薬と歴史
勇者は賢者に耳打ちした。
「おい。薬が効かないぞ。もしかして偽薬か」賢者も勇者に耳打ちで言葉を返す。
「すり替えられたのかもしれませんよ」
「提出する前に薬は確かめたのか」
「はい。昨日までは本物でした。首実験一緒にしたじゃないですか」
「そうだったな」二人が薬のことを考えていると裁判長が声を掛けた。
「原告。どうなっているのですか。ちゃんと説明しなさい。このままでは、進行の妨げになり法廷を侮辱したことになりますよ」
「三分下さい」手を挙げ賢者が裁判長に要求した。裁判官は賢者の要求を受け入れた。
「小瓶のことは置いときましょう。これからどうするかですが、実は不測の事態があってはいけないと持ってきている物が」賢者は服の中より試験管を取り出した。
「試験管?おいそれは」苦渋の顔だった勇者の顔が晴れた。
「はい。魔急に薬を渡すついでに、取って置いた薬です」
「早く言えよ」
「忘れていました。動揺で試験管の存在を」
「いいから魔王の目に掛けろ」試験管の蓋を開け賢者は言った。
「お待たせしてすいません。首実験再開です」賢者は試験管を傾けた。薬は目に注がれた。
「じゅわ~」魔王の目は煙を上げ溶け出した。
よし。賢者良くやった。裁判が終わったら褒めてやる。勇者は笑顔で拳を作り喜ぶ。賢者も安堵する。二人は事情が分かっていたが、法廷にいた他の人は分からなかった。
「原告側。その試験管は何かね」説明を裁判官が求め、賢者が話した。
試験管の中身が分かると被告側が質問した。
「試験管の中身が魔王を倒せる薬という証明はされておりません。成分表は小瓶の中身を分析したものですよねえ」
資料を叩く青の人物に賢者が答えた。
「分析は小瓶の成分表です。すり替えられる前のですが」
「試験管の中身は分析されていないので、魔王を倒せる薬とは限りませんねえ」青の人物の言い回しにカチンと来る勇者は吠えようとしたが、その前に賢者が返答した。
「後日、試験管とここにある小瓶の成分表を出したいと思います。裁判長いいでしょうか」
原告側と被告側は裁判長の判断を待った。
「分かりました。次の裁判までに再提出をお願いします」
「ありがとうございます。あともう一つ、お願いしたいのですが、すり替えられた可能性が高い小瓶のことです。次の裁判でも起こり得る危険性があります。公平に薬を調べ、保管の対策を講じて頂きたいのです」数秒裁判長は悩み、八人の裁判官に集まるよう命じた。
裁判官たちは話し合いを始め、三分後。
「保管の件は分かりました。対策を講じます。しかし、小瓶がすり替わった話は裁判所の公平さを疑う原告側がの気持ちと受け取りますので」原告側は裁判官の印象を悪くする。それでも賢者は次の裁判で薬の成分表は真実味が帯びると目処が立った。
「不利になったろうが」賢者の計算が分からない勇者は怒った。賢者は勇者を宥め原告側の椅子に座り、裁判後に理由を教えることで納得させた。
裁判官は被告側に他に意見があるか聞いた。
被告側はありますと言い、原告側に質問した。
「勇者の書についてお聞きしたい。この本は誰が書いていますか?」
「初代勇者です」
「本当にそう言い切れます。捏造されたと言うことはないですよね」
「ありえません。そのことで、証人を呼びたいのですがいいですか裁判長」賢者が裁判長に要求した。
「証人をどうぞ」と裁判長が言い、証人が法廷に来た。証人は知識鑑定士の老婆だった。早速証人喚問が始まった。
「なぜ、この本が本物と言えるのですか」老婆に質問を浴びせる被告側。
「初代勇者の筆跡と紙に記述が本物と証明しとる」
「もっと具体的にお願いします」ボロを出させようと青の人物は質問をする。
「筆跡は冒険者協会設立時の書類が協会に残っており、照合すれば一発だね。紙は普通の紙で、今一般に使われておる魔法紙ではなかったよ。初代勇者が生きておる時代には、魔法紙は存在してないよ。これでいいかい」被告側の質問を軽やかに老婆は避ける。
上手く対処されるが被告側は質問攻めを続けた。
