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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第105話 コスモとローゼス

 コスモの受けて立つ姿を見たローゼスも、悲し気な顔から勇ましい剣士の顔になっていく。そしてコスモにローゼスの持つ全力をぶつけようとする。


「最後の技は商業都市ウキレアに向かって放つ!止められなければ全てを失うよ!それをコスモ、あんたが止めてみせな!!そして本当に大事な人を守れることを証明するんだ!!」


「こいやぁあああああああああ!!!」


 コスモの力を試すような声をローゼスがかけると、コスモが気合を入れた雄叫びで応える。


 ローゼスが両手に握った剣を背後に隠すように振り上げると、その姿勢を保ったまま剣に力を注いでいく。すると辺りに放っていた青い陽炎の炎が剣に吸収されるように集まり始める。


 ローゼスもコスモと同じ特殊技能【羅刹】を所持していた。そして、今のコスモと同じ【羅刹女の怒り】を発動させて全ての能力値の3倍、威力は必殺の一撃の上限値、通常攻撃の10倍という驚異的な数値になっている。


 その力の全てをローゼスの握る2本の剣に込めようとしていた。力の込められた剣からは凝縮した力が紅色になって輝き始める。その光景はローゼスの背中から大きな薔薇の花が咲くようにも見えた。


「剣奥義【紅薔薇】!!」


 力の全てを込めた2本の剣を大きく交差させるように、全身を使って正面に振り抜く。そこから出現した斬撃は真っ赤な紅色の車輪のような形をしていた。車輪の外側は炸裂する輝きを放ちながらコスモに迫る。


 最初は小さな車輪だったのが、距離が進むにつれて大きく膨らむと商業都市ウキレアの南門全体を覆う大きさに変化する。


 速度は誰の目でも追えるが、それが逆に迫りくる恐怖感を増していた。真っ赤に煌々と輝きながら、薔薇の花びらのような光の粒子を辺りに散らし、力強く迫ってくるのだ。


 ローゼスの言う通り、最終奥義として遜色の無い威力が込められていた。


 その巨大な斬撃がコスモの目の前まで迫って来る。コスモが慈愛の盾を地面に突き刺し支えにすると、重心を落として踏ん張る。


 そしてコスモが大きく息を吸込み、自分持つ最大の盾奥義で、最高の防御力を誇る技を繰り出す。


「盾奥義【羅城門(デモンズゲート)】!!」


 以前、ロンフォード領の騒乱で、破壊された門の代わりに使用した盾技【大手門(メジャーゲート)】と特殊技能【羅刹女の怒り】が組み合わさった、コスモの最上級の技である。


 盾の正面には、大きな観音開きの門を構える巨大な楼閣がピンク色のオーラで出現する。その大きさはウキレアの南門の全てを覆うほどの大きさだ。


 その羅城門にローゼスの放った紅薔薇が触れた瞬間、辺りに衝撃による強風が巻き起こる。接触した部分は金属同士が物凄い回転を維持した状態で、ぶつかるような火花に似た輝きを見せる。


 それを見たローゼスが呆然とした顔で立ち尽くしていた。


「そ、そんな、まさか……あの人が使っていた盾奥義じゃないか……なんでコスモが……」


 自分の剣奥義、紅薔薇が防がれたことよりもコスモの使用した盾奥義、羅城門に驚きを見せていた。かつてローゼスと出会った人物に、同じ奥義を得意としたアーマー職の男が居たからだ。


 ローゼスはその男のことを思い出し体を震わせていた。


 するとローゼスの手に握っていた2本の剣の刀身にひびが入り、粉々になって地面に落ちていく。ローゼスの剣奥義、紅薔薇はその絶大な威力を代償に剣が持たないという欠点があった。


 コスモと同じく、ローゼスにも自身の力に見合うだけの強度を持った剣が無いということになる。


 ローゼスの視線の先で、コスモが羅城門で必死に紅薔薇を抑え込んではいるが、徐々に足元と盾が後方へと押し出され始める。


「じ、慈愛の盾が無ければとっくに終わっていたが、盾があってもこの威力かよ!!」


 コスモの全力を以ってしても紅薔薇の威力は止まらない。羅城門で出現した巨大な楼閣の門も、軋みながら凹むような形状に変わっていく。その軋む音がまるで心の苦しみを訴えるような声にも聞こえてくる。


