第102話 ウキレア攻防戦その3
一方、バルドニア王国の中央軍の本陣では、会議用の天幕で軍議が開かれていた。
「なんで、あのコスモがペガサスに騎乗して上空に現れるのだ!」
竜騎士部隊の報告を聞いたレイドリアが机を叩き、予想外の敵に怒りを表す。何度も上空の突破を試みるも、コスモとペガサスのサジーの異常な機動力によって潰されたと報告が上がっていたからだ。
中央軍は竜騎士部隊が最も多く編成されている。その総数500騎を抱えているが、すでに100騎近くがコスモの迎撃を受けて重傷になって脱落している。
主人を失った飛竜は基本的に、自分の主人以外を乗せない習性があった。そうなると飛竜はただ餌や水を消耗するだけの存在となる。それも空を自由に翔る【ドラゴンライダー】の代償とも言えた。
それに元々レイドリアは、空と地上の軍の連動で商業都市ウキレアを落とすことを作戦として立案していた。それが出来ないとなると根底から作戦を考え直すことになる。だが、食料が少ない今、そんな時間は残されていない。
ならば、陽動部隊を送りウキレアから戦力を奪えば良いとレイドリアは考える。
「こうなっては仕方あるまい。陽動として陛下の子飼いの賊共に村を襲わせよう」
「良いのかレイドリア将軍、例えウキレアを落とせたとしても、税を取る村を潰してしまっては、旨味が減ってしまうのでは?」
「オジール様、ここで負けてしまっては税も何も無いのです。この際、どんな手を使ってでもウキレアを落とさねばなりません」
「……止むを得んか、死傷者こそ少ないが、数日は動けぬ兵が増えている。これでは食料もいずれ底をつく」
バルドニア王国の中央軍の残りの食料は2週間分を切っていた。大軍を擁し楽に勝てる戦いだと高を括っていたが、一番の自信を持っていた竜騎士部隊が空中戦で敗北、制空権を得られないのが最大の誤算だった。
すでに昨晩にウキレアの捕虜となった兵士達から、節約して出された食事に不満の声が出始めている。
こうなれば、士気に影響が出て城攻めどころでは無くなる。今以上に強硬な手段が必要になる。それがウキレアに最大の損害を与えつつ、味方の食い扶持を減らす方法である。
レイドリアが側近を呼び寄せ、ある兵器を準備するように指示を出す。
「良いか、明日は竜騎士部隊を全てを投入する。1騎でも良いから必ずウキレアの上空に辿り着き、あれを上空から使うのだ」
「は、はい……しかしレイドリア将軍、あの兵器は制空権を得られないと味方にも被害が……」
「だから良いのではないか、重傷で居られるよりは我が軍の役に立つ」
「はい……早速、準備をしてまいります」
レイドリアの命令を受けた側近が天幕を出る。
「リフィスの奴め、重傷者を増やし我が軍の食料を減らそうなどという小細工は通用しないことを教えてやる」
エーシンとグストが狙っていた、重傷者を増やし食料の消費を早める作戦にレイドリアは早期に気付いていた。その手で来るならばと、見せしめになるような手段を取ろうとしていた。
こうして軍議も終わり、レイドリアを含む、各部隊の隊長達が天幕を出て行く。
~
翌日の朝、ウキレア攻防戦の3日目、日が昇るとバルドニア王国の兵士が商業都市ウキレアの全ての門に殺到する。昨日に比べて、バルドニア王国の勢いが凄まじい。
昨日の戦いでバルドニア王国の中央軍に重傷者が増えてはいるが、まだ圧倒的にバルドニア王国の戦力が上である。
城門では昨日と同様に激しい攻防戦が繰り広げられ、城壁の上から必死にウキレアの兵士達が抵抗をしている。
上空はコスモがペガサスのサジーに騎乗して、竜騎士部隊を警戒している。
その戦いの最中、ある村から馬に乗った村人が訪れて来る。比較的、敵兵の少ないウキレアの北門を隙を見て突破を試みようとすると、マーシャとイリーナ、ガリオンが気付き、それを空から助ける。
