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元騎士団のおっさん伝説のピンクビキニアーマーになる ~魅力を添えて~  作者: トリミング中の噛み犬


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第100話 ウキレア攻防戦その1

 陽が昇ると商業都市ウキレアの人々が目を覚ます。まだ眠気が残る中で部屋の空気を入れ換えようと、窓の扉を開く。緩やかな暖かい風が部屋に流れ込み、外の空を見上げると雲ひとつない。


 だが、商業都市ウキレアから離れた平原からいくつもの煙が立ち昇っていた。それを見た人々は恐れおののく、これからこの都市で戦争が起こるのだということを嫌でも実感する。


 商業都市ウキレアの南門前に広がる平原には、バルドニア王国の中央軍2700人が陣を構え、戦いの前の朝食を取っていた。その焚火で起こった煙が数え切れない数がに空に立ち昇っていた。


 ウキレアに住む人々はバルドニア王国の軍容を見て恐れている。ここが落とされたら今まで苦労して築き上げた物が全て灰燼に帰す、そう考えていたからだ。


 ただ守勢側の新生ウキレア公国の公王リフィスは違っていた。ウキレアという都市が籠城戦向きの構造で、その防衛力を活かすための準備も万端に整っている。


 ウキレアの都市は四方に大きな門を構え、その周囲を近くの川から引き込んで水の堀に囲まれている。それぞれの門には吊り橋があって、それも今では引き上げられている。


 堀の形状も外側は急坂で、流れる川の嵩も低く歩いて入ることはできるが、都市側は反り立つような坂になっている。一度入れば、攻め難い、戻り難いと言った効果がある。


 まさに難攻不落の要害と言っても差し支えない都市となっていた。


 バルドニア王国の中央軍も攻め難い都市であることは分かっているので、徐々に遠巻きにウキレアの都市を包囲していく。


 中央軍司令官のレイドリア将軍が、平原の丘の上に敷いた本陣の中で仮設の椅子に座り、各部隊に配置につくように指示を出していた。


「良いか、南門と東門を中心に攻め落とす!北門と西門は攻めながらも周囲に斥候を放ち監視をするのだ。もし敵方の補給部隊を見かけたら殲滅せよ!」


 レイドリア将軍は【ジェネラルドラゴンライダー】、バルドニア王国に長年仕える将軍である。


 年齢的にグレメンス将軍と同じで、茶色の髪を綺麗に後ろに流すように整え、ほりの深い鋭い目に立派な髭を蓄えている。


 主にバルドニア王国の領土拡大の戦いに、過去から参加している将軍で情け容赦の無いことで有名であった。


 捕虜はまともな手続きもせず処刑を行い、捕らえた女子供は奴隷として本国の要塞都市ガーグラへ送っていた。使えない部下も容赦なく切り捨て、同じ将軍のグレメンスから諫言を受けることもあった。


 しかし、バルドニア王国の苦しい財政を潤していたのは、間違いなくこのレイドリアであった。領土を侵略するとまず行ったのが、村にある貴金属や宝石などの徴収、そして反抗的な態度を示す者を強制的に奴隷にすることである。


 特に奴隷はとても良い稼ぎとなっていた。ユズリハ商会が相場よりも高い値段で買い取っていたので、その儲けた金がバルドニア王国の財政を潤していた。もちろん、レイドリア自身も売買で得た利益を懐にいれている。


 レイドリアの恐ろしいところは、例え女子供が相手であろうとも、切り伏せることに躊躇が無いことである。その上、計算高い性格もあって戦況を敏感に感じ取り、バルドニア王国が誇る竜騎士達を巧みに運用して、次々と領土の拡大に成功する。


 このレイドリアの采配にスーノプ聖国もリンティス魔導公国も苦戦を強いられていた。


 そんな実績を持つ将軍であり、バルドニア王国の財政を支えていたからこそ、必ず落とさなくてはならない重要拠点、商業都市ウキレアの攻略をレイドリアに任せていた。


 レイドリアが指示を出している横からグーラグラン王国のオジール王が、晴れやかな顔で現れる。立場上、レイドリア将軍の麾下ということになっているが、カイネル王と同等の王族であるオジールには、丁重に対応していた。