「魔王の倒せる薬の記述があるページだけ差し替えられていませんか」
「ありえないね。継ぎ接ぎが目立つよ」
「分からないようしていたら」
「しつこいね。私しゃあプロだよ。継ぎ接ぎがあったら見抜くよ。なめないでほしいね」
老婆の言動に勇者は、さすが婆さん信頼できる。これは楽くだ悪いなと感謝するのだった。青の人物は老婆に押され出し質問の趣旨を変えた。
「でしたら、魔王を倒せる薬と言う根拠はこの書に書いていますか。私はどうして魔王を倒せるのがこの薬ですよと、魔王の弱点が分かっているのが不思議です。その辺を説明願いたい」
呆れた顔で老婆が言った。
「あんた人間かい。歴史を知らな過ぎだね。体に歴史を叩きこもうかい。こう」立って居る所で老婆は拳を突く。放たれた拳は目にも止まらなぬ早さで風圧が起きる。その風は青の人物に向け飛んだ。青の人物の帽子が風によって飛びそうになる。帽子は一センチ浮くが、青の人物は手で押さえほっとする顔を見せた。拳を静かに体の横に戻し老婆はニヤリとした。
「証人過激な言動は慎んでください」裁判長は老婆を注意する。
「はいよ」老婆は反省した様子が伺えなかった。ままで被告側の質問に答えた。
「協会創立時には魔物の研究が盛んで、強さの象徴が目にあることなど、判明した魔物新発見時代があった。そんな時代に魔物の弱点が目にあると分かった。魔物は綺麗な水に弱く滝の洞窟の地下湖の水なら、薬草と混ぜ魔王を倒せると仮定した事実が、魔物実験記に書かれておった。被告側のあんた分かったかい」
老婆の淀みのない回答に青の人物も、はいとしか答えようがなかった。青の人物は立ち上がり他の質問を老婆にした。
「原告が倒した八つ目魔王は本物ですか。偽物の可能性はないですか?歴史の視点から見て魔王は正真正銘の魔王ですか」魔王の首に青の人物が近寄り手で示す。
「魔王ねえ。生物的・医学的にこれが魔王とは言えないよ。専門外だからね私の。歴史は推測の学問だよ、あんた。魔物新発見時代に魔物を尋問し聞いた話の記述で、魔王は八つ目、魔王城に居るのが分かった。歴史が教える魔王の特徴はこんなとこだね。私の見解は分かったかい」
老婆の話を聞きながら、魔王の首が置かれる机の周りを一周し、青の人物は言った。
「分かりました。これが本物の魔王と立証できないことが」
「何を言っているのですか。原告が倒した、正真正銘の魔王です」立ち上がり、賢者は声を張り上げた。
「違います。魔王とは立証できないと言っているのです。原告は八つ目魔物を魔王城で殺害しましたが、これが本物の魔王とは誰も言えないのです」
賢者は口を挿んで反論しようとしたが、裁判官に止められ注意を受けた。
静かになると青の人物は右手と左手の指を立て説明した。
「他に八つ目魔物が居るかもしれません。九つ目の魔物だって居る可能性も否定できません。証人の話でも、魔物を尋問し魔王の特徴を聞いたと言いますが、尋問自体が怪しいです。証人に聞きます。尋問はどのように行われたか記述は残っていますか」
「歴史には残ってないねえ」早口で老婆が答えた。
「歴史にない。想像で吐きそうになります。尋問は強要・拷問・捏造?何でもアリだ。捏造は飛躍しすぎですが、魔物に対し人間に接するように尋問したか・・・何とも言えません」
「被告側。何が言いたいのか明確にしなさい」裁判長が注意した。
「魔物が嘘の供述をした可能性があると言いたいのです。よって魔王は本物と立証できないと主張します」椅子に座る青の人物。
「原告側は被告側の主張に言いたいことはありますか」と裁判長に聞かれ、原告側は困った。小声で相談をした。
「魔王だと言い張るか」強引に主張をねじ込もうと勇者がする。
「やめましょう。視点を変えるのです。魔王と分かる方法を見つけるのです」
「しかないか。分かった。別の手を考える時間がいるな。裁判長」手を挙げ勇者は休廷を頼んだ。
裁判長も了承し、休廷となった。勇者たちは控室に行き、魔王である主張を考えるのだった。