無事に北門の脇門からウキレアに入れた村人が、身の回りの検査をしようと近付いたウキレアの兵士に掴みかかる。
「た、大変です!100人規模の山賊団が移動しているのを見ました!ど、どうかお助けを!」
「落ち着け、一体何があった?」
村人の男は顔面蒼白で、そのようすに兵士達も只事では無いことを感じ取る。兵士達が村人の話を詳しく聞くと、急いで仕事斡旋所と南門に居るリフィスに使いを送る。
仕事斡旋所では駆け込んで来た兵士から依頼を聞いた受付嬢が、驚いた表情で立ち上がる。山賊が100人となると、只事ではない。
「す、少しだけお待ち下さい!」
受付嬢が慌てて所長のいる2階の所長室に小走りに向かって行く。所長が慌てた受付嬢を見て、落ち着くように諭すと詳しい事情を聞く。
「なるほどな、この戦争を利用して村を襲うって魂胆か」
「どうしましょうか!所長!」
「状況が状況だしな、野郎共には無理にでも行ってもらうしかないな。これでウチの仕事斡旋所の蓄えもパーだな!はははは!」
「わ、笑っている場合じゃありませんよ!所長!」
大笑いをした所長に受付嬢が注意すると、所長がおもむろに立ち上がり所長室を出て行く。仕事斡旋所の2階から1階に居る冒険者に向けて緊急依頼を出す。
「おい、お前ら、100人規模の山賊団が北の村に向かっている。一人頭、金貨1枚を俺の権限で保証する!だが、周りはドンパチやってる最中だ!それでも構わねえ奴だけ行ってくれ!」
仕事斡旋所の酒場でその話を聞いた冒険者達が色めき立つ。山賊1人の首で金貨1枚は破格の報酬だ。しかし、外は戦争の最中、話を聞いた冒険者達が頭の中で命と報酬を天秤にかけて悩み始める。
その中に英雄級の冒険者イカルスの姿があった。酒場で仲間達と過ごしていたが、所長の報酬を聞くと椅子から立ち上がり仲間に声をかける。
「よし、お前達、ここは稼ぎ時だ。急いで村に向かうぞ」
「えっ?でもイカルスさん、外は戦争中だって話ですよ?」
シャニャムが弱気になってイカルスに忠告するが、実力者のイカルスとっては問題の無い相手、もし相手が手を出して来たらお返しするだけである。
それに昨日のコスモの活躍を聞いて、イカルスには少し思うところがあった。
「ふん、昨日、あのコスモがペガサスに騎乗して、バルドニア王国が誇る精鋭の竜騎士部隊を防いだそうだ」
「そ、それが?」
「俺も男なんだ。女のコスモが活躍してるというのに、酒を呷って過ごすのが情けなく思えてな」
「あ、あのコスモは特別ですって、フィオーレさんもセルシルの兄さんも言ってたじゃないですか」
コスモの異常な強さはフィオーレとセルシルと話していると必ず話題に上がっていた。それを聞いていたからこそ、イカルスはコスモにちょっかいを出していた。
しかし今は違う、イカルスが珍しく怒りの表情を見せる。
「馬鹿野郎!女を守るのは男の務めだ!それが逆に守られて何が冒険者だ!」
イカルスはただの軟派な男ではない。英雄級の力を持つ者として、女を守ることこそが己の存在意義だと考えている。その信念を持つからこそ女が寄って来るのだ。
その怒号が酒場と仕事斡旋所内に響き渡ると、入口の扉から大男が入って来る。その大男の顔は機嫌が良いのか笑顔である。
「はははは!冒険者の中にも本当の男が居るじゃないか!」
現れたのは神器【ドラバルド】の継承者のレオネクスだった。その横には参謀のフェニーと後ろにカルボーイがまだ居る。
そして仕事斡旋所内に居る冒険者に向けて、レオネクスが大きな声で伝える。
「ウキレアの北門の道は我が百合騎士団で切り拓く!諸君らはそこを悠々と進み、村を助けて頂きたい!」
