビになるかもしれないんだよ!」
「だからって、無理やり契約させようとするのは違うだろ」
「分かってるけど……分かってるけど、余裕がないんだよ!」
その切羽詰まった様子に、カインは、少しだけ同情めいた気持ちを覚えた。だが、それはそれとして、契約する気には、やはりなれなかった。
「まあ、頑張れよ、そこは自分の力で」
「他人事みたいに言うなよ!」
カインの素っ気ない励ましに、ダニーは、なおも不満げに泣き続けていた。