 コスモの抑えていた紅薔薇の斬撃が少しずつウキレアの南門に迫ると、城壁の上に居たリフィスが大きな声で兵士達に退避するように指示を出す。


「皆、南門から離れるんだ!さあ、エーシン先生も早く!」


 指示を聞いた兵士達が慌てて城壁の階段を下りて退避していくと、リフィスがエーシンにも手を差し伸べ、逃げるように促す。


 しかし、エーシンが城壁の縁をしっかりと掴み毅然と拒否する。


「コスモは拙僧達を守ろうとしているのだ!ならば、拙僧もコスモの軍師としてこの戦いを最後まで見届けねばならぬ!」


「エーシン先生……」


 エーシンのコスモを見守るという強い決意を感じると、リフィスも退避することを諦めて隣に立つ。


「じゃあ、ウキレア公国の王として僕もコスモの戦いを見届けないといけませんね」


「……ふふっ、お主も大馬鹿者よのう」


 ウキレア南門で2人が見守る中、巨大な紅薔薇の斬撃が目の前に迫っていた。コスモも踏ん張り紅薔薇を防いではいるが、それでも全身が押し込まれていく。


 コスモが後ろを確認すると、南門の仮設の橋が見えて来る。


 バルドニア王国が南門を攻めるためにかけた仮設の橋で、土台が簡単に造られていた。とてもじゃないがコスモの踏ん張りに耐えられる構造では無い。


 それが分かったコスモに焦りが出て来る。


「く、くそっ!!このままじゃ、ウキレアが……皆が……」


 この時コスモは、リフィスと一緒になってスーノプ聖国やリンティス魔導公国に向かったことを思い出していた。国の王達は様々な事情を抱え、時には反発する者と決闘も行い、時には一緒になって訓練をして、色々な人と出会って来た。


 そして【無能のリフィス】、そう呼ばれていたリフィスが勇気を出して新生ウキレア公国を興す。劣勢を承知で、スーノプ聖国やリンティス魔導公国との公約を守り、同盟を組むまでに至っていた。


 その同盟軍も北方ではスーノプ聖国が、西方ではリンティス魔導公国がウキレアと同様に、奪われた領地を取り戻す為に戦いを繰り広げている。


 もし、ここで自分がウキレアを守り切れなかったら、リフィスの最終目的である北方連合国の平和は永遠に訪れない。


「この俺が諦めるわけには……いかねえんだーーーーっ!!」


 そう思うとコスモの心の奥底から力がみなぎり始める。体から出現させていた青い陽炎の炎が一気に天高く噴出する。だが、その炎はいつものように天に向かわず、羅城門の門が吸収を始める。


 この現象は初めてで、コスモが驚いた顔で羅城門の門を見上げる。


「お、俺の【羅刹】の炎を吸収してるのか?まるでローゼスさんの放った紅薔薇みたいな……」


 ローゼスが特殊技能【羅刹】を剣に込めたように、同じくコスモの【羅刹】を盾奥義の羅城門の門が溜め込み始める。


 以前、コスモが盾奥義の羅城門を試した時は、そんな現象は起きていなかったが、特殊技能【慈愛】によって羅城門の追加効果が発動していた。


 過去にもこの追加効果を発動したアーマー職の男が1人居た。その男は追加効果のことを【観機応変】と呼んでいた。


 観機応変の発動条件は、羅城門を具現化した者が相手の放った技を受けた時に発動する。


 効果は技に込められた喜怒哀楽を汲み取り、相手に見合った対処を行うというものである。その効果も盾の使い手の力量が高ければ比例して強くなる。 


 コスモの体から放っていた全ての青い陽炎の炎が門に収まると、門が突然大きく開き始める。


「な、なんだこりゃ……」


 門の中から現れたのは、薄らと見える霧状の巨大な逞しい両腕であった。使用者のコスモも驚き見つめていると、その両腕が紅薔薇の斬撃を白刃取りのように抑え込む。そしてその圧倒的な力で羅城門を押し込んでいた、斬撃の勢いを徐々に押し返す。