仕事斡旋所内に居た冒険者が大きな声に耳を抑えながら、レオネクスに注目する。冒険者に引けを取らない大きな屈強な体、逞しい顔、手に持っていた神器【ドラバルド】を見て、瞬時に口だけでは無いことを理解する。
ここにレオネクスが現れたのも、参謀のフェニーも北の村に100人の山賊が向かっている話を聞いたからである。
「敵兵は我が騎士団が出れば、そちらを狙います。その間に冒険者の皆さんは依頼を果たして下さい」
フェニーも声を上げると、仕事斡旋所に居た冒険者達が慌てて支度に入る。それを見たイカルスは目を瞑り、悟ったような顔になる。
「……ここまでお膳立てされて、逃げ腰になるようなら冒険者は返上しなくてはな」
そう呟くとイカルスが仲間を引き連れて仕事斡旋所を出て行く。その後に続くように、他の冒険者達も出て行くと、レオネクスとフェニーが安心した顔で北門の中で待機させていた百合騎士団の下へ戻って行く。
同時刻、村に山賊団の100人が迫っているという情報は、南門で交戦中のリフィスの耳にも入る。
「このタイミングで山賊団が動いただと……くそ、僕が動けないと知ってのことだな」
本当はカイネルの子飼いの山賊団なのだが、それを知らないリフィスは悔しそうな表情を浮かべる。だが、横にいたエーシンはその情報を聞いても焦るようすは無かった。
「安心するのだリフィス。すでに後方の村にある冒険者を常駐させておる」
「え?エーシン先生は山賊団の襲撃を予測していたのですか?」
「良いかリフィス。このウキレアを落とすためには何をすれば良いのか、敵の立場になって考察するのだ。拙僧であれば、少しでもウキレアに居る戦力を外へ誘導し、防衛力を落とすことに尽力する」
「……そう言われればタイミングが良過ぎる気がする。すでにウキレアは攻められるという情報は出回っているのに、今になって山賊団が動き出すのは遅い、というよりは誰かの指示で動いているように思えます」
「となれば、やることは1つ。村に山賊団が現れても大丈夫なように布石を打つこと……なのだが、すでにあのフェニーという参謀の娘が手を打っておるな」
「あのレオネクス卿の奥さんが?」
レオネクスが連れて来たのは百合騎士団だけでは無かった。スーテイン領で山賊王ゴンドラ討伐の陰に隠れ、活躍していた存在をエーシンは知っていた。
~
同時刻、新生ウキレア公国の北の山では、カイネル子飼いの山賊ドルフが郎党100名を引き連れ、北の中で一番大きい村に向かって歩いていた。
ドルフ率いる山賊達は、カイネルの命令で事前に新生ウキレア公国の北の山の近くの国境付近に待機していた。そこへ昨晩夜遅くにレイドリア将軍の伝令兵が訪れ、陽動部隊として村を襲うように指示を受けていた。
その山賊達なのだが、長い行軍にも関わらず顔が完全に緩んでいた。今は新生ウキレア公国とバルドニア王国の戦争中、例え村が襲われても救援に来る騎士団は居ない。冒険者も戦争中の国に滞在する訳が無いと思い込んでいた。
山賊達にとって無抵抗の村を襲うだけの楽な仕事である。勝ち戦のような気分になるのも当然であった。
「ドルフの親分、もうすぐ目的地の村に着きますぜ」
「そうだな、だが念の為に斥候を放ってようすを見させろ」
「へ、へい!」
ドルフは浮かれている山賊達とは違い、油断をせず真剣な顔で居た。というのも、長年カイネルの下で山賊稼業を続けていた中で、何度も危険な思いをしていた。
狙うように言われた村に、敵兵が待ち受けていたことが何度もあった。カイネルは自分達を使い捨ての道具くらいにしか思っていない。
ドルフはそう感じると、より一層慎重になっていった。だが、無防備な村であると分かれば、一気に豹変する。男は亡き者にして女は攫い蹂躙する。慎重さと残虐さを兼ね備えた山賊である。
