休廷と酒
休廷後裁判が再開。勇者と賢者の顔は明るくなかった。暗い重たい顔だった。
「裁判を再開します。原告側は被告側の主張に答えてください」賢者は席を立ち重そうに口が動いた。
「現時点で魔王か証明する根拠は提示できないですが、時間を頂けば証明します。その方法は魔王の首の解剖、他の魔物との違いを解析するのです。更に並行で魔物が残した文献を探します。魔物も独自文化を築いた可能性があり、文字らしき物もあれば魔王について分かるかもしれません」自信なさそうに賢者は席に着いた。
裁判長は被告側の意見を聞き、尋ねた。
「今回の裁判では証明できないと言うのですか」はいと賢者は答えると、裁判長は九人を集め、耳打ちし九人は頷き席に戻った。
「原告側の魔王を証明することは次回の裁判に持ち越しとします。被告側は他にも意見がありますか」
「話すことはないです」涼しい顔で被告側は言った。
裁判長は原告にも意見を聞いたが、
「話はありません」原告側は悔しそうな顔だ。
完璧にやられた。金で買われただけのことはあるな青の人物と勇者は被告側の席を見ていた。
「両方薬について意見が出尽くしたので、第一回名誉裁判を閉廷する。第二回は偽薬裁判は不正に行われたかについてです」と裁判長が言って全員が立ち裁判は決着つかぬまま終わった。
閉廷の言葉を聞きながら勇者は、この戦い方が間違っていたら、休廷後の賢者と話し合いでボツになった案を実行しなければいけない。例え賢者が止めようとも。一つの覚悟が生まれつつあった。
裁判後の夜に王都の酒場を貸切、裁判に関わった人々を集めた打ち上げが開かれた。
「勇者っち裁判かんぱ~い」
打ち上げのため食材を入れてあった木箱に自由兄の乗っかり、酒が入った木のジョッキを掲げ音頭を執った。勇者と賢者に裁判の関係者、知り合いが木のジョッキを同時に掲げた。
「兄さん変な言い方はやめてくれよ」自由弟が自由兄を注意し、片手を引っ張り木箱から降ろす。
「おっと。あぶねえなあ~弟っち」すでに乾杯前に自由兄は木のジョッキで一杯飲んでいた。
「何でおこるのかなあ~。楽しく飲もうぜ」弟の顔覗き込み自由兄は言った。
「いいから大人しく飲んでてよ。・・すみません。勇者さんたちは楽しく飲んでいてください」自由兄を引っ張って弟は外に出て行った。
酒場に居た全員が何とも言えない空気で打ち上げが始まった。
酒場の机の上には海鮮類が並んだ。巨大魚の塩で包まれた香草焼き。エビと貝の混ぜご飯や貝やエビの入ったスープにりんごなど果物が並んだ。
「嫌な奴だな。相変わらず場の空気を掻き混ぜる」勇者はジョッキを置き、香草焼きに手を付けながら賢者に言った。
「それでも、自由兄を呼んだのは盛り上げて欲しかったんでしょ」笑顔で賢者がジョッキを置きながら答えた。
「ははは。まあそうだな。あのバカならやってくれるだろうと、今日は違った方にやってくれたが、デモの活躍はいい意味でやってくれた感謝で会に呼んでもいたんだが」
「感謝だなんて、勇者も成長しましたね」少し目頭に熱い物を賢者は感じ目を擦った。
「泣くなよ」と勇者は賢者に香草焼きが取り分けられた皿を渡した。
「泣きませんよ」皿を受け取り強がる賢者だった。
「どん」部屋に奇妙な音が流れた。
「ばん。ぱっ、ぱっ、ばん」
「どうしたのじゃ」盗賊じいさんがバク転を二回し、酒場の壁に当たり片膝を付いていた。
「わしが悪い事でもしたかのう」盗賊じいさんのやさしい目つきは変わり、豹のように鋭い目だった。目つきを変える行動を取らしたのは知識鑑定士の老婆だった。
「騒がしいな。ケンカか?」積極的に勇者は関わろうと盗賊じいさんと老婆の元へ。老婆の頭は床に着く直前で止まっていた。
頭を上げ老婆は、
「あんた強いね」と喜んだ。
「婆さん。また強さを調べたな」盗賊じいさんの手を勇者が取りゆっくり立たせた。