 そして霧状の手から紅薔薇に込められた想いが、霧状の腕を通って持ち主へ伝わっていく。


 その想いを具現化した腕の持ち主の顔が、暗闇の門の中からぬっと出て来る。頭には長い髪が、その隙間から角が生えているが、表情は悲しみを見せていた。


 顔は鬼のように恐ろしくも、我が子を失ったような悲し気な哀愁が漂う女の顔である。それを南門の上で見ていたエーシンが目を大きく見開く。


「あ、あれは東の国の鬼子母神のような顔……だが、それとは違う慈しみの心を感じる……」


 鬼子母神は東の国では神の1人として祀られている。木彫りの像で作成されており、羅城門から出て来た女の顔と酷似していた。ただ、鬼になり切れない、人としての心がまだ残ったような表情をしている。


 すると、白刃取りで抑えていた紅薔薇の斬撃を力強く掴み込むと、ゆっくりと左右に引き裂き始めていく。霧状の腕が力を一気に込めると、見事に車輪の形をした斬撃を真っ二つに引き裂く。


 そして巨大な腕を大きく開いて軌道を変えると、掴んでいた斬撃を手から離してウキレアを避けるように飛んで行く。再び勢いを増した斬撃が遠くに見える北の山の方まで飛んで行くと、山の中腹にぶつかり大きな粉塵を上空高くまで舞い上げる。


 山裾が大きく削られ、三角の形をしていた山が削られた方向へと傾き、山の形を変える。


 そして霧状の顔と両腕が役目を終えたように門の中に戻り、門がゆっくりと閉まって行く。その光景をコスモとローゼスが呆気に取られながら静かに見守っていた。





 ちょうどその頃、北の村の山賊の襲撃に対応していた冒険者のフィオーレやセルシル、応援に来たイカルス達が商業都市ウキレアの北門に向かって街道を歩いていた。


 前日に北の村に向かっていたイカルスを含む冒険者達が、山賊のドルフを捕らえウキレアに帰還中のフィオーレ達と遭遇していた。そこで山賊が全滅したことを聞いて、一緒にウキレアへ引き返していた。


「しかし、俺達が駆け付ける前に100近い山賊共を全滅させるとはね……さすがフィオーレと言ったところかな」


「全然違うってイカルっち、私じゃなくて後ろを歩くラルガー達がやったの!」


 そう言われたイカルスが後ろの方を振り向くと、返り血で汚れたラルガーと山岳部族の戦士達が見える。妙なお面を付けながら凄い殺気を放ち辺りを警戒していた。


 フィオーレ達と合流した際、その異様な姿に冒険者達とラルガー率いる山岳部族が一触即発になりかけたが、フィオーレとビトーネの説得によってどうにか収まっていた。


 イカルスが恐る恐る視線を戻すと、改めてフィオーレに確認を取る。


「フィオーレ、本当にあの人達は大丈夫なんだろうな?山賊よりも怖いぞ……」


「あははは、大丈夫大丈夫、あの人達、コスモの信者だから、コスモの友人なら絶対手を出さないから」


「はあー……こんなところまでコスモ守られてると考えると、英雄級冒険者として情けなくなるよ」


 イカルスが頭を抱えて落ち込んでしまう。あれだけ見栄を切ったのに、コスモに守られていることを情けなく思っていた。


 そのイカルスの反応とは逆に、他の冒険者達はすぐにラルガー達と打ち解け始めていた。実力こそ冒険者の全て、強いラルガー達が歓迎されるのは自然なことである。


 大きな犠牲者も無く、山賊による襲撃も事前に止められたことで、明るく会話をしながら道を進んでいた。


 そこへ突如、紅薔薇の斬撃が現れると上空を過ぎ去って行く。そのまま遠くの山まで飛んで行くと凄まじい衝撃音が聞こえて来る。冒険者達は何が起こったのか分からず慌てふためく。ラルガー達も敵襲と勘違いして武器を構える。