斥候を放って数分ほどすると、斥候が森の中に居たという1人の女を連れて来る。斥候の戻りを森の中で待機していたドルフの前に突き出される。
その女は全身を赤いローブに身を包み、赤い短い髪にほわほわとした緊張感の無い顔、ローブの上からでも分かる豊満な体を持っていた。
「わわっ、山賊さんに捕まってしまった」
「な、何だこの変に抜けた女は……」
緊張感の無い女のようすにドルフがとまどう。斥候にこの女について確認をする。
「おい、こいつはどこで見つけた」
「そ、それが村の近くの森を1人で歩いていたもんで、村娘かと思って攫ってきました」
斥候の話を聞いてドルフが悩み始める。山賊が現れる村は基本的に1人で森の中に入らない。もし入るのであれば10人ほどの徒党を組む。
しかもその徒党も男だけで組むのが当たり前である。そんな村の近くを女1人で歩いていたと聞いて何か違和感を感じる。
「おい女、お前の名は?」
「わたしの名前はビトーネって言います山賊さん」
ドルフに向けてビトーネが笑顔を向ける。周りの山賊がにやにやする中、ドルフだけはこの笑顔に恐怖を感じていた。まるで、これから息絶える生き物を可哀想と思うような顔、憐れむような顔に見えたからだ。
するとビトーネがドルフの後ろに群がる山賊達に目を向けると逆に質問をしてくる。
「ねえねえ山賊さん、山賊さんはこれで全員?」
この質問にドルフがさらに嫌な予感を感じ取る。というよりも、周りの森にとてつもない殺気が満ち始めるのを感じていたからだ。
そんなことを知らない他の山賊がビトーネに、にやつきながら優しく声をかける。
「そうだよお嬢ちゃん、これから全員を相手にするんだよ」
「良かったー、全員揃ってるなら簡単だね」
全員揃っていることを聞いたビトーネがほんわかとした笑顔になると、周りの森が一気に殺気立つ。その瞬間、ドルフが大声を上げる。
「野郎共!逃げろ!これは罠だ!」
そういうとドルフは森の中へ一目散に逃げ始める。それを見ていた部下の山賊達が呆然としている。
折角ビトーネという若い娘をさらったというのに、恐れをなして逃げるドルフを理解できないでいた。一部の山賊は訳が分からない状態でドルフの後に付いて行くが、ほとんどの者はその場に残る。
「ドルフの親分はあんなに慌ててどうしたんだ?」
「そんなことより、早く楽しもうぜ!おい!」
「それもそうだな、ウヒヒヒヒ!」
そして数人の男がビトーネに迫って行くと着ていたローブに手をかける。
「はーい、ぬぎぬぎしましょうね」
山賊の男がビトーネのローブを捲り上げようとした時、その男の後頭部に手斧が勢い良く突き刺さる。
「がっ……」
男が体を震わせてその場に倒れると、周りに居た山賊達が辺りを警戒する。
「なっ!敵襲か!」
すると森の陰から薄らと仮面のような物が見えて来る。それも1つや2つでは無い、無数の仮面が浮き出て来る。その数は80人分あり、山賊達を囲うように見つめていた。
仮面の中から、一際な目立つ緑色の独特な紋様の仮面つけた大男が森の外へ出て来る。その男はスーテイン領の山岳部族を統率するラルガーであった。
手には黒い斧、悪魔の斧を握り締め、その腕を空に向かってあげる。
「さあ、狩りの時間だ!山の女神コスモ様に山賊共の命を捧げるのだ!!」
「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」
「そうだそうだ!やっちまえー!」
ラルガーの合図を皮切りに、森の中に潜んでいた山岳部族の戦士達がけたたましい声を上げ、一斉に山賊達に襲いかかる。それにビトーネが同調して声を上げる。
