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愚王と呼ばれた男  作者: 中原九尾


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第十四話 喋らなくていいから

 合コン当日、待ち合わせ場所に現れたダニーの友人を見て、カインは内心で密かに天を仰いだ。


 顔立ちは正直これといった特徴もなく、話しかけても反応が鈍い。背も低く、体を鍛えている様子もない。お世辞にも、モテる要素があるようには見えなかった。


(これを、どうしろと……)


 カインがそんなことを考えているとは露知らず、ダニーは友人の肩を叩きながら、猛烈にアピールを始めていた。


「こいつ、めちゃくちゃいいやつなんだよ! 中身は保証する!」


 その必死さに、カインは呆れを通り越して、ある種の感心すら覚えた。


「なあ、カイン」


 ダニーが、妙に真剣な顔で耳打ちしてきた。


「今日、お前は顔要員だから。喋んなくていいよ。いや、できるだけ喋るな」


「は?」


「女の子の第一印象を良くしたいだけだから」


 あまりにも身も蓋もない役割分担に、カインはやる気を根こそぎ失った。だが、今更断るのも面倒で、仕方なくそのまま参加することにした。


「盛り上げるのは、僕がやるから」



 ダニーがそう宣言した通り、会が始まると、一人でやたらとテンション高くはしゃぎ出した。カインは、言われた通り、極力口を開かないようにしていた。


 結果、ダニーが空回りしていただけで、想像以上に場は盛り上がらなかった。ダニー一人がテンション高く喋り続ける一方、カインはただ座っているだけで、女の子たちも、その温度差にどこか困惑した様子を見せていた。ダニーの友人に至っては、話しかけられても要領を得ない返事しかできず、空気はますます重くなっていった。



 一次会でこの合コンはお開きになるかと思いきや、ダニーが唐突に提案した。


「よし、次はみんなで海行こう!」


「は? なんで海?」


「花火買ってあるんだよ! みんなでやろう!」


「なんで海で花火なんだよ。もっと親密になれる場所、他にあるだろ」


「花火ってロマンチックじゃん!」


 その理屈のよく分からなさに、カインは何も言い返せなかった。


 渋々付き合った海辺での花火でも、状況は変わらなかった。ダニーが一人ではしゃぎ、カインは相変わらず口を挟まず、女の子たちは愛想笑いを浮かべながらも、明らかに帰りたそうな空気を漂わせていた。結局、ダニーの友人は、女性陣の連絡先を一つも聞けないまま、その日の会はお開きとなった。



 後日、カインはダニーにその顛末を、遠慮なく突きつけた。


「結局、お前の友達、連絡先一つも聞けてなかったじゃねえか」


「そんな言い方しなくても……」


「事実だろうが。何のために海まで行ったんだよ、あれ」


「僕も、頑張ったんだよ……」


「お前が頑張っただけで、お前の友達が頑張れる状況が一つもなかっただろうが」


「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」


 ダニーが、盛大に泣き出した。


「頑張った方向が、全部間違ってたって話をしてんだよ」


 カインがそう突き放しても、泣き声は収まる気配がなかった。


(こいつの「頑張る」、いつも見当違いの方向にしか向かわねえんだよな……)


 カインは、そんなことを思いながら、いつも通り、深いため息をつくしかなかった。

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