「レイドリア将軍、いよいよですな」


「これはオジール様、戦線からわざわざ本陣に来られるとは」


「何、我グーラグラン王国には戦車隊の機動力がありますからな、竜騎士の移動速度に比べれば劣りますが、地上では無類の早さ、何も問題はありませぬぞ!ははははは!」


 オジールが率いる戦車隊は、2匹の馬を戦車と呼ばれる馬車を戦闘用に改造した乗り物に繋ぎ、その上に弓矢と槍を持った兵士を乗せ、素早い機動力を活かして戦場をかく乱、強襲することを得意としていた。


 しかし、今回の新生ウキレア公国は籠城の構え、戦車隊の出番は敵が野戦に応じて出撃した場合と、敵の補給部隊が現れてからであった。そのこともあって、力攻めに加わる予定は無いのでレイドリアに比べて表情が明かるかった。


 そのレイドリアも不敵な笑みを浮かべる。


「しかし、オジール様の戦車隊は出番が無いかもしれませんな」


「と言うことは、すでに何か手を打っているのですか?」


「ウキレアが難攻不落な都市なのは誰もが知ること、ですがどんな都市でも内部から攻められると脆い。我々はその時が来るのを待てば良いのです」


「すでに内通者がウキレアに居ると……」


「将たる者、一手二手先を読み、布石を打つものですオジール様」


「これは頼もしい言葉、さすがバルドニア王国一の智将レイドリア将軍と言われるだけありますな!」


 レイドリアがウキレアを見つめながら微笑む。すでに内通者は商業都市ウキレアの内部に潜り込み、夜の間に門を開門、吊り橋を下ろす手筈となっている。いつでも攻め入れるように部隊を配置していた。


 この中央軍の司令官に抜擢されてからというもの、レイドリアは気分が高揚していた。レオネクスの裏切りがあったものの、総勢2700名の大軍を擁している。自身も将軍になってから、大軍を率いるのは初めてで、しかも勝利を約束された戦となれば、益々気分も良くなる。


 ここで新生ウキレア公国に対して圧倒的な軍容を見せ付け一気に落とそうと息巻いていた。


 そのバルドニア王国の動きを南門の城壁の上から、コスモとリフィス、軍師のエーシンが見つめていた。


 南門前の平原には【ドラゴンライダー】、【キングダムナイト】、【キングダムアーマー】、【キングダムアーチャー】、【チャリオット】などのあらゆる兵種が集っている。


 多種多様な兵士を見る機会は滅多に無い。その軍容を見てコスモは圧倒されていた。


「いやー、こんな大人数の騎士を見たのは初めてだぜ!」


「こ、これがバルドニア王国の本気なのか……」


 コスモはバルドニア王国の軍容に圧倒されてはいたがそれは好奇心によるもの、リフィスは自軍との戦力差を改めて思い知らされていた。


 軍師グストの放った斥候からの情報で、戦力数は分かっていたが言葉と実物ではその迫力も違う。


 その2人と違ってエーシンだけはその迫力に動じず、眉をひそめバルドニア王国の中央軍の動きを見て不審に思っていた。中央軍は強大で動きも無駄がなく、優れた指揮官が居ることも分かる。


 だが、その動きに見える違和感を感じ取ると、コスモとリフィスに問いかける。


「コスモ、リフィス、今のバルドニア王国の動きを見てどう思う?」


「どうって、ウキレアを包囲して戦う準備と言ったところだろ」


「……僕は少し変に感じます。バルドニア王国はこのウキレアの陥落が第一目的、その割には軍の動きが緩慢な気がします。現に竜騎士も空を旋回するだけで、こちらに向かうようすが無い」


 コスモには残念そうな顔で向け、リフィスには嬉しそうな顔をエーシンが向ける。


「うむ、良く見ておるなリフィス。相手の思惑は必ず動きに出てくる。自分の好物が出れば嬉しそうに、苦手が出れば不快感を示す。個人であれば、その所作を抑えることもできるが集団となるとそれが難しくなる」