その場に居た人たちは何が起きたのか分かっていなかった。賢者は老婆の挨拶みたいなものですと全員に聞こえる声で気配りをした。全員は落ち着きを取り戻し食事に会話が再開。
盗賊じいさんも賢者の説明を聞き、豹目は普段通りに戻った。勇者と共に老婆に近寄った。
「所構わず強さを調べるのは止せよな」
「職業病かいね。歴史に残る強い人を見つけたいので出るんだろうね」
「恐ろしい職業病じゃのう」
三人は楽しく会話を五分ほどして、勇者が老婆に頼みごとをした。
「俺が倒した魔物が魔王だと証明するのに力を貸して欲しい。報酬は言い値で払う」老婆の目が光った。
「言い値かい。そういえば前の報酬も貰ってないね。勇者。報酬は金以外でもいいかい」
婆さんが金以外の報酬。私と戦ってくれるかい。言いそうだな。戦ってもいいが、婆さんと戦うのは魔王を倒すより難しいぞ。「ああいいぞ」いいぞと言ってしまった。手を抜いて戦うか。待てよ。婆さんなら手抜きを見抜きそうだ。全力で。
「報酬は勇者の歴史を書かしてくれるかい」老婆は知識鑑定士らしい要求だった。勇者は戦わずに済んで安堵し、快く報酬を払うことを約束した。
勇者は賢者の元に戻り、老婆が引き受けてくれたことを報告していた。
「どん」酒場のドアが開いた。
「お待たせしました。俺は勇者だ」勇者のコスプレをした自由兄が登場。酒場に入るなり後ろを振り向き十歩進み、
「宿敵魔王今日こそ倒してやるぞ」と言い出す。
「ゆうしゃ」小声で魔王の首が酒場のドアより覗く。が中々酒場の中に魔王は入ってこない。
「弟。入ってこい」手の動きと小声で自由兄が魔王を呼んだ。
「ゆうしゃ。わがえいえんのてき」魔王が一歩、一歩入ってきた。デモで使われた魔王のコスプレを着た自由弟だった。コスプレ内で弟は恥ずかしさと戦う。弟は自由兄に襲い掛かろうと両手を上げた。
自由兄は右手を前に突き出し、
「ほのお」と唱えた。
「どん」自由兄は前に倒れた。
「兄さん」弟が自由兄を助けに入った。
「痛てえ」頭を擦りながら自由兄は立ち上がり後ろを振り向いた。
「あんた弱いね」老婆が立って居た。勇者と賢者、酒場に居た全員が腹を抱え笑うのだった。
酒を飲み騒ぐのは原告側だけではなかった。被告側でも酒を飲んでいた。王の広間で、王と白髪の大臣、青の人物が食事をしていた。長机の両端に王と青の人物が座り、大臣は王の斜め横近くに座った。机の上にはライ麦パン・焼いた骨付きラム肉にワインがグラスに注がれ並んだ。
王はワインを一口飲んで言った。
「青の弁護人良き働きをした。褒めて遣わす」
「いえいえ。私は仕事をしただけです」席に座ったまま青の人物は会釈。
「謙遜はよいよい。魔王が偽物か。おもしろい発想じゃった。なあ大臣」
「はい」胸に手を当て大臣が自慢げに会釈した。
「お前の働きもあったからのう。弁護士を選ぶ時、大臣が押さなければ選ばなかったであろう」
「いえ。王様の眼力でございます」王を煽てる大臣だった。
「そうであるか。眼力か」喜んだ顔を大臣に見せる王。
「凡人なら、我が王国無敗の金で動くあの弁護士を雇いますが、王様は勇者専門の弁護人を雇われたのですから」王はパンを齧り、肉を頬張り、ワインで胃に流し込んだ。欲望の赴くままに。
「わははは」王の笑い声が城に響いていた。
一時間後、王城の客室に一羽のカラスが窓際に居た。
「裁判は上手くいっているか」カラスが九官鳥のように高い声で話した。
「順調に裁判は進んでいます」
「勇者は倒せそうか」
「難しいと思われます。裁判は先代勇者の関するものですので、六つ目様のご要望には答えられないかと」カラスは窓際でちょこちょこ飛んで聞き口ばしを空けた。
「分かった。六つ目様に伝えておく。とりあえず王の信用を勝ち取り勇者を倒す方法を導き出せ」そう言い残しカラスは飛んで行った。三つの目を光らせ。
「王に勇者を殺させるか」と呟く青の人物が窓際に居た。




