燃え上がるデモ2
デモの盛り上がりに、城前で兵士たちの動きが慌ただしくなる。デモが始まった頃は城前に5人ほど配備していた。それがデモの盛り上がりにつれ兵が増えていった。勇者が参加する頃には、兵は二百人ぐらいに膨れ上がった。
多数の兵が城前に現れると危険な香りが漂い出した。デモ参加者も臭いを感じ取り、不穏な空気になった。勇者の参加は王側を刺激してしまう。
危険な香りはデモ会場に充満。香りは臭いを吸っただけでダメなとこまで。城前にいた一人の兵がその香りを吸い行動した。
「前進」と声を上げた。
兵たちがデモ参加者に近付く。「どん。どん。」と兵士の西洋式甲冑が鳴りながら。兵士の行進に威圧されデモ参加者は後ろに下がって行く。自由兄の上に居る勇者も兵たちとデモ参加者の様子に、厳しい顔になった。
「降ろしてくれ」と自由兄の肩より勇者が降りた。地面に着くと勇者の足は城前の兵に向かい歩き始めた。デモの参加者が後ろに向かっていくので、賢者はどうかしたのかと起き上る。人が多すぎて勇者の行動が見えていない。
兵士の前に勇者は飛び出す。デモ参加者は兵士に威圧され勇者が“ぽつん”と浮いた。
まるで勇者対二百人の兵士に見えた。勇者が兵士たちを睨んだ。兵士たちの行進も止まった。
両者が睨み合う。
何が起きたのか賢者がデモ参加者を掻き分け前に行った。
三十秒ほど両方睨んだままの状況。
ようやく賢者がデモ参加者の前に出ると、勇者が兵士と対峙しているので、声が漏れた。
「勇者?」驚いた顔に賢者の表情が変わる。そこへ自由弟が横に来、魔王のコスプレの頭を取り状況を賢者に説明した。賢者が弟の方に目線を送ると、勇者が口を空けた。
「何のつもりだ。雁首揃えて。俺たちは裁判を開かせろと声をを上げているだけなのに、邪魔するな」
前進と号令した兵士が勇者の問いに答えた。
「勇者様。デモを解散してください。王の命令です」
体から熱気を放ち威圧的な顔に勇者がなった。
「王の命令だと。命令できるなら裁判所に命令しろ。父の名誉を回復する裁判を開けと」
「王の命令です。デモを解散してください」兵士は冷酷に任務を遂行した。
「嫌だ。訴えを聞くまで俺は離れん」勇者は腕を組み、首を振って意思表示した。
「許可は取ってるのですか」意外な言葉を兵士が投げかけた。
「許可?・・・取っていないがどうしたのだ」逆切れ気味に勇者が言い返した。
「排除されても文句が言えませんね」この言葉が切っ掛けに兵士たちは動き出した。
兵士が動くのを見て勇者が危ないと賢者は判断する。走って賢者は勇者に近寄った。賢者と勇者が体が触れる距離までに来たところで、賢者の手が勇者の腕を掴んだ。
「逃げましょう」と賢者は勇者の腕を引っ張りデモ会場を去ろうとした。半歩だけ勇者の体が賢者の行く方角に持っていかれる。
しかし、ふんと勇者が力を入れ、賢者に掴まれた手を自分の方へ引っ張り返した。その引っ張る力が強く早かったので賢者の手は勇者の腕より離れてしまう。反動で賢者は躓き前のめりにバランスを崩した。
うわ~ちょっと手を外さないでくださいと賢者がすぐに勇者のいる、後ろを振り向いた。
そこには、
「俺は逃げない」右手を前に突き出す勇者がいた。
やばい。
賢者は勇者しか見えない世界に無意識に入った。音が消え。兵士が消え。デモ参加者が消え。自由兄弟が消え、勇者と二人だけが暗闇にいる感覚に陥る。ゆっくりと一コマづつ勇者が動いた。右手が開き勇者が言った。
「炎」火の玉が風船の膨らむように大きくなる。みるみる膨らみ・・右手より炎が飛び立つ。
終わった。
炎が飛び立つ完全なる描写を見る前に、賢者は体を現実が見えない方向へ崩れた。賢者は四つん這いで首が落ち目を瞑った。勇者も見えない世界に逃げた。
「ぼわ~。うあ~」炎・人の声が誰もいない世界に響いた。
勇者・・・殺してしまった。魔物ではなく人間を。・・・・取り返しがつかない。暗闇で賢者が項垂れた。
ゆうしゃ。勇者と、賢者は念仏かのごとく唱え続けた。