「い、一体何を言ってるのかさっぱりだぜ、エーシン」


 エーシンが遠回しに例えるが、コスモは理解できずにいた。隣に居たリフィスは考え込み、はっとした顔であることに気付く。


「まるで、バルドニア王国は何かを待っているような動き……」


「……ここにグスト殿が居なくて良かったぞ。あの御仁はすぐに泣きそうになるからな。リフィスの成長振りにはこの拙僧でさえも驚くものだ」


 リフィスの軍師グストがこの場に居たら泣き出すところだろう。それほどリフィスの考察は的確であった。ここまで分かれば後はその対策を練るだけなのだが、そこは軍師の仕事となる。


「な、なんか仲間外れにされたみたいでむかつくけど、俺はどうすりゃいいんだエーシン!」


「そうだのう、そろそろ敵方も適当な力攻めを始めてくるから、それを防いでおれ」


 エーシンがそう言うと、時期を見計らったように包囲していたバルドニア王国の弓兵が射程距離の範囲まで進軍して矢を射かけて来る。


 矢は南門の城壁の上まで届くが、弓兵の数も30人ほど、狙いも適当でほとんどの矢が城壁に阻まれ落ちて行く。その内の1本の矢がエーシンの顔に偶然にも飛んで来る。


「ったく、こんなへぼな流れ矢でやらせるかってんだ!」


 飛んで来た矢を事もなげにコスモが掴み取ると、握って折り曲げ足元に落とす。この緩慢な攻撃を見たエーシンは敵の狙いが違うところにあると確信する。。


「よし、リフィス、お主は今の内に屋敷で休んでおれ。今夜は忙しくなるぞ」


「え?でも、攻撃が始まったばかりで指揮官の僕が下がったら……」


「兵士達には防戦するだけで、無理をさせぬように徹底させる。敵の攻撃は陽動の攻撃に過ぎんからな、本命はそこではない。グスト殿も分かっておられるだろうが、屋敷に戻る前にこのことを伝えて欲しい」


「わ、分かりました。グストに言ってそう対応するように伝えておきます」


 そう言うとリフィスが城壁上の通路をつたって、東門に居るグストの下へ走って行く。


 エーシンがそれを見送るとコスモに南門を任せる。


「ではコスモはここに残れ、お主は万が一、敵の竜騎士が攻めて来たらペガサスのサジーと共に守るのだ」


「分かったぜ、けど、敵が本気で攻めて来る気が無いのが分かった口振りだな」


 まるで本気の力攻めが無いのを分かっているエーシンに、コスモが気になって問いかけると、エーシンが少しだけ口角を上げる。


「……敵は拙僧という軍師の存在を知らぬ、もし知っておったらこのような軽率な行動はとらぬであろうな。だが、この機会を利用しない手はない、グスト殿と相談して初手から痛い目に遭わせるのが良さそうだのう……フフッ」


「その敵みたいな笑い方は止めた方がいいぞ、エーシン……」


 悪巧みを考えていそうな顔で、エーシンが同じくグストの居る東門へ歩いていく。残されたコスモがエーシンの言葉に困惑するが、今は指示通りに南門の防衛に徹することにする。


 結局、初日の日中はエーシンの言う通り、城壁や門に敵が殺到することはなかった。堀の外側から散漫な矢での攻撃しか来なかった。初日は激しい戦闘になると思っていた兵士達も拍子抜けだと言った顔でいた。


 そして商業都市ウキレア攻防戦の初日は日没を迎える。


 ウキレアの中では交代しながら夜通しで城壁に見張りを立て、バルドニア王国の襲撃に備えていた。そして今夜の見張りは、ジョストン領の独立を決めた軍議で協力するかの答えを濁し、自分の領地に戻って行ったルアンという中年の貴族の男である。


 実はこのルアンこそが、レイドリア将軍の打った布石である。


 以前から誼を通じていたカイネルからの指示で、リフィスに臣従する振りをして商業都市ウキレアの城門を開門、バルドニア王国の中央軍を引き入れるように命令されていた。


 リフィスも新生ウキレア公国を建国して間もない。執務や籠城戦の準備に追われて配下に加わった貴族達の精査を行う暇が無かった。そのような状況だったので、簡単にルアンの侵入を許してしまっていた。


