最終判決
「どん」
「ばかやろ!」怒鳴り声や大きな物音が国王裁判所控室から聞こえていた。
「六つ目の発言を認めれば終わったはずなのに、なんだ違うって。説明しろ」
休廷後、勇者と賢者は控室に居た。勇者は賢者の胸ぐらを掴み壁に押し当て叫んでいた。賢者の胸ぐらを掴む手は怒りで震えていた。
「勇者に魔王裁判受けて欲しくなかったのです」賢者は勇者から目線を離し小声で言った。
後ろめたい気持ちが賢者の心の中を埋め尽くしていた。勇者に相談する機会は何度もあった。しかし、勇者の裁判に掛ける思いを見、中々強く自分の意見を言えなかった。
「なんだ。それ」
「もし交渉通り従ったら、勇者は魔王を殺した者として魔王裁判に掛けられるのですよ。どんな罰が待っているか・・」
賢者は勇者の目を見て本音を漏らした。理由を聞いて勇者は下らないと怒る気持ちが萎えた。勇者は賢者の胸ぐらから手を離した。
「ばかやろ。そんなこと気にすんな。魔王裁判を受けるのは俺だ。何があろうと名誉裁判を勝たないダメだろ」
「勝つことも大事ですが、私は負けてもいいです。勇者が助かるなら」心配そうに賢者が勇者を見た。
「恐れるな。魔王裁判は未知数だが今やるべきことは、おやじの名誉を回復することなんだ。後のことは考えるな」賢者は一瞬躊躇したが、勇者の意思に押され頷いてしまう。
賢者の納得仕切っていない態度に勇者は腹が立った。
俺を信用しないのか、こんなに長く冒険を共にして来たのに。恥ずかしいがこの言葉を伝えないと分からないとは面倒くさいぞ。勇者は後ろを向き賢者に言った。
「何で俺がこんなに楽観視出来ているのかと言うのも・・・お前だ。魔王裁判で弁護してくれるだろ。お前なら勝つと信じているからだ」
言う間、勇者はムズ痒くなった。手を降ろし握ったり開いたりを繰り返した。
「勇者。そこまで信用してくれるなんて」勇者の言葉に賢者は涙を流した。
勇者は賢者のすすり泣く声を後ろ向きで聞いた。
泣いてる。これだから嫌なんだ。恥ずかしさと泣かれる状況はきついぞ。振り向いて何と言う。泣くなといつもの対応?それとも冗談だ。お前は裁判に勝ったことないよなと言ってやるか。更に泣きそう。それも困るな。でも賢者なら怒って元気になるか・も。選択肢どうしたものか。ええいどうにでもなれ。
勇者は賢者の方へ振り向いた。
「なぜ泣く。裁判に勝つ自信がないと言っているのか。確かに負けっぱなしだがな」
「勇者酷いじゃないですか」涙が止まり賢者は反論。
「まあこれから勝利を味わえるし、連勝だってありえるな。期待してるぜ」
「そんなに期待してくれるなんて嬉しいです。次こそは勇者を勝たせて見せます。魔王裁判どんとこいです」賢者もやる気に火が付いた。二人は休廷後どう話を継ぎ接ぎするか相談した。
六つ目は兵に囲まれながら法廷の中で思案していた。
まさか交渉がないことにされるとは、人間め。勇者のみ警戒していたが、賢者のような伏兵は想定しておらんぞ。人間はどうしたいのだ。裁判に勝ちたくないのか?そんなはずはない。勇者の態度はどう説明する。勝ちたいから儂を呼んだ。賢者が勝手にしたこと?なら行動理由が理解出来んぞ。・・もしや交渉をしていないと言い張って魔王裁判に出る気がない。儂を利用するだけで。人間め。お前らの手には乗らんぞ。裁判が始まったら思う存分掻き回してやる。人間に騙されたと六つ目は憎悪した。
休廷後、裁判が再開。原告側の賢者が立ち休廷前の言動について説明した。