山岳部族達の強さはスーテイン領を牛耳っていた山賊王ゴンドラ討伐で証明済みである。次々と仮面を着けた屈強な戦士達に山賊が一方的に狩られて行く。
レオネクスが連れて来たのは百合騎士団以外に、山や森の戦いを得意とするラルガー率いる山岳部族の戦士達であった。
その監視役として竜人のビトーネを付けていたが、見ての通り浮世離れした性格なので、実質、族長のラルガーが山岳部族を仕切っていた。
森の中を走り、逃げるドルフ達の後方から、仲間の悲鳴や叫び声が聞こえて来る。その声を聞いたドルフが焦りの表情を見せる。
「くそ、やっぱり待ち伏せか!しかもあの気配の消し方はかなりの手練れ、こうなったら……」
ドルフが仲間数人を引き連れ村に向かう。ここで山の森を逃げても、襲って来た相手は山と森の戦いに精通した手練れで追い付かれることは必至。そこで村人を人質にして窮地から脱出しようと考えていた。
あれだけの人数が襲って来たからには村の守りは手薄、そう思ったドルフが村に辿り着くと近くにあった民家の扉を勢い良く開く。
「さあ、出て来い!悪いようには……」
ドルフが扉を開くと目の前に現れたのは、髑髏の兜に黒い鎧を着込んだ冒険者のセルシルである。
「いんやー、お待ちしてましたあ!」
「な、何だてめえは!」
セルシルが装備していた呪われた鎧【死神の鎧】に備わる特殊技能【黒家転移】で、民家の中で待機していた。
思わぬ相手の登場にドルフ後退りをすると、周りから一斉に武器を持った者が続々と現れる。
「さあ、汚い山賊のおっさん、諦めて私達に捕まった方がいいよ」
レイピアを構えたフィオーレがドルフに剣先を向ける。
「しかしまあ、ここまでパフィさんの言う通りになると俺達の手番がねえなガザイク」
「本当ですねディグダさん、気合入れて来たのにな」
ベイト村のディグダとアエク村のガザイクの元山賊コンビも来ていた。
「ま、まさか俺達が村を襲うことを知っていたのか!」
ドルフが周りをフィオーレ、セルシル、ディグダ、ガザイク、その仲間達に囲まれ、逃げ場が無くなる。囲まれたドルフは、ここまで用意周到に待ち伏せにするには、自分達の行動が事前に漏れていなければ成立しないと考えていた。
だが、実際はドルフ達の行動は漏れていない。そんなことを知らなくても予測できる人物が1人だけ居た。
それがバンディカ帝国の皇帝ウェイリーである。
ウキレアで攻城戦が始まった時にリフィスの戦力を減らそうと、必ず後方にある村を襲う陽動部隊が居ることを予測していた。
バルドニア王国に自軍の援軍を向けた時期に、斥候のパフィ経由で元山賊のディグダにある指示を出していた。
その指示というのが、新生ウキレア公国の北側の村の護衛である。そこでパフィが気を利かせ、アエク村に居るガザイク達にも声をかけて護衛に当たらせていた。
冒険者のフィオーレとセルシルはコスモの軍師、エーシンからの指示でこの村に護衛として滞在、竜人のビトーネや山岳部族のラルガー達は、参謀のフェニーの指示によって北の山を見張らせていた。
つまり新生ウキレア公国は、アセノヴグ大陸でも有数の優秀な頭脳を持つ者達によって守られていた。
八方塞がりとなったドルフが武器を捨てて素直に投降する。ドルフの仲間達も同じように武器を捨てる。すると森の中から返り血で汚れたラルガーと山岳部族の戦士達が次々と現れる。
中には山賊の首を勲章として持つ戦士も居る。たった数分で100人近く居た山賊を制圧したのだ。
それを見たドルフの心が完全に折れてしまう。
「い、命だけは助けてくれ……何でも話す」
最早、ドルフに逃げる術は無い。ディグダとガザイクの仲間達が、ドルフと仲間達の手を縄で縛ると商業都市ウキレアに連行するために移動を開始する。
~
