第十二話 二度と誘わない
ダニーが退職してからも、その連絡は途絶えなかった。むしろ、暇を持て余しているのか、以前にも増して頻繁に誘いが来るようになっていた。
「今度さ、合コンあるんだけど、来ない?」
「忙しい。無理」
「またそれ? いつも仕事仕事って」
「いつもじゃなくて、実際忙しいんだよ、お前も知ってるだろ」
FPCの業務は相変わらず過密で、コンパに付き合っている暇など、カインにはほとんどなかった。断り続けているうちに、ダニーの誘い方も、次第に必死さを増していった。
*
数日後、通話越しに、ダニーが妙に慌てた様子で話しかけてきた。
「あの、こないだの合コンの件なんだけど」
「だから、行けねえって言ったろ」
「いや、それが……もう、イケメン連れてくるって、みんなに言っちゃってて」
「は?」
「お前のこと。イケメン連れてくるからって、もう話しちゃってるんだよ」
カインは、思わず頭を抱えた。
「なんで俺に断りもなく、そんなこと言うんだよ」
「勢いで! その場の勢いで!」
「知らねえよ、そんなの」
「頼むよ! 今更行けませんなんて言えないんだって!」
あいにく、その日はどうしても外せない出張の予定が入っていた。
「無理なもんは無理だ。出張なんだよ、その日」
「そんな……」
通話越しに、ダニーの声が、目に見えて沈んでいくのが分かった。
「マジで、頼むって言ってんじゃん」
「無理なものは無理だっつってんだろ」
「……もういい」
その一言のあと、通話の向こうから、鼻を啜る音が聞こえてきた。
「お前なんか、二度と誘わない!」
「はいはい」
「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」
通話越しでも、はっきりと分かるくらいの音量で、ダニーが泣き出した。
「通話でそれやるのやめろ、耳が痛い」
カインがそう突っ込んでも、泣き声は収まる気配がなかった。
「もう、絶対誘わないから! 覚えとけよ!」
そう言い残し、ダニーは一方的に通話を切った。
(まあ、こんなの、どうせすぐ忘れるんだろうけどな)
通信端末を置きながら、カインはそう思っていた。
その予感は、当然のように、的中することになる。