「原告との打ち合わせ不足でした。原告は六つ目と交渉した話を聞いていたのですが、魔王裁判を受ける事実は聞いていなかったのです」これで理屈が通るかと賢者は心配していた。
賢者は被告側・聴衆・裁判官と目線を移した。勇者は堂々と腕を組んでいた。自分たちは間違っていないと思い込んでいたからだ。
「原告。弁護人には交渉内容を伝えなかったのですか」裁判長が聞いた。
賢者は勇者を見ながら椅子に座った。勇者は座ったまま言った。
「弁護人が言った通りだ。最初、弁護人に話した内容は取引なしで、六つ目に裁判に出て貰うと言った。俺が魔物と見返りを求め交渉したと世間に思われるのが許せなかった。それが裁判の流れで、このまま嘘を付き通したら証魔の言葉が信用されなくなると思い、弁護人と争った訳だ」
勇者は発言に自信があったので、成り行きを見守った。おろおろと賢者は勇者と裁判長を見ていた。
被告側が手を挙げた。裁判長は手を当て青の人物が立って不信感を表した。青の人物は証魔に交渉は本当にあったのか確かめた。
返答に時間が掛かる証魔、原告側が意見をころころ変えられるので困った。六つの目が法廷全体を見渡した。後、勇者に全ての目が向く。勇者の心理を考えた。魔物を心底嫌っているが裁判に勝つ目的のためなら、どちらを優先するか六つ目は天秤に掛けた。
裁判長が、
「証魔早く答えなさい」と促したが六つ目は無視した。
六つ目にとっても今後魔王裁判に勇者を掛けれるかの瀬戸際だった。
「交渉したのですか」青の人物が聞くと六つ目は決断し、被告側を向いて言った。
「打ち合わせ不足。ふん。頭が悪いな人間。交渉の中身を忘れるとは儂も驚かされたぞ」苦笑いを六つ目がし、虚勢を張っていた。
六つ目の言動に被告側は打つ手がないのか、青の人物が大臣に耳打ちをしてから座った。大臣の表情は冴えなかった。
原告側はやり遂げた顔で互いを見、
「勝ったな」
「最後まで分かりませんが今度こそ勝った気がします」小声で話した。
裁判官が判決の前に、互いに言い残したことがないか聞いた。原告側は言うことはなかったが、被告側はあった。大臣が青の人物に耳打ちした。青の人物頷いた後、立った。
「原告側の証魔の交渉方法は限りなく怪しいです。意見が変わった事実を、裁判長考慮してください」
被告側は最後の抵抗をした。原告側へ不信感を抱くよう裁判官に促した。
「儂は嘘など言っておらんぞ」
「癪だが魔物の言う通りだ」六つ目と勇者が意見を一致して訴えた。
協議のため裁判官九人は法廷から退去した。
三十分後、
「判決!」裁判官九人が戻り裁判長が第三回名誉裁判の判決を述べた。
勇者は前を一点集中で見ていた。賢者は目を瞑り、鼻先に両手の指を絡ませ祈った。檻の柱を握り前屈みで、六つ目は裁判長を見た。被告側は冴えない表情で判決を待っていた。
「先代勇者は無罪とする。証魔の発言によって原告が魔王を倒したことが証明された。ただし、交渉の話で混乱が起きたことは事実である。訴えを却下にするか裁判官の中でも意見が別れましたが、それを差し引いても原告が魔王裁判を受ける勇気は、証魔の発言に信用が持てる一因でした。それから被告に言いたいのは、王としての資質が問われています。被告の行いで、先代勇者の命が奪われる原因になったのです。謝罪したからと言って、今後の行動が大事です。被告は肝に銘じてください」
判決が言い渡されると、勇者と賢者は抱き合って喜んだ。大臣は落胆し、放心状態に。青の人物は大臣を介抱した。
六つ目は法廷全体を観察し、
「これが人間の裁判か」と呟いた。




