判決後の世界
名誉裁判翌日、王城前ではデモが行われた。王は辞めろと。過去最大のデモとなり、後に世界中に広がる発端となった。
「勇者。勇者~。許せん。この手で八つ裂きにしてやりたい」王が自室で地団駄を踏む。
「無理はおやめください」白髪の大臣が王に忠告した。
王は大臣の顔を見ると腹が立ち前蹴りを放った。蹴りは大臣の太腿に入った。大臣はよろめき、倒れた。
「裁判に負けたのもお前のせいじゃ」王は大臣の腹に向かって三度蹴った。大臣は血を吐いた。
王は自室を汚され、不機嫌に人を呼び付けた。
召使いと兵士が王の部屋に来た。
「運び出せ。まったく儂の部屋を汚しおって」王の部屋から大臣が兵士に担がれ出て行った。
召使いが部屋を綺麗にすると、
「早く出て行け」と王は召使いを追い出す。
怒りが収まらない王は、
「お前にも責任があるのだぞ」部屋の隅に言葉を放った。
「はい。分かっております」部屋の隅に青の人物が立って居た。
「責任は取りますとも。ただし拷問はお断りですが」
涼しい顔で青の人物が言うので、王は怒りを込め青の人物に殴り掛かった。青の人物は軽く交わした。王は太った体の反動で前に倒れ掛かる。青の人物は王が倒れる前に支えた。両手で腹と肩を掴んで。
「王様。冷静にお願いします。責任を取らないとは言っていないでしょ。別の方法で。そうですね。王の望みは何かありますか?私が何とかしましょう」
王は青の人物に寄りかかりながら体勢を戻した。王は体に触れている青の人物の手を払いのけ言った。
「望みを叶えると王である儂の。ふざけたやつじゃ。よかろう。命令する。儂の人気を回復させろ。それと勇者を悪者にし殺せ。加えて関係者もだぞ」不敵な笑みで王は青の人物に注文を告げた。
「王は欲が深かい。願いは一つかと思いましたが・・・了解しました。なるべく叶えて見せましょう」
青の人物は片足を付いて王にお辞儀した。
「約束違えるでないぞ。もし約束を・・」王が話していると外から声がした。
「王は辞めろ」デモの声が自室に届く。
「黙れ!くず共」と王は苛立ち、部屋にある本棚の本を窓の外に投げた。本は無残に地上に落ち、音と煙を舞い上げていた。
名誉裁判で勝った勇者たちは夜、王都酒場に足を運んで祝杯を挙げていた。大きな木の机に、勇者と賢者が座り木のジョッキに入ったワインを飲む。勇者はオムライス、賢者はペペロンチーノを食べる。勇者と賢者の食べる音、話声しか酒場には聞こえない。酒場には勇者と賢者の他に客がいなかった。酒場の主人がカウンターから出て来た。
「お待たせしました。これより見世物を始めます」酒場の主人が勇者と賢者に向かって言った。
勇者と賢者は拍手した。酒場には踊りや大道芸が行われるステージがあった。ステージは縦横十メートルぐらいの板張りだった。ステージの裾から三人が現れた。
「ここは黒い森。一日中光が射さない魔物が住む森。そこに勇者と賢者が居ました」酒場の主人が本を見ながら、説明を挟んだ。
「勇者と賢者は魔物と戦っていました。世界平和のために」勇者と賢者の恰好をした二人と、三つ目猿の魔物の恰好をした人が戦う。見世物は勇者たちを模様した劇だった。
勇者役は剣で賢者役は杖を使って五度魔物と切り合いが行われた。
「うっ」魔物は前に倒れた。
「魔物との死闘の末、勇者たちは勝ちました」
「疲れたな。町に帰るか」勇者役が賢者役に声を掛け、
「そうですね。攻略は中断しましょう」と賢者役が答えた。
「勇者たちは体を回復するため黒い森の近くの町に行きました」勇者役と賢者役は歩いてステージ裾に消えた。
「町に着くと勇者たちの恰好は目立ちました。魔物との死闘で装備はボロボロでした」
勇者と賢者の恰好した人物たちがステージに出ると服装がボロボロになっていた。