 しかし、フィオーレだけは斬撃の形状と勢い、威力を見て誰のものなのかすぐに分かった。そして飛んで来た方向が商業都市ウキレアが決定打となると、フィオーレの顔が真っ青になる。


「わ、私の師匠だ……師匠がウキレアに来てる!」


「え?今の紅色の斬撃が、フィオーレどんのお師匠様だっぺか?」


 相棒のセルシルが斬撃にとまどっていると、フィオーレがセルシルの騎乗していた愛馬、宝船の後ろに飛び乗る。


「セルシル!急いでウキレアに向かって!もしかしたら、師匠とコスモが戦ってるかも!」


「わ、分かったっぺ!宝船!急ぎで頼むっぺよ!」


「ヒヒーン!」


 宝船が大きないななきで応えると、一気に速度を上げてウキレアを目指して走って行く。





 その頃、商業都市ウキレアの南門前では、コスモとローゼスの一騎打ちが終局を迎えようとしていた。


 ローゼスの剣奥義、紅薔薇を受け切ったコスモが、魔剣ナインロータスと慈愛の盾を構えたまま、下を向いて息を荒くしていた。


 盾奥義、羅城門は【体力】を大きく削る技で、並の【体力】では出現させることはできない。その分、羅城門は強固で神の一撃すらも防げる【守備】があった。


 肩で息をするコスモに対して、ローゼスは悲し気な顔で想いに浸り目に涙を浮かべていた。その涙を指で拭うと、静かにコスモを見つめる。


 ボロボロの姿のコスモと剣を無くしたとは言え、息も切らさずに平然としているローゼス。どちらが勝者なのかと言われれば、平然としているローゼスの方だと多くの者は思ってしまう。


 だがローゼス本人は違っていた。すっきりとした顔になってコスモに声をかける。


「コスモ……見事だったよ」


「はあはあ……ありがとうよローゼスさん」


「あんたは私の知る中で一番最高の【ソードアーマー】だよ」


「剣聖ローゼスにお墨付きをもらえるなんて、俺も光栄だ」


「コスモ、あんたがもしあの時居てくれたら……」


 ローゼスがそこまで言いかけると、口を止め顔を横に静かに振る。


「……歩くのも大変だろ、肩を貸すよ」


「すまない……ローゼスさん」


 そう言うとローゼスがコスモに寄って行くと、肩を貸してウキレアの南門に向かって歩いて行く。


 その行動に新生ウキレア公国のリフィスも、バルドニア王国のレイドリアも勝負の結果がどうなったのか分からず、困惑の表情を浮かべている。


 ウキレアの南門が開き、コスモとローゼスが一緒になって入ると、待機していたレイドリア将軍の伝令兵に、ローゼスが勝負の行方を伝える。


「あんた、レイドリア将軍に伝えておくれ、ローゼスはコスモに敗北しましたってね」


「え?いやしかし、どう見ても勝者は……」


「私が勝敗を決めたんだ!とっとと伝えて来な!それともし、約束を反故にするようなことがあれば、あんた達の首を全て落とすよ!!」


「ひっ!わ、分かりました!!」


 半ば脅された伝令兵が、急いで馬を走らせてウキレアの南門を出て行く。隣で聞いていたコスモも、自分が勝ったとは思っていなかった。


「この勝負はどう贔屓目に見ても引き分け、というか俺の負けじゃねえのかローゼスさん……」


 コスモの言葉を聞いたローゼスがキョトンとすると、大きな笑い声を上げる。


「あはははははは!本当に素直な子だね。だけど、この勝負は剣の勝負、あんたには剣がある、私には無い。剣聖って言われる者がそんな有様じゃあ勝者とは言えないね!」


 上機嫌なローゼスの言葉を城壁の上から聞いていたエーシンが、再度確認を取る。


「では、コスモの勝ちということで良いのだな、剣聖殿」


「私に二言は無い、この勝負、コスモの勝ちだ」


 この言葉を聞いた周りに居た兵士達が、お互いの顔を見合わせると大きな歓声を上げる。手に持っていた武器を捨て、付けていた兜を取り外すと空に投げ、お互いに抱き合い勝利を喜ぶ。


