第十八話 ぐおうって何ですか
「今度、僕の今の相棒紹介するよ!」
ある日、ダニーがそう言って、カインを食事に誘ってきた。
連れてこられた先で待っていたのは、落ち着いた雰囲気の男だった。
「サイモンです。ダニーには、いつもお世話になってます」
物腰の柔らかい、しっかりした受け答えをする男だった。カインは、こんなまともな人間が、よくダニーの「相棒」などという肩書きに耐えているものだと、内心で感心した。
その日は、三人での食事は、特に大きな問題もなく終わった。
*
問題が起きたのは、その数週間後のことだった。
また三人での食事に誘われていたが、
「ごめん、今日急な用事入って行けなくなった! サイモンとカインの二人で行って!」
通信端末越しに、ダニーからそんな連絡が入った。
「あいつ、急に何なんだよ」
カインがそう漏らすと、サイモンも苦笑しながら頷いた。
「まあ、よくあることなんですよ、彼」
仕方なく、カインとサイモンの二人だけで食事をすることになった。会話を進めるうちに、カインはふと、ダニーの話題を口にした。
「愚王がまた、こういう急な話してくるの、正直参るんですよね」
「……ぐおう?」
サイモンが、聞き慣れない言葉に、怪訝そうな顔をした。
「あ、いや」
カインは、しまったという顔をした。うっかり、いつもの呼び方が口から出てしまっていた。
「ぐおうって、何ですか、それ」
「……まあ、その、ダニーのあだ名です。ウチの会社で働いているときに、いつの間にかそう呼ばれるようになってて」
「へえ。どういう由来なんですか」
カインは、少し迷ったが、隠すことでもないかと思い、素直に説明することにした。新人講習時の挨拶での奇行から始まり、彼の愚かなエピソードが多数あることと、事あるごとに「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」と泣くことを掛け合わせて生まれた、という経緯を。
説明を聞き終えたサイモンは、しばらく黙っていたが、やがて、深く頷いた。
「……すごくしっくりくるあだ名ですね、それ」
「でしょう」
「まさに、その通りだと思います」
そこから、二人の会話は、堰を切ったように盛り上がっていった。
「この前なんて、契約先に僕の代わりに行かせたら、話が全然噛み合わなくて――」
「それ、こっちも似たようなことありましたよ。あいつが仕事任されて、結局僕らに丸投げしてくるんです」
お互いの愚痴が、面白いように噛み合っていく。気づけば、その日の食事会は、当初の予定よりも、ずっと盛り上がった夜になっていた。
この日を境に、カインとサイモンは、すっかり意気投合することになった。二人に共通する話題は、決まって一つ――愚王という、共通の悩みの種だった。