 辺りが暗闇に包まれ都市に住む人々が就寝に着いた頃、まるで戦争が無いような静けさの中で、ルアンが20人の兵士を連れてこっそりと東門へ向かう。


「こ、これで良い……今のリフィス様に付いて行っても先は無い。本当の同盟国のバルドニア王国に協力することが道理なのだ……」


 自分の連れて来た兵士達が緊張した面持ちでルアンを見つめている。自分の裏切り行為を正当化するような言葉を口にしながら、兵士達に東門の開門そして吊り橋を下ろすように指示を出す。


 ギギギッと木が軋む音を立て、門が開き、吊り橋がゆっくりと下りていく。


 すると堀の外側で待機していたバルドニア王国の兵士達が暗闇の中から続々と現れる。その夜襲部隊を率いる隊長の男がルアンの所まで行くと、馬上から苦労をねぎらう。


「ルアン殿、約束を果たしてくれたことに感謝をする。カイネル王もさぞお喜びになるだろう」


「……我がバンディカ帝国の同盟国はバルドニア王国のみ、しかし、領民達には手を出さぬことを約束してください」


「もちろんだ、これから我が国民となる者を傷付けるつもりはない」


 そう言うと、続々とバルドニア王国の兵士達が橋を渡り、東門から商業都市ウキレアへ進入して行く。夜襲部隊は主に馬に騎乗した機動力の高い【キングダムナイト】で構成されている。


 その後ろからは、【キングダムアーチャー】が続き、都市に入って行く。バルドニア王国の兵士達がウキレアに進入するのに合わせ、ルアンが後を付いて行く。


 ウキレアに先頭で入った隊長の男が、ある程度、中心部に進むと馬の足を止め、弓兵にある指示を出す。


「よーし、ここまで来れば良いだろう、弓兵!火矢を家屋に射かけよ!他の者は進軍を続けろ!」


 すると弓兵が一斉に矢の先に火を灯し始める。その言葉を聞いたルアンが、慌てて隊長の男の下へ向かって行く。


「や、約束が違う!領民には手を出さぬと言ったではないか!」


「何、家屋が丁度よい薪になるのでな。空から竜騎士達を引き入れるために誘導灯が必要なのだ」


「ま、薪の代わりだと!ふ、ふざけるんじゃない!」


 隊長の男が家屋を薪代わりにすると言い出すと、裏切った筈のルアンも怒りの表情を見せる。そもそも裏切ることを選んだのも、領民に被害を及ぼさないための苦渋の決断であった。


 それを土壇場で反故にされたら、誰であろうとも怒りが湧く。


「き、貴様ら、これはカイネル王も承知してのことなのか!」


「陛下はウキレアを落とせるならば、手段を選ぶなと仰せだ!」


「くっ、は、話が違うでは無いか……」


「ついでになルアン、貴様も陛下から片付けるように言い付けられている。裏切り者などの約束は守る必要が無いとな」


「な、何っ!」


 隊長の男が合図を送ると、ルアンと20人の兵士が、バルドニア王国の兵士達に囲まれる。


 ルアンも慌てて銀の槍を構えると抵抗の意思を見せる。この時のルアンは表情を酷くして、バルドニア王国に協力したことを後悔していた。


 先代の父は邪神竜の眷属との戦いで命を落とし、後を継いだルアンは邪神竜を討ち果たした神器の継承者キリアンを慕い配下に加わった。

 だが三代目の領主リフィスが弱気な態度を見せると、少しずつだがカイネルの王と呼ぶに相応しい力強い風格に惹かれていった。


 自信のある迷いの無い態度と言葉、そして実行力、カイネルこそ、次世代を担う大陸の指導者であるべきと考えていたが、土壇場に来てその本性を知った。


 ならば、帝国騎士の一端の貴族として道連れにしようと覚悟を決める。


 すると、家屋に入った兵士が慌てたようすで隊長の男に報告する。


「た、隊長!ここ一帯の家屋に人が居ません!」


「人が居ない?……そう言われて見れば、余りにも静かだな。見張りの兵士もここまで居なかった。まるで最初から人が居ないようにも思える……」


 兵士の報告を受けてようやく、辺りが静かなことに隊長が気付く。今は戦時下、巡回や見張りの兵士を立てるのは当たり前で、その兵士が居ないのは不自然である。


 東門から続く大通りを通ってきたが、途中の脇道は荷車や木箱で塞がれ、まるで誘導されているかのように動きを制限されていた。


 ちょうど上空から見ると東門から都市の中心部に向かって、隊列が伸びきる形になっていた。隊長が嫌な予感を感じて考え込んでいると、東門から物凄い衝撃音といつもの聞き慣れた必殺の一撃音が鳴り響く。