 その歓声は一気にウキレア中に駆け巡り、コスモがウキレア攻防戦の終戦を決めたことが伝わって行く。


 リフィスも強く拳を握り込み、小さくガッツポーズを取ると、ウキレア攻防戦の勝利の実感が湧き始める。そして顔を上げると南門の上から、兵士達に向かって勝利の宣言を行う。


「皆、苦しい戦いだったけど、それもようやく終わった。しかも、勝利という形でだ!!」


「「「おおー!!」」」


「これで北方連合国は、新たな時代を迎える!これからも皆の力が頼りだ、この僕に力を貸してくれ!」


「「「おう!!」」」


 リフィスの声に兵士達が腕を上げて、力強い声で応える。こうしてウキレア攻防戦が終わりを迎える。新生ウキレア公国のリフィスが勝利したことで、北方連合国の同盟軍は一気に勢いを増していく。


 長期戦を覚悟していたこの戦いも、コスモの活躍とリフィスを周りで支える者達によって、短期に終息が出来た。これは犠牲者も少なく済み、戦力が温存されたということになる。


 リフィスは心の中で、商業都市ウキレアを守り切れたことに安堵するのと同時に、次にやるべきことに目を向けていた。


 ウキレアの町中が歓喜に沸く中、北門の方向からウキレアの大通りを駆け抜けて来たフィオーレとセルシルが南門に現れる。


 フィオーレが師匠であるローゼスの姿を確認すると、セルシルに馬を急停止させて飛び降りる。


「し、師匠!やっぱり来てたんだね!」


「ああ、相変わらず元気そうだねフィオーレ」


「お願いだから、コスモとの勝負は止めて!コスモも強いけど師匠はもっと強い!2人が戦ったら絶対に無事にすまないって!」


 フィオーレが必死にローゼスとコスモの一騎打ちを止めようと説得するが、隣にいたボロボロの姿のコスモが目に入る。


「あ、あれ……コスモ、もしかして……」


「もう、やりあった後だよフィオーレ。心配してくれてありがとうな」


「し、心配なんかしてないしー!ただ、ちょっと師匠に挨拶しただけだしー!」


 コスモがにっこりと笑って応えると、フィオーレが顔を真っ赤にさせて慌てて顔を逸らす。フィオーレはコスモとローゼスの戦いを止めたい一心で、コスモの姿に気付いていなかった。


 同じくそれを見ていたローゼスが、笑いながらフィオーレに声をかける。


「あはははは!フィオーレも変わんないねえ。まあ、それは良いとしてだ、どこか静かに酒を飲める場所はあるかい?」


「そ、それだったら私が案内出来るけど……」


「俺の事なら気にするな、久しぶりの師匠と存分に語り合ってこいよフィオーレ」


 フィオーレがコスモの容態を気にかけて遠慮気味になると、コスモが久しぶりの師弟同士、水入らずで話せるように送り出そうとする。


 しかし、ローゼスはそう言う意味で聞いた訳ではなかった。


「何を言ってるんだいコスモ、あんたと飲みたいんだよ。色々と聞きたいこともあるしね」


「えっ……俺と?ってローゼスさん!」


 困惑しているコスモの腰にローゼスが腕を回すと、フィオーレの案内で仕事斡旋所に併設されている酒場へ向かう。戦い終えた後だと言うのにボロボロの姿で強制連行されることになった。


 その状況を見ていたエーシンもリフィスも、相手が剣聖ローゼスだと止めようがない。成すがままにされるコスモを見送るしか無かった。鍛冶師のミリットも物珍しいものが見れると感じ、こっそりと後を付けて行く。





 フィオーレの案内した仕事斡旋所の酒場の1階には、北の村に向かった冒険者達が戻って来ていた。


 緊急依頼の北の村の山賊討伐については、フィオーレが仕事斡旋所の所長に事情を説明する。そして緊急依頼の報酬は、ラルガー率いる山岳部族の厚意もあって手柄を譲られた冒険者達に均等に配られていた。


