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愚王と呼ばれた男  作者: 中原九尾


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第二十話 僕より大事な保険会社

 その頃から、ダニーからの保険の勧誘が、目に見えて激しくなっていった。


「ねえ、そろそろ保険入らない? いいプランあるんだけど」


「この前も同じこと言われたけど、俺もう保険入ってるから」


「今回は本当にいいやつだから!」


 しつこく食い下がってくるダニーに、カインは、さすがに違和感を覚え始めた。


 ある日、サイモンに、それとなく事情を尋ねてみた。


「最近、あいつの勧誘、やたら必死なんだけど、何かあったのか」


「ああ……あいつ、全く契約取れてなくて、首が近いんだよ。それで、やっと必死になりだしたみたいで」


「お前が色々フォローしてたんじゃないのか」


「俺も、単独で仕事任されるようになったから、正直、あいつの面倒まで見る余裕がなくなっててさ」


 サイモンが、少し申し訳なさそうな顔でそう言った。


「次についた指導係が、あんまりフォローしてくれない人でさ。契約も取れなくて、社内でも突き上げられてるらしい」


「まあ、自業自得な気もするけど」


「まあ、そうなんだけどな」



 その話を聞いた数日後、また例の勧誘が来た。


「今度こそ、本当に入ってほしいんだけど」


「俺も、今の保険があって付き合いがあるからさ」


 カインがそう断ると、ダニーは、めげずに食い下がってきた。


「じゃあ、二つ入るとさらに安心だよ!」


「いや、何の安心だよ、それ」


 ダニーの表情が、目に見えて曇った。


「僕より大事な保険会社がいるとか、おかしいだろ」


「いや、おかしくねえだろ、普通に考えて」


「そんな……」


「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」


 ダニーが、盛大に泣き出した。


「泣いたところで、契約はしねえからな」


 カインがそう突き放しても、泣き声は収まらなかった。


「僕、このままだとマジでクビになるかもしれないんだよ!」


「だからって、無理やり契約させようとするのは違うだろ」


「分かってるけど……分かってるけど、余裕がないんだよ!」


 その切羽詰まった様子に、カインは、少しだけ同情めいた気持ちを覚えた。だが、それはそれとして、契約する気には、やはりなれなかった。


「まあ、頑張れよ、そこは自分の力で」


「他人事みたいに言うなよ!」


 カインの素っ気ない励ましに、ダニーは、なおも不満げに泣き続けていた。

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