 ドゴォーン!ズゴゴゴゴゴゴッ!


「よーし、大体200騎くらい入ったろ!吊り橋を上げろ!」


 東門から続いていたバルドニア王国の夜襲部隊の隊列に、コスモが横から割って入って無理矢理塞き止めると、後続に居た数十人のバルドニア王国の兵士達を外へハート型の盾で押し返す。


 そして、すぐさま吊り橋の巻き上げ機の近くで待機していた双子の兄弟に声をかける。兄弟も嬉しそうな声で返事をする。


「任せて下さいよコスモ王妃!」


「俺達が居るからには好きにさせませんってコスモ王妃!」


「だから、王妃はやめろっ!!」


 コスモを王妃と呼ぶのは、百合騎士団(リリーズリッター)の団長代理のサンジとマンジである。この2人はバンディカ帝国の皇子のユリーズに見出された恩があって、ユリーズが惚れるコスモのことを将来の王妃になると勝手に思い込み、そう呼んでいた。


 それは置いて、サンジとマンジが双子ならではの息の合った連携を見せると、瞬く間に吊り橋が上がり、バルドニア王国の夜襲部隊の分断に成功する。


 東門から横に伸びきった夜襲部隊は孤立する形となった。しかし、まだ内部をかく乱するには問題の無い戦力が残っている。異変を感じた隊長の男が、急いで火矢を放つように指示を出す。


「ええい、こうなれば予定通りに竜騎士達を呼び込む!火矢を放て!」


 号令を聞いた弓兵が火矢を構え、家屋に狙いを定める。


 すると、火の点いた矢尻を狙った横槍が鋭く飛んで来る。次々と弓兵の構えていた火の点いた矢尻が切り落とされ、足元に落ちていく。驚いた弓兵が何が起こったのか分からず戸惑う。


 塞がれていた脇道から、兵士を引き連れた若い橙色の長い髪を持った美男子が現れる。


「ふん、貴様らの負けだ。素直に投降するのだな!」


 その声の持ち主はエシェラントで、手には魔槍【グルンドデーズ】が握られていた。その正確無比な投擲攻撃で、暗闇の中で明るく見える火の点いた矢尻を切り飛ばしていた。


 エシェラントの登場を皮切りに、バルドニア王国の夜襲部隊を囲うように周りの家屋の狭い通路から、続々とウキレアの兵士達が松明を持って現れる。


 ウキレアの広い大通りとは言え、逃げ場の無い伸びきった隊列の状態では馬の機動力も生かせない。夜襲部隊の隊長が恨めしそうな顔でルアンを見つめる。


「ま、まさかルアン、貴様、俺達を罠に嵌めようと!」


「な、なぜエシェラント卿がここに……」


 疑われていたルアンもこの状況が分からずにいた。そして隊長の前にリフィスが銀の槍を持って現れると、とまどうルアンに向かってわざとらしく、大きな声で褒め称える。


「ルアン!計画通り、良くぞ敵を引き入れた!その功績は他の貴族が羨むほどだ!」


「や、やはりそうだったか!」


「ち、違う……私は、私は……」


 リフィスの言葉に隊長がしてやられたという顔になるが、対照的にルアンの顔は沈んでいた。理由は分からないが、リフィスは自分の裏切りを無かったようにしている。それだけがルアンに分かる。