 その報酬を元手に冒険者達も椅子に座って酒を楽しんでいたが、普段に比べて静まり返っている。


 原因は酒場の2階にある個室に剣聖ローゼスが居たからだ。


 すでに冒険者達にもウキレアの兵士達から、人とは思えないコスモとローゼスの一騎打ちを聞かされていた。それに剣聖ローゼスの名を知る冒険者も何人か居る。


 腕に自信のある冒険者達なので、嫌でも緊張感を感じてしまうのは仕方の無いことであった。


 酒場の個室ではコスモとローゼス、フィオーレの3人が椅子に座り机を囲んでいた。外から見ればローゼスが中心とした反省会のようにも見える。


 誰も喋らない静かな状況が続き、何とも言い難い雰囲気の中で給仕の若い女が入室すると、震えた手で机の上にエールを2つ、ラガーを1つを置いていく。


 そして扉の前で一礼すると、慌てて扉の外へ出て行く。


 無言のままローゼスがエールの入った木製のジョッキを手に取って、一口飲むと小さく溜め息を吐く。それをコスモとフィオーレが、ご機嫌を窺うように見上げていた。


 ぎこちない2人に気付いたのか、ローゼスがエールを置くと本題に入って行く。


「そんなに緊張しなさんなコスモ、私が聞きたいのはあんたの使った盾奥義の【羅城門】についてだよ」


「ああ、あの盾奥義か……」


「なんで使えるのか、いつから使えるようになったのか教えてはくれないかい?」


「まあ、そんなことで良ければ……」


 そこからコスモが羅城門が使えるようになった経緯を話していく。


 コスモが日課の鍛錬で、盾技の大手門(メジャーゲート)を練習していたところ、偶然にも羅城門が出現したのだ。アーマー職の最高峰の1つとも呼ばれる奥義なのは、噂でコスモも知っていた。


 そして盾技、大手門の上位の技だと思い込み、その効果をより広範囲に渡って防げる盾奥義だと思っていた。


 なので自分の持つ特殊技能【羅刹】の青い炎の陽炎が吸収されたのは予想外の出来事であった。そのことをローゼスに説明すると疑う事無く信じてくれる。


「そうかい……」


「あの盾奥義はローゼスさんと何か関係あるのか?」


 羅城門について聞かれたら、今度はコスモがその理由に興味を持つ。質問を受けたローゼスが目を静かに閉じると、諦めたかのように息を吐き鋭い目を開く。


「……あの羅城門は、私の旦那が得意としていた盾奥義なんだ」


「ローゼスさんの旦那さんってアーマー職だったんだ……」


「しかも、ただのアーマー職じゃないよ。バンディカ帝国一の【インペリアルアーマー】さ」


 その話を聞いたコスモが、帝国に居るアーマー職について思い返す。帝国一と言うならばコスモも耳に挟んでいる筈なのだ。だが、思い当たる節が無い。


 そこで誰か気になったコスモが【インペリアルアーマー】の男の名について尋ねる。


「それで、その【インペリアルアーマー】だった人の名は?」


「名はストレ、私が生涯で唯一愛した大事な人だよ」


 ストレという名を聞いたコスモが、また考え込み始める。今まで一度も会ったことは無いが、なぜかストレという名に聞き覚えがあった。顔に汗を流し、唸りながら両腕を組んで考え込む。


 そんなコスモを無視してローゼスが語り続ける。


「私には3人の恩人が居る、1人は生き方を【踊る】を教えてくれた曲馬団のゼビア団長、1人は戦い方を教えてくれた【インペリアルソードマスター】のシャイラ、そして最後の1人が人の愛し方を教えてくれた【インペリアルアーマー】のストレ、私の旦那さ」


「そうだったんだ、師匠の師匠がシャイラさんっていうのは聞いてたけど、【踊る】にも師匠が居たんだ!」


「フィオーレにもそこまで話して無かったね。だけど、今挙げた3人はもうこの世には居ない、良い奴ほど早く居なくなるもんなんだ……」


 話し終えたローゼスが悲し気な顔で視線を落とすと、フィオーレもつられて気を落とす。ローゼスを支えてくれた恩人達は全員この世を去っていた。


 何時の世も、人の助けになる善良な者ほど早く亡くなってしまうものである。ただし、シャイラは森の魔女の呪いによって、女として生存していたことをローゼスは知らなかった。