レイドリア将軍が目論んでいた陽動は失敗に終わる。そんな状況とは知らず、ウキレアの上空では竜騎士部隊がコスモと交戦を始めていた。相変わらずのコスモの騎乗するペガサスのサジーの異常な機動力に、竜騎士達が追い付けずにいた。
しかし、少しずつコスモも竜騎士達の戦い方に違和感を感じる。
「な、何だ今日の相手はやけに突っ込んで来るな……昨日は睨み合いで慎重だったのに」
今日の竜騎士達の勢いは昨日と違って積極的であった。3体が横一列に編隊を組み同時にコスモに突撃を繰り返す。それが絶え間なく続いていた。
南門の櫓でコスモと竜騎士達の戦いを見ていた軍師のエーシンも、その変化に気付く。
「あの強引な攻め方……何か変だ」
変化には気付くが意図が読めない。そうしている内に、徐々にウキレア南門の上空近くまで竜騎士達の進入を許してしまう。
仲間がやられても恐れることなく、次々と竜騎士達が突撃を繰り返す。すると、その後ろから飛竜の体の下に黒い箱を取り付けた竜騎士が現れる。その竜騎士は突撃する竜騎士達より遥か上空に居る。
コスモが必死に無謀な突撃を繰り返す竜騎士達を相手にしていると、さらに上空に居る黒い箱を持った竜騎士に気が付く。
「何だあの黒い箱を持った竜騎士は?」
空を見上げると黒い箱を持った竜騎士がウキレアの南門上空へと迫る。
その姿を見たエーシンが突然、コスモに向かって大きな声を上げる。
「コスモッー!!その黒い箱を持った竜騎士を止めるのだ!!」
大声を出すエーシンを初めて見たコスモが驚きながらも、指示に従って黒い箱を持つ竜騎士に向かって行く。
「な、なんだか分からねえが!あの竜騎士を止めに行くぞサジー!」
(おう!任せとけコスモ!)
目の前に居る竜騎士を軽く叩き落すと、ペガサスのサジーが翼を大きく広げ上昇させる。
その姿を確認した竜騎士が黒い箱に繋がれている備え付けの縄を手に取る。
「これでバルドニア王国の勝利は決まった!バルドニア王国万歳!」
竜騎士がそう言うと縄を引き、黒い箱から何か小さい物体が地上に向かって落ちて行く。
「ちっ!遅かったか!」
バシッ!ズゴゴゴゴゴゴ!
追い付いたコスモが、黒い箱を持つ竜騎士を魔剣ナインロータスで叩起き落とすが間に合わなかった。そのようすを見ていたエーシンが南門に居る兵士に向けて大声で叫ぶ。
「皆の者!上空に盾を構えるのだ!盾の無い者は頑丈な屋根の下に隠れろ!!」
「ど、どうしたのですかエーシン先生」
「良いからリフィスもこの櫓の下に隠れておれ!決して体を外に出すでないぞ!」
エーシンが南門の櫓の屋根の下に、リフィスの体を押し倒し庇うように隠れると、南門一帯に金属がぶつかる音が雨の降り始めのように聞こえて来る。
城壁に居た兵士がその音と同時に次々と倒れ込む。中には盾を構えていたのにも関わらず、その場で倒れる者もいた。
次第に金属音が止むと、ウキレアの南門付近が静まり返る。さきほどまで、南門を攻めていた兵士の声も、守っていた兵士の声も聞こえて来ない。
上空でそれを見ていたコスモが、何が起こったのかすぐに理解をする。
「バルドニア王国の奴ら……味方を巻き込んでまで攻撃しやがったのか……」
南門の前には破城槌の近くで倒れ込み、微動だにしないバルドニア王国の兵士が無数に見える。ウキレア側の兵士も城壁の上で倒れ同じく動かない。
そしてリフィスを庇ったエーシンが苦悶の表情を見せる。
「くぅ……どうやら拙僧の足にも数本刺さったようだ」
「エーシン先生!」
リフィスが立ち上がってエーシンの容態を確認すると、エーシンの左足の脹脛から出血しているのが見える。エーシンも自分の傷を見て、どう言った攻撃をされたのか理解する。
「バルドニア王国の奴らめ……何と惨いことを」