 追い詰められた隊長が銀の槍を構える。


「かくなる上は、リフィス公王、貴様の首を俺が貰い受ける!」


 そして一騎駆けでリフィスに向かって突進を始めると、首を取ろうと銀の槍を馬上から大きく振り下ろす。


 その振り下ろしに槍に合わせてリフィスが、手に持つ銀の槍で迎え撃つと隊長の銀の槍の柄を両断する。両断された銀の槍を隊長が信じられない顔で見つめていると、すかさず、リフィスが通り過ぎた隊長の背に向けて、銀の槍の柄を叩き付け落馬させる。


「うがっ……」


 超人的な槍使いを見せるリフィスに、その場に居た全員が見入っていた。一瞬で隊長との一騎打ちに決着がつくと、残ったバルドニア王国の中央軍に向けて、リフィスが最終勧告を行う。


「これ以上は無駄な抵抗をしなければ命までは取らない。素直に武器を捨て投降しろ!」


 200騎近く居た夜襲部隊の兵士達がリフィスの勧告を受けて、武器を捨て始める。先頭で行われた隊長とリフィスの一騎打ちの話が後方の兵士達にも伝わる。


 しかし、後方の兵士達はコスモとサンジとマンジの人離れした強さに、すでに降伏をしていた。攻撃は全てコスモに防がれ、サンジとマンジの目にも止まらぬ同時攻撃に、次々と兵士が無力化されていた。


 降伏した兵士達をサンジとマンジと協力して捕縛していると、リフィスが一騎打ちに勝利したことを聞いたコスモが安心した顔になる。


「どうやらリフィスの奴、上手くやったみたいだな」


 事前にリフィス達が夜襲部隊を待ち受けていたのも、軍師のエーシンとグストによる采配のお陰である。


 この夜襲を分かっていたエーシンがグストと相談して、率いて来る隊長とリフィスが一騎打ちになるように進路封鎖を行い仕組んでいた。家屋に人が居なかったのも、ルアンが裏切り東門から夜襲部隊を引き入れるのが分かっていたからだ。