数秒後・・・現実を見なければ、どんなことが待っていようが勇者を助ける。
賢者は覚悟を決め目を空けた。
目の前には地面。少しずつ首を上げると口を空けた自由兄弟・唖然とするデモ参加者が見えた。賢者は壊れたロボットの動きでがっ、がっとゆっくりとぎこちなく、首を現実に向けた。
勇者が立っている姿が飛び込んできた。右手からは煙が上がる。思い描いた現実が現実になっていく。賢者は最も辛辣な現実に首を向けた。
兵士が倒れていた。
あれ。賢者の考えていた現実と違った光景があった。
「どうして」兵士たちは倒れていたが、外傷はなく腰を抜かしているだけだった。
「あ~すっきりする」屈託のない勇者の声。
後ろを振り向き勇者は賢者の方へ四歩進んだ。賢者の後ろに勇者が立つ。勇者が賢者の手を掴み唖然としている賢者を起こす。ず~と賢者は勇者を見。はっと意識がしっかりする。
「勇者。・・・あれは何ですか」と賢者の説教が徐々に力強く音符の記号のように上がった。
「炎を空に向け撃っただけだが。少し城に向け撃ったけどな。王を脅す気持ちを込めてな。城に当てればよかったか」清々しく勇者は事情を説明する。
「当てないでください」事情を聞き賢者の心が平常時に戻っていく。
「兵士を殺すのかと焦るじゃないですか。心臓が普段の倍鼓動しましたよ」
「えっ。兵士を殺す。バカ言うな。俺は魔物しか殺さん」貯まったものを出した勇者の顔は晴れていた。
「魔物しかね。だけど人間を殺さなくても、この騒ぎを起こしたら計画が台無しじゃないですか」
勇者の顔に雲が掛り晴れる面積が減った。
「計画・・・しまった。ついデモをしている人を見ると、俺の訴えを他人にさせていいのか?戦わなくていいのか?と反応したんだ」
雲が広がり後悔の雨は顔ではなく勇者の心に降った。
「起こったとを悔やんでも意味ないです。次の計画を考えましょう」と賢者は甘く、気にしなくていいよと手で勇者の肩を叩いた。失敗を結局簡単に許す賢者だった。
「よし。次だ次。どうにかなるな。おやじ待ってろ。絶対裁判するから」
雲の間から晴れが除く勇者、心では後悔の雨は止んだ。
二人はデモ参加者を掻き分け帰ろうとしたが賢者は大事なことに気付く。
「勇者。デモ参加者に礼を」
「忘れるとこだった」二人は頭を下げ礼を言うと、
「ゆうしゃ」デモ参加者の一部の盛り上がりたいだけの人が歓声を上げた。それにつられたデモ参加者は声を上げ二人を送り出した。
勇者が居なくなると、残された人たちは”ぽかん”とする。
「解散かな」会場の様子を見、自由兄が参加者に解散を告げデモは収束した。兵も強制執行する前にデモが解散したので、何もせず引き上げた。
城の四階廊下ではデモを見ていた王がいた。
「何じゃ。あれは」
白髪の大臣が王の横について一緒に観戦し胸に手を当て感想を述べた。
「勇者が魔法を空に放ったようです」青ざめた表情で、
「恐ろしいのう。こっちに向けて撃ったと思うたぞ」と王が勇者の怖さを実感した。
勇者暴発デモ事件の次の日、王都では勇者の話で持ちきりだ。
「半端なかったな」路上で股を広げて座っている若い男A
「かっこよかったすね」若い男Bは立っている。
「あの魔法」右手を上げ前に突き出し若い男Bは呪文を唱えた。
「ほのお」
勇者の真似をして炎系魔法を使うが、炎はでなかった。若い男Aは若い男Bを指をさして笑った。
「はっはっは。そうそうそんな感じ」
「いけてるすか」
「ああ勇者みたいに人気でるかもな」勇者はデモで暴れたことによりある意味株が上がった。
「感動したよな。勇者が半端なく切れてるんだぜ。親のために」
地面に落ちていた小石を触りながら若い男Aは言った。若い男Bは中腰になって話した。
「勇者尊敬するす。・・今俺決めました」
地面の小石を親指と中指でピンと弾く若い男A。小石が転がる。
「なにお」
「勇者を師匠と仰ぐっす」
「いけてる。俺もそうするかな」デモ参加者・デモを見ていた人に、勇者の気持ちがそれぞれに伝わるのだった。