「一体何が起こったのですかこれは……」
何が起きたか分からないリフィスの側で、エーシンが怪我をした左足を我慢しながら動かす。その左足の下に小さな金属片が転がっていた。エーシンが金属片を手に取るとしっかりと観察する。
「この小さな釘のような矢が、この惨状の正体か……」
エーシンの小さな手に掴まれた、この小さな釘がバルドニア王国の兵器の正体である。この小さな釘は先端は尖り、末端は羽のように小さく加工されている。
1つ1つはとても小さく、殺傷力は無いように思えるが、高い上空からばら撒くと自然落下速度によって鉄の雨として降り注ぎ、地上に居る人間の防具を無視して体をいとも簡単に貫く。
バルドニア王国では別名【竜の牙】と呼ばれる大量殺戮兵器である。
今回はウキレアの南門付近にしか影響は無かったが、辺りは凄惨な状況になっている。運良く致命傷を避けた兵士達の呻き声、助けを呼ぶ声が南門一帯から聞こえて来る。
「だ、誰か……」
「いてえ、いてえよ……」
この光景を見たリフィスの中で絶望や恐怖よりも先に怒りの感情が爆発する。いくら勝つためとは言え味方を巻き込み、無差別に攻撃をするバルドニア王国、カイネルのやり方に我慢が出来なくなる。
「ぜ、絶対に許さないカイネル……必ず僕が、皆の仇を取ってやる!!」
その声を聞いたエーシンがリフィスに一喝する。
「この未熟者めが!」
「エ、エーシン先生!」
左足を引きずりながらエーシンがリフィスの足元にしがみ付く。
「王たるお主が感情に流され、カイネルと同じことをして何になる!」
「で、ですが、これは余りにも酷い、こんなことが許される訳が無い!」
「良いかリフィス!怒りに飲まれてしまっては、人は同じ過ちを繰り返すだけだ。拙僧達はカイネルとは違う、己の欲望では無く、人の為に戦おうとしておるのだ」
「で、でも僕は……僕は……」
「落ち着けリフィス、まだ息のある者も多く居る。今はその者達を救うのだ。良いな」
エーシンが痛みを我慢しながら、リフィスに優しく微笑みかける。その顔を見たリフィスが、怒りや悔しい気持ちを抑え、無傷の兵士達に声をかける。
「傷の無い者は、負傷者を救護所まで運ぶんだ!それと……南門を開き、息のある敵兵も救助する!」
無傷だった兵士がリフィスの言葉を聞いてざわつき始める。わざわざ南門を開き、敵を引き入れるような危険な行為をしてまで、敵兵を救うと言うのだ。
「リ、リフィス様、本当に良いのですか」
「ああ、我々は人の為に戦っているだけで、殺し合いをしたい訳じゃない!それは巻き込まれた敵兵も同じなんだ!」
エーシンの言葉を忠実に守り、リフィスは敵兵をも救うことを決める。ざわついていた兵士も、リフィスの言葉に打たれ、敵味方、問わず救助を始める。
南門が開き、息のある敵兵を次々と救護所へ運ぶ。【竜の牙】の攻撃範囲から逃れたバルドニア王国の兵士達は南門が開いても、攻める素振りを見せない。
それも援護してくると信じていた竜騎士が、味方である地上軍の自分達を巻き込んで攻撃したのだ。このまま攻めても同じような目に遭うと考えると、いくら訓練された兵士達とは言え簡単に動けずにいた。
結局、南門は休戦状態となって戦闘が止まる。その間に次々と負傷者を救助して行く。
リフィスの行動に怪我をしたエーシンもほっと胸を撫で下ろすが、空を見つめるとまだまだ安心できないでいた。
「くっ、コスモの奴め頭に血が上っておる。拙僧の言い付けを忘れおって!」
上空に居たコスモの体から、大きな青い炎の陽炎が大きく噴き出していた。この陽炎の大きさはコスモの怒りの感情と連動している。
エーシンはその青い陽炎を見てコスモと初めて出会った時に言い付けていた言葉を忘れたのかと思っていた。