 東門近くに住んでいた領民は反対側の西地区へ移動させ、東地区には予め伏兵を忍ばせていた。


 何も知らない夜襲部隊が、予定通りに東門から進入するとコスモがエーシンの言い付け通り、200騎を数え、町に入ったのを確認してから進軍を止めていた。


 さらに裏切り者のルアンを、籠城戦が始まった初日から裁く時間も無い。ならば逆にバルドニア王国を裏切らせてしまおうと言う策略を施していた。


 リフィスが率いる兵士達がバルドニア王国の夜襲部隊を次々と捕縛する姿を、エーシンとグストが東門の上から微笑しながら見つめていた。


「これでバルドニア王国の中央軍の司令官も分かったであろうな、奇策をいくら張り巡らそうとも、我らの策略に遠く及ばないことにな」


「ええ、全く、私も虚仮にされたものです。初代のキリアン様の頃から計略の神童と言われたこの私に夜襲などを仕掛けるとは」


「ふむ、グスト殿が神童とな……」


 エーシンが禿げ上がったグストの頭を見て訝し気な顔をする。その視線に気付いたグストが赤面しながら言い訳を始める。


「こ、こう見えてもキリアン様に仕えた頃は、美少年と言われ髪もふっさふさの長い髪でしたからね!」


「う、うむ……グスト殿の若い頃はさぞ、美しい姿だったのだろう」


 事実グストの若い頃は、女と見間違うほどの美少年であったが、立て続けに主君が果てると、その心労が祟り今の姿となっていた。

 さすがのエーシンもその言葉を否定する勇気が無く、とりあえず納得をする姿勢を見せる。


 しかし、すぐに顔を悪巧みの顔に変え、グストと今後、この捕虜達の使い道の相談を始める。


「さて、この者らの扱いなのだがグスト殿、1つ名案があるのだが」


「ほう、それは奇遇ですねエーシン殿。私も1つ妙案がありまして」


 軍師のエーシン、グストが楽しそうに悪巧みを考えている時、外ではウキレアの中で火矢による合図が無いことに、将軍のレイドリアが焦りを見せていた。


「斥候の話では、ウキレアの内部に進入に成功したと聞いているが、合図の火が上がらないではないか!」


「まあまあ、レイドリア将軍、兵士達も長旅で疲れているのです。多少の遅れは大目に見ましょうじゃありませんか」


 その隣でオジールが顔をにやつかせ、焦るレイドリア将軍を宥めていた。オジールの考えでは、兵士達が町の中を物色して遅れているものだと思っていた。


 しかし、実際はエーシンとグストによって夜襲計画は頓挫していた。そのことがすぐ後に訪れて来た斥候の報告で分かる。


「ほ、報告!夜襲部隊がコスモによって分断され、200騎が孤立!その後、鎮圧されたと見られます!」


「な、何っ!まさかルアンの奴、私を逆に謀っていたのか!いや……しかし、裏切りがあったとしても火が起こらないのはおかしい……」


 すぐにルアンが裏切ったとレイドリアが気付くが、それでも家に火矢を放つ事は可能である。ましてや、裏切ったルアンは自身を含めて手勢は20人、夜襲部隊の火矢を放つのを止める力はない。


 それを止めるには、事前に放てないように待ち伏せする必要がある。そのことにいち早く気付く。


「……リフィスには確か、軍師のグストという男が居たな。もしやその男の入れ知恵か?」


「確か、私も噂で聞いた事がありますな。リフィス率いるジョストン領の軍は実質グストという男で持っていると」


 グストはリフィスが幼い頃から付き従う軍師だったが、決して表に出ることは無く陰からリフィスを支えていた。軍師は策を持って主君に仕える、この信条にグストは従っていた。


 戦場では軍師グストと言う名だけが、バルドニア王国に知れ渡り、実際に本人の顔を見たことがあるのは少数である。


 しかし、実際はグストにエーシンという軍師も加わり、新生ウキレア公国は策略による侵攻を完全に防ぐ体制が築かれていた。そのことにレイドリアはまだ気付いていない。


 レイドリアも智将と呼ばれた将軍、失敗を悔やむことなく予定していた力攻めに切り替えることを即決する。


「残った兵達には戻って休むように伝えておけ、明朝から本格的な力攻めを開始する!」


「は、はい!」


 斥候がレイドリアの指示を受けると各部隊の隊長に連絡して回る。横に居たオジールも、予定通りの作戦に戻ったことで援護を申し出る。


「明日の力攻め、我が戦車隊も後方支援をしましょう」


「かたじけない、オジール様の力をお借り致します」


 そう言うとオジールは天幕へ戻り、レイドリアも悔しそうな後を引く目で商業都市ウキレアの小さな明かりを見つめると、踵を返し自分の天幕へ戻っていく。


 その頃、捕虜になったバルドニア王国の兵士達が競い合うように食事を取っていた。周りはウキレアの兵士達に囲まれた状態で、武装は解除され布の衣服に身を包み、一般人と変わらない格好だ。


「うめえ!なんだこの飯は!ウキレアの奴らいつもこんなの食ってんのかよ!」


「あー、舌の上で肉がとろける。これがパンと合って、もうどうにも止まらねえ!」


 出された料理の余りの美味さに捕虜達が感動していた。バルドニア王国の兵士達は普段から料理とは言えない、原材料を少し焼いたり煮たりするだけの貧相な食事をしていたからだ。


 200人近い捕虜が地べたに座り、エシェラントの妹レシェナと数人の町の女達が忙しそうに食事を運んでいた。元盗賊の料理が得意なジュリーダンはウキレアにある飲食店の釜土を借りて、従業員の手伝いを受けながら必死に料理を作っていた。


