第十一話 寂しくないの?
FPC入社から一年ほど経った頃、ダニーが珍しく神妙な顔で、カインに相談を持ちかけてきた。
「あのさ、僕、そろそろここ辞めようかと思ってて」
「まあ、そうだな」
あまりにあっさりとした返答だったからか、ダニーは少し拍子抜けしたような顔をした。
「え、もっとこう、驚くとかないの?」
「いや、驚かねえよ。お前、どう見ても向いてないだろ、この仕事」
「そ、そこまではっきり言う?」
「言うだろ、事実だし。魔法まともに使えたことないし、実技試験も毎回ギリギリだし」
あまりに率直な物言いに、ダニーは少し傷ついたような顔をしたが、それでも食い下がった。
「じゃあ、辞めた方がいいと思う?」
「思う。向いてない仕事、無理して続けるより、さっさと他探した方がいいんじゃねえの」
その言葉に、ダニーは、なぜか不満げな表情を浮かべた。
「……僕が辞めても、寂しくないの?」
「は?」
「その、カイン的には、困らない? 僕がいなくなって」
あまりに予想外の角度からの質問に、カインは一瞬、返答に詰まった。
「いや、別に困らねえけど」
「そんなあっさり……」
「仕事だし、寂しいとか困るとかっていう話じゃないだろ、これ」
「でも、僕らけっこう一緒にいたじゃん」
「一緒にいたのと、仕事続けるかどうかは、別の話だろ」
カインがそう言い切ると、ダニーの目に、みるみるうちに涙が溜まっていった。
「向いてない仕事、無理して頑張るより、さっさと次探した方がいいって」
「ぐお”お”お”お”ぉぉーー」
ダニーが、盛大に泣き出した。
「なんで泣くんだよ、これ」
「だって、カインがあんまりにも、あっさりしてるから……」
「いや、お前が相談してきたんだろうが」
「相談したけど、もうちょっと、引き止めてくれるかと思ったのに!」
「向いてない仕事続けろって言う方が、お前のためにならねえだろ」
カインは、呆れながらもそう言い切った。ダニーは、しばらく鼻を啜っていたが、やがて、渋々といった様子で頷いた。
「……分かった。辞める」
「うん、それがいい」
「でも、辞めても、たまには連絡するから」
「まあ、それは好きにしろよ」
それから間もなく、ダニーは本当にFPCを退職した。手続きは、拍子抜けするほどあっさりと進んだらしい。
この時のカインは、まだ知らなかった。ダニーが会社を辞めたところで、この関係が、そう簡単には終わらないということを。