本物の勇者と賢者は指をさして笑った。
「勇者。目立っていますね。宿屋に行きましょう」
「そうだな。早く宿屋に行くか」勇者役と賢者役が歩く振りをすると、宿屋と書かれた木の板と椅子を持った宿主役が現れた。
「勇者たちは宿屋に着きました」
「二名頼む」勇者役が宿主役に言った。
「かしこまりました。二階へどうぞ」宿主役が言うと、勇者役と賢者役が歩く振りをした。宿主役は掃けた。寝台と椅子がステージに出て来た。
「勇者と賢者は黒の森の攻略について話した」勇者役と賢者役は話し合ってるように動き。
「勇者たちは装備を強くしようと考えました」と酒場主人が言うと、賢者役は一回転し、勇者役を見た。勇者役が指をして口を動かし閃いた顔を観客に見せた。
「装備を買おうにも手元にお金はありません」賢者役が親指と人差し指を合わせお金がないと勇者役に見せる動きをした。
「賢者は勇者にお金がないと言いました」勇者役は荷物から通帳を取り出し、胸を叩いた。
「お金なら心配ない。銀行にあると自信満々に言いました」勇者役と賢者役は歩いてステージ裾に行く。ベットと椅子も掃ける。
「勇者たちは銀行へ」勇者役と賢者役がステージに戻り、銀行員女性役が木の板(銀行)と椅子を持って現れた。
「勇者は銀行員に金を下ろすよう頼むと奥の部屋に通されました」勇者役と銀行員役とが話し、ステージを掃ける。賢者が残り椅子に座り服から本を取り出し待っている。
「勇者が賢者の元へ戻ってきました。袋一杯の金貨と共に。賢者はびっくりしました」勇者役は三十キロ米が入る袋が膨れた状態の物を持ち現れた。賢者役が椅子よりずり落ち、持っていた本が飛んだ。
「賢者は焦りました。早く装備を買おうと勇者を引っ張り装備屋に行きました」賢者役は勇者役の手を持ちステージを掃ける。その間勇者役は浮かない顔をした。
銀行員役と小道具が消えると、装備屋主人役と木の板・椅子と共に現れた。
「賢者は銀行で見た装備品のカタログの物をさっさと買い込み会計を済ませました」賢者役が勇者役の手を引っ張りステージ裾から出て来た。買う振りを賢者役が早く動きを見せ、勇者役の袋を取り上げた。
装備屋主人役の前に袋を置いた。装備屋主人役は驚き、袋の中身を見る。賢者役が口ぱくし、装備屋主人役が頷く。袋を置いて、勇者役と賢者役が歩きステージ裾に掃ける。
装備屋のシーン中勇者役は浮かない顔をずっとしていた。
本物の勇者は賢者に何事か言った。本物の賢者は軽く怒りワインを飲み干す。本物の勇者は笑いが止まらなかった。
ステージに何もなくなると、
「勇者たちは宿屋に戻りました。装備が手に入り勇者たちは喜んでいるかと思われましたが、そうではなかった。勇者が浮かない顔をして、黙っていました。賢者は勇者になぜ浮かない顔をしているのか尋ねました」酒屋主人が説明をした。
賢者役が勇者役に尋ねると、袋から手紙を出した。勇者役が口を動かし賢者役が驚いた。
「勇者は賢者に手紙を渡し言いました。裁判所から呼び出し状が届いたと打ち明けました」
本物の勇者と賢者は夢中で見ていた。
ステージ場では演技が続いた。裁判のシーンやパレード、デモシーンなどが盛り込まれた。
「勇者は裁判に勝利しました。これにて勇者裁判完結です」酒場主人が言い終わると、賢者が立ち拍手した。涙を流しながら。
「演技者、勇者役自由兄。賢者役自由弟。魔王役侍。勇者の母役本人。盗賊じいさん役本人。全医者役冒険者カウンセラー。女神役知識鑑定士老婆。脇男役若い男A。脇女役若い男B。・・・」酒場主人が演技者を紹介する。名前が呼ばれた人物たちがステージに上がった。
「語り手。私です。脚本知識鑑定士老婆でした」
