提出物2
冒険者協会には二種類の鑑定士がいた。冒険者が魔物を倒し記憶を見る魔法鑑定士。人間の知識で物事を見る鑑定士がいた。
冒険者協会三階に鑑定士部門があった。ここはとてつもなく忙しかった。魔物を倒した冒険者が日々報奨金の鑑定に列を並べた。集団健康診断のように、
「はい。次の方」鑑定士が冒険者の頭を触り、問診票のような紙に、
「一つ目うさぎ三頭」と書いた。その紙を冒険者に渡した。受け取った紙を銀行や協会の窓口に出すと報奨金が出るシステムだ。
勇者も鑑定を受けたので、公式に魔王を倒したことが証明され、緑錆の海裁判賠償金が免除になっていた。
勇者と賢者は行列を避け同じ階にある魔法を使わない知識鑑定士の元へ行った。勇者が裁判のために選んだ知識鑑定士がいる部屋は、本棚に入りきらない本の山が連なる場所だった。
「誰かいないか」勇者が呼ぶと、エリンギのような盛り上がった髪をした老婆が現れた。
「はいはい」上半身を動かさず、すり足で二人に近付いてきた。
新種の魔物だなと勇者、動きが変わっていると賢者、老婆の不気味さに二人は戸惑った。更に不気味さは動きだけではなかった。服も上下黒のスウエットで死神みたいな印象も受けた。
老婆は二人の近くに来るとじ~と見た。
目が悪いのかと勇者は老婆を見、賢者は何歳なんだろうと推理した。
「婆さん。鑑定を頼みたい」勇者は老婆に声を掛けるが、反応を見せず二人を見るだけ。時折老婆の目線は動き、舐めまわすように二人を見るようになった。
「婆さん。聞こえてるか?鑑定を頼みたいんだけど」音量を上げ勇者が老婆に声を掛ける。
老婆は反応しない。
私たちをこうも見て、不思議ですね。賢者は老婆のことを考えていた。その間、勇者が大きな声を出し続けた。勇者が苦労しているのに気付き賢者は考えるのを止め、老婆へ声を掛ける。
それでも老婆に反応がなく傍で声を掛けようと勇者が顔を近づけようとしたら、老婆は頭を下げた。頭が下がると老婆のエリンギのような髪が勇者の頭上に襲いかかった。勇者は無意識に避けようと仰け反るが、エリンギは早かった。頭に当たる寸前まで勇者の神経は反応できない。当たると思われたがエリンギは勇者の鼻の先端を擦め、地上に叩き付けられた。その衝撃で風が起き本をなぎ倒した。勇者の神経はエリンギが頭に当たるより、数コンマ速く動き助かった。
「何するんだ。危ないな」
「勇者。怪我はないですか」二人が狼狽えるほど老婆の動きは尋常でなかった。驚いている二人に対して老婆は言った。
「お二人さんは歴史に残るほど強い」
「はあ」理解できない質問が来て二人は混乱。
歴史に残る強さ。あるな。誰よりもあるよな。魔王倒した英雄なんだから。老婆の質問に勇者の混乱はそれほどなく、
「英雄として歴史に残るぞ」
「ほお~英雄さんかい。そちらさんは強いの」まだ賢者は混乱の中にいた。
自分の強さの定義が分からなかった。
勇者は確かに魔王を倒す力がある。私は補助するだけで、力が強いわけじゃない。魔法が使えても、歴史に残るほど強力かは言い難い。自分の師匠や冒険者カウンセラーの昔話を聞くと強さの判断がつかない。賢者は質問の答えが出なかった。自分の強さが分からない正直な気持ちを老婆に伝えた。
「私は」
「遅い。そっちの人弱いね」老婆は賢者の答えを聞く前に判断した。
賢者は混乱の中に引きずり込まれた。混乱し、動きが止まる賢者を見て勇者はこれはダメだな。俺が聞かなければ謎は一生謎だと老婆へ聞いた。
「なぜ聞く前に弱いと決めつけるんだ」
「問に対して早く答えを出せない人が強いと思うのかい」
「確かに判断が遅い人物に強いのはいないな」老婆の意見に勇者は賛同した。
「歴史が証明してる」と老婆はそこら辺にある本を取って叩き、また置いた。
「例えば、冒険者協会設立者と仲間の初代勇者の強さが見本だね」勇者は笑顔になった。
「俺。勇者の子孫」と指で自分をさす勇者だった。
老婆は目の色を変え勇者を見た。
「八つ目の魔王を倒した勇者かい」
自慢げに胸を張り勇者は腕を組んで頷いた。
「そうかい。生身の勇者が生きてる間に見えるとは嬉しいね」
老婆は勇者に近寄り体をぺたぺた触った。勇者は触られている間、笑顔の力が減って行った。いらっしゃいませ~。女神の笑顔。ぺたぺた老婆の手は冷たく硬い筋張った骨が勇者に触れる。おかえり。母の笑顔に勇者の笑顔の度合いが下がる。わきにぺたぺた。太腿にぺたぺた。恥部にぺた・。
「婆さん。やめてくれ」申し訳ない。勇者の笑顔は侍の表情に変面した。
老婆の手を掴みゆっくり拒否を表し話題を勇者が振った。
「鑑定頼めるか」
「いいよ。勇者なら断る理由ないからね。鑑定は何かい。魔王に関連したものとか」
「まあ関連はしている物だ」
賢者の方を向いて勇者は言った。
「勇者の書出してくれ」混乱の中にいた賢者の元へ勇者が手を差し伸べ救った。
「はい」と服より勇者の書を老婆に渡そうとした。お待ち、と老婆はポケットより白手を取り出し装着した。後、勇者の書を受け取ると老婆は震え出し、
「本物かい」
「当たり前だ。家に伝わる本だからな」
この言葉を聞いた老婆は本を持って歩き出し、本の山中裾野を横切り、椅子に辿り着き座った。勇者の書を一度机に置き手を合わせ、
「冒険者と歴史に感謝します」と老婆は目を瞑って言った。
数秒後、目を空け老婆は勇者の書を読み出した。追うように二人も老婆の元へ来た。
「婆さん。その本が本物の勇者の書と、鑑定士て欲しいんだ」老婆に声を掛ける勇者。賢者も一緒に頼んだ。
勇者の書を慎重に一枚捲り老婆は言った。
「任しときな。隅から隅まで鑑定しとくけど期限はあるのかい」
「三週間。遅くても一ヶ月以内。出来るか」
「待ってください勇者。それでは遅いです」賢者が普段の声の音量で言った後、勇者に耳打ちした。
「裁判まで一ヶ月ですよ。ぎりぎりに渡されても困りますよ。裁判所への申請や打ち合わせがあるんですから」賢者の意見を聞き勇者も頷き、意見を変えた。
「婆さん遅くても三週間が限界だ。いけるか」真直ぐに勇者の目を婆さんが見た。勇者の目と婆さんの目が互いの黒目に映った。
五秒後。
「勇者の頼み断れないね。任しときな。きっちり期日までに仕上げておくよ」老婆は勇者の書と向き合った。
賢者は気になって仕方がないことがあり老婆に聞いた。
「料金はいかほどですか」
「ばかやろう。婆さんの邪魔するな」鑑定料を気にする賢者の首元を勇者が掴んだ。
「帰るぞ」勇者は賢者を引きずりながら本の山中に入って行った。
老婆は勇者の書に夢中で賢者の言葉が耳に入っていなかった。