 次々と作った料理が運ばれていくと、レシェナが追加の注文をする。


「ジュリーダン追加注文です!ほろほろの鶏肉の甘煮、ラードたっぷり染み込んだガーリックパンと、砂糖たっぷりの蜂蜜ケーキと……」


「うっわー!めちゃくちゃ食うなあいつら!後5分くらいでできるからもうちょっと待たせてくれよなレシェナさん!」


「もちろん、いいですとも!」


 ジュリーダンが汗水を垂らしながら、両手に鍋の取っ手を握り軽快に振っている。それを嬉しそうな顔でレシェナが見つめていた。


 将来、ジュリーダンが店主の飲食店を立ち上げ、レシェナが接客と配膳をする。そんなことを夢見ていたことが現実として起こっている。


 それがレシェナには嬉しくてたまらなかった。しかし、ジュリーダンは料理を作りつつも疑問に思っていた。


「なんで、エーシンさんは俺の料理を捕虜に振る舞えって言ったんだろう?」


「それは、ジュリーダンの美味しい料理をバルドニア王国にも広めるためじゃないですか?」


「あのエーシンさんがそんなこと考えるかな……」


 レシェナはジュリーダンの料理の腕を広めるためとは言うが、ある意味で合っていた。エーシンとグストが捕虜の処遇を考えていた時、ジュリーダンの存在を思い出していた。


 盗賊の砦から仲間の盗賊達を得意の料理で太らせ、動けないところをレシェナを連れて脱出したという実績がある。そして連れ出したレシェナさえも円柱状に太らせた、高カロリーの絶品の料理を作り出す力がある。


 だとしたら、その味をバルドニア王国の飢えた兵士達に伝えたらどうなるか。


 エーシンとグストの策略は、ジュリーダンの悪魔的な料理を超えた悪意に満ちていた。ジュリーダンの糖分と油分と塩分の暴力で作り上げた料理を、涙を流しながら捕虜の兵士達は食べている。


 この味を知ってしまったら、もう二度と自軍の制限された薄味のスープは飲めない。


 戦場での料理、食べ物は温かさと味に比例して士気が向上する。明日もあるか分からない命、それを今日得られる美味しい料理で満たすことで、後悔を残さず全力で戦える。


 それを見越して、エーシンとグストは捕虜達にジュリーダンの料理の味を覚えさせているのだ。まさに悪魔的な所業である。


 そして明朝になると、その捕虜達200人を無条件で南門から堂々とバルドニア王国の本陣へ送り返す。こうすることで、バルドニア王国の食料を消費させつつ不満を募らせ士気を落とさせる。


 それが軍師エーシン達の最終的な狙いである。


 送り出された捕虜達の顔は艶やかで少しだけお腹が出ていた。ある捕虜は本陣に到着すると、すぐに平原に寝そべり寝入ってしまう。血糖値が爆上がりして恐ろしい眠気が襲って来るのだ。


 その異様な兵士達の光景にレイドリアも困惑していた。


「捕虜を交渉もせずに全て無条件で返還だと?しかもなんだ、この腑抜けた兵士達の姿は……」


 無条件で兵士が戻って来たことを喜ぶべきはずなのだが、レイドリアは素直に喜べないでいた。すると、戦車隊を率いるオジールが寝そべる兵士に声をかける。


「おい、ウキレアで何があった!」


「あ、あ……」


「何だ?」


「あ、あそこは天国です……しかも甘くて適度な塩味、油分のある楽園……」


 そう言い残すと兵士が寝込んでしまう。それを見たオジールも恐怖を覚える。


「何をされたら、こうなるのだ……全く読めない」


 一体何をすれば、このような無気力な人間が作り出せるのか、人とは未知の物に遭遇するとまず恐怖を覚える。


 その未知の物の正体がジュリーダンの料理であることは、レイドリアとオジールには一生、分からないであろう。


 返って来た兵士は役に立ちそうにないが、戦況はまだ覆るまでには至ってない。すぐにレイドリアが冷静さを取り戻すと、集まっていた兵士達の方へ向かう。


 本陣前の広場で整列して待っていた兵士達の正面に立ったレイドリアが、ウキレアの力攻めを開始する号令を出す。


「良いか、上空の竜騎士部隊が地上軍を援護する!狙いはウキレアの南門、東門だ!西門、北門は敵の戦力を分散するための攻撃を行う!我が軍は戦力に勝っている、一気にウキレアを落とす!!」


「「「おう!!」」」


「どんなことがあろうとも、最後に勝つのは我がバルドニア王国である!さあ、我が領土を取り戻すぞ!!」


「「「わああああああああ!!」」」


 レイドリアの号令に兵士達が意気揚々と商業都市ウキレアを目指し進軍を始める。そして空から地上を援護するために、先行した竜騎士部隊100騎がウキレアの南門へ迫ろうとしていた。

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