賢者は拍手を続けていた。演技に満足し絶賛していた。勇者は寝ていた。机上に顔を乗せ、木のジョッキを触ったままで。
「勇者。勇者。劇が終わりましたよ」勇者の体を賢者が揺すった。
「う~ん」中々勇者は起きなかった。
演技者たちが勇者の元へ来た。
「勇者っち。寝てるし。酷くねえ」自由兄が文句を言った。
「感想聞きたかったです」悲しそうに自由弟が言う。
「すみません。迷惑かけて」勇者の母が全員に頭を下げた。
「奥さんのせいじゃないよ。疲れとったんじゃろう」勇者を庇う盗賊じいさん。
「・・・・無念」魔王のコスプレの中より侍が静かに言う。誰にも声は聞こえていなかった。
「更生プログラムのやり直しのようですね」冒険者カウンセラーが紙に何かを書きながら言った。
「起こさないといけないねえ」勇者の前に老婆が行く。
「やれ。や・あ・れ」
「や・あ・れ。や・あ・れ」若い男A・Bが煽る。
「どん」老婆のエリンギが勇者を襲った。エリンギは勇者の後頭部に当たった。
「いてえ~」勇者が頭を起こした。額は薄ら赤くなっていた。
「あんた見てないねえ」老婆が言うと勇者は不思議そうに周りを見た。
「何だ。劇終わったのかよ」額と後頭部を勇者が擦る。
「終わりましたよ。見てなかったでしょう」賢者が勇者に優しく声を掛けた。
「仕方ないだろ。劇が長すぎだ。もっと短くしろよ。痛いなあ。殴ることはないだろ」
「寝てた罰です」
賢者の言葉に全員が笑い勇者は、
「罰はもうやめてくれ。懲りてるんだ」と言った。
酒場の外では旭が上っていた。
一週間後。勇者と賢者は緑錆の海に居た。
「はあ裁判は終わったのに、まだこの作業しないといけないのか」
海岸のゴミを勇者が回収する。緑錆の海を勇者が汚して二年経っていた。海はまだ汚れていたが魚や海藻類などはすこしづつ増え、前の海に戻りつつあった。それでも緑生の海と呼ばれていた緑のような青い色の海に戻るには、時間がまだ必要だった。
「緑錆の海裁判の判決が変わることがあっても、私たちがした過ちは変わらないんですよ」海水を小瓶に採取し、賢者は匂いと手触りを確認した。
「お前らしい考えだな。俺はこんな作業より女神を探したいな。女神は何処に居るやら」笑いながら賢者は言った。
「私も女神を探すの手伝いますから。作業続けましょう」
「手伝うのは当然だ。俺もこっちの作業してるんだからな」
「はい、はい」賢者が勇者の話を軽く受け流した。
勇者は嫌々作業しているように賢者に見せていたが、内心では早く元の海の姿に戻そうとしていた。裁判で原告・被告の立場を知り被害者の気持ちも理解していた。それに魔王を倒し、次に自分は何をすればいいのか迷っていた。勇者は緑錆の海を元の状態に戻せば、何かやることが見つかるんじゃないかと作業に臨んでいた。
勇者は手を止め、賢者を見た。
「なあ魔王裁判どうなるんだろな」
「そういえば魔物からは連絡何もないですね。六つ目も裁判後どうなったのでしょう」
やることはまだあった魔物の裁判を受けること。勇者の中では、魔物と戦うのは裁判ではなく、肉体を戦わす方がよかった。
「王に殺されてるかもしれんぞ」
「ありえますね」
どんな理由でも言いから魔物の裁判など勇者はない方に向かって欲しかった。裁判に関わることに嫌気が差していた。
「六つ目が死んでいれば、裁判無くなるのにな」
「希望ですね。そういけばいいですが。作業しましょうか」
二人は作業を再開したが、すぐに勇者は手を止めた。海を見渡した。
「終わらねえな」と勇者は呟いた。
「その内終わりますよ」賢者は勇者に声を掛け二人は作業を続けた。
勇者側は完結です。読んで下さりありがとうございます。魔物側の完結は名誉裁判後の世界で、魔王裁判の方で完結したいと思います。