 そんな雰囲気の中でコスモが大きな声を上げて思い出す。


「あっーーーー!!ストレって!!まさか、森の魔女の息子さんで、上皇アインザー様の側近をしていた!」


「あ、ああっ、そうだよコスモ、森の魔女のアンナさんは私の義母さ、とは言っても結婚式の後で一度しか会っていないけどね……」


 ようやくストレという名の持ち主が何者かをコスモは思い出した。


 過去にアインザーが引き起こした神器の継承者の抹殺未遂事件、【アウロポリスの変】で神器の継承者達を庇い、アインザーの放った上級魔法【マグマメティオス】の盾となって亡くなった【インペリアルアーマー】の名である。


 そして森の魔女と呼ばれるアンナの子、ストレはローゼスと結婚していたのである。


 その森の魔女アンナの作製した万能薬によってコスモ、いやモウガスは命を救ってもらい、男の姿から女の姿になっていた。それと同時に、英雄級を超えた異常な能力値と技能を身に付けていた。


 この因縁めいた関係性に、コスモは口元を抑え信じられない顔になる。自分の名声によってローゼスが興味を持って一騎打ちを挑んできたのも、偶然ではないような気がした。


 そしてコスモは以前からストレの名を聞いていたが、どんな男だったのか知らない。


「あ、あのローゼスさん、ストレってどんな人だったんだ?」


 そうコスモが質問した瞬間、ローゼスの顔が緩み機嫌が良くなっていく。


「そうかー、コスモも聞きたいかー?凄く良い男だったぞー?根菜のヘタのような緑色の髪型に、熊のように大きな筋肉質な体、もう人を守るように生まれてきたような男だったぞ」


「えーと、師匠……それって本当に良い男なのかな……」


 話を聞いていたフィオーレが、言葉通りにストレの姿を想像して率直な感想を述べようとすると、ローゼスの姿が椅子から消える。


 次の瞬間、フィオーレの背後にローゼスが立っていた。首元にはフィオーレから奪ったレイピアが添えられていた。その時のローゼスの表情はコスモと一騎打ちした時よりも殺気が込められていた。


「それ以上言ったら、フィオーレ、弟子のあんたでも容赦しないよ……」


「いっ、いやーストレって人も力強そうで頼もしそうで包容力がありそうで羨ましいなー!」


「だろう、ストレは最高の男さ!」


 フィオーレがこれ見よがしにわざとらしく意見を180度変えると、機嫌を良くしたローゼスがレイピアをフィオーレの鞘に戻して再び椅子に座る。


 そのようすを見ていたコスモが、剣聖ローゼスの恐怖政治による我がままの行使に呆れていた。だが、ローゼスの話してくれたストレの特徴に似た誰かを思い出す。


 そう、それがコスモになる前のモウガスの姿に酷似していた。そしてローゼスの持つ特殊技能【羅刹】も自分と同じ技能である。そうなると、コスモも自分の生い立ちにローゼスが関係しているのではと思い始める。


