原告勇者
勇者は魔王を倒し新たな人生を歩み出した。それは父の名誉を回復すること。王によって死刑判決を受けた勇者が裁判で復讐に出る。王もそれに対抗しようとする。
勇者が魔王を倒し一ヶ月後、王都の人々の間である話題が囁かれた。
「聞いたかよ」路上の石畳に座って股を広げる若い男Aがにやにやして言った。
「聞いたす。あれでしょ」若い男Aと向かい合い、胡坐を組む若い男Bは話を合す。
「ああ勇者の」若い男Aが話を振る。
「魔王を倒した話。かっこいいすよね」
「ちが~う」知った被るなと若い男Aが突っ込む。
「ちがうの?」ぽかんとする若い男B。
「お前知らないの。勇者が王を訴えた話」
「えっ。初耳」
「新聞に載ってるし、結構話題でみんな噂してるぞ」
「知らなかった。やば。話題に乗り遅れた」頭を抱える若い男B。
その様子に軽く若い男Aが笑った。
勇者は冒険者裁判所に訴えた。過去裁判は訴えられてばかりだった。それが今度は原告になり、勇者は王と国を相手取り訴えたのだ。裁判所に提出した訴状にはこう書かれていた。
訴え
先代勇者は魔王を倒せる薬を開発しようとしました。その薬を作る過程で現王が開発に関与する。王直属の医療機関が薬を作る過程で魔王を倒せる薬ではなく、目薬ではないかと疑惑を抱きました。王は先代勇者が偽薬を作り国を欺く者として、裁判に訴えた。偽薬裁判が開かれ、先代勇者は死刑判決を受けた。
偽薬裁判で受けた先代勇者の名誉回復と王の謝罪、事件に関与した者たちを刑事訴訟したい。
裁判を起こす理由
偽薬裁判の可笑しな進行。詐欺事件にしては重すぎる死刑判決。本当に先代勇者が偽薬を作ろうとしたのか。周りの確認不備で作れなかったと思い訴えました。
訴えの裏付
先代勇者が作ろうとした薬の配合で、実際に魔王を倒した事実。勇者の書に記述された薬は正当。偽薬裁判の記録には、強引で横暴な個所。取り調べの不備。王が作った薬の成分表は、滝の洞窟にある地下湖の水を入れず完成している。これが原告の訴えを裏付けています。
王都の人々に勇者が訴えた噂が広がる二日前。
冒険者裁判所に訴えを提出した勇者と賢者は黒い森の近くの町、宿屋に向かい歩いていた。
勇者と賢者は歩きながら会話した。横に並んで。
「勇者。被告から原告ですよ」
「訴えられてきたが、今度は訴えてやれるのか。変な気持ちだな」微妙な顔を勇者がする。
「変な気持ち?爽快な気持ちだと思っていましたが」
「爽快だよ悪を倒すみたいでな。ただ、今まで俺を訴えた人もこんな気持ちかと・・・思うと、二度と被告にはなりたくないな」勇者はしみじみという顔を