「そ、そのストレとローゼスさんの間に子供は居たのか?居たとしたら男の子だったりしないか?」


 ローゼスがコスモの言葉を聞いて、変なことを気にするんだなと言った呆気に取られた顔になる。すると、表情を暗くして子供について話を始める。


「変なことを気にするんだね、確かに子供は居たよ。可愛い女の子さ」


「お、女の子か……」


 もしかしたらローゼスが自分の母親だったのかもしれないと思ったが、子供が女の子ならば自分はローゼスの子では無い。


 コスモもその事実に少しだけ落ち込んでいると、ローゼスが椅子から立ち上がって、コスモの側まで近寄る。そしておもむろにコスモの顔をペタペタと触り始める。


「しかし、コスモは本当に不思議な子だね。こんなに私に似ているんだからさ」


「ひょ、ひょうはは?」


 ローゼスがコスモのほっぺを両側から抑え込みながら、じっと見つめてくる。そしてぱっと離すと、似ているだけであることを説明する。


「もし、私の子が生きていれば今頃は良い年したおばさんになっている。コスモ、あんたみたいな若い子じゃないさ」


 コスモの見た目は年若い女の姿である。モウガスの時の年齢はローゼスの子と同じ年齢になるが、子供は女の子なのでその可能性も無い。


 そして最もその可能性が無いことはローゼス自身も知っていた。


「それに私の子は、亡き者にされているからね……」


「そ、そうだったのか……」


 ローゼスが自分の子供を失ったことを告白する。コスモも悪いことを聞いてしまったようで、後ろめたい気持ちになる。こうなってしまったら、どんな理由で亡くなったのかも聞き難い。


 しかしそんな告白にも関わらずローゼスの表情は明るかった。


「でも、私は1人じゃない、娘みたいな馬鹿弟子も居るし、コスモ、あんたも居る。同じ技能に同じ技、私にとっちゃ同じ娘みたいなもんさ」


 どうやらコスモの持つ技能と技にローゼスは親しみを感じていたようだ。同じ技が出来るというのは、師弟の世界でも親子の関係と同じ意味もある。恐らくフィオーレのことも、ローゼスは亡くなった子と重ねて見ているのだろう。


 ローゼスはコスモに顔を近付け、嬉しそうに見つめる。


「もし娘が生きていたら、あんたみたいな生意気な子になってただろうね」


「ローゼスさん……」


 実の親でなくても、こうも親しみを持って言われるとコスモもローゼスを実の母親のように思ってしまう。孤児院で天涯孤独の身として育ってきたコスモにとってローゼスの言葉は嬉しかった。


 ローゼスが自分の椅子に戻って、エールの入った木製のジョッキを持つと一気に飲み干す。


「ぷはー!だから、私はバンディカ帝国が大っ嫌いなのさ!グーラグラン王国に世話になっていたのも、愛するストレが亡くなる原因を作ったアインザーのクソ爺のせいだからね!」


「だからローゼスさんはバンディカ帝国から離れたのか……」


「そうさ!そして【アウロポリスの変】で神器の継承者と私を守った時にストレが使っていたのが、盾奥義の羅城門なんだよ。コスモのと違って門から出て来たのは、角の生えた涙を流した悲しそうな顔だったけどね……」


「悲しそうな顔……か……」


 既視感のある台詞にコスモが顔を歪める。ローゼスの台詞は、森の魔女アンナが酔った時に言っていた台詞とほとんど同じである。どこに行ってもアインザーは嫌われているのだなと同情してしまう。


 だがコスモはアインザーを悪くは考えていない。少しだけスケベなところがあるが、常に国民のことを考えて動いているし、何より自分を引き立ててくれた恩人でもある。


 今、聞いた話でもストレの使用した羅城門から悲しい顔が出たと言っている。【ブラックオーブ】によって操られて自分の意志とは関係なく、上級魔法のマグマメティオスを放ったことをアインザーの本心が悔やんでいたようにも思える。


 アインザーとローゼス、どちらもコスモにとって、今や欠かせない大切な友人である。そんな友人同士がいがみ合うのはコスモの望むことでは無い。亡くなったストレもそう思っているはず。


 愛する者を守り、間違った行動を取った主君を止めた男なのだ。きっとコスモと同じ気持ちである。


 それに【アウロポリスの変】から40年が過ぎている。お互い歩み寄って許し合うことはできないのだろうか、コスモはそう考えていた。


 するとローゼスがエールが空になったジョッキを握り締めて立ち上がる。


「さて、個人的に聞きたい話は聞いた。後はコスモ、フィオーレ、あんた達の友人達に挨拶でもしようかねえ」


「え、ええっと師匠、それは皆が怖がるから止めた方が……」


「そんな不届き者が居たらあんたのレイピアを借しな!私が教育してやるよ」


「む、無茶苦茶な人だなあ……」


 相変わらずの恐怖政治の宣言をするローゼスに、コスモとフィオーレが困り果てていた。そんな2人を無視してローゼスが個室を出ると、1階の酒場へ向かって階段を下りていく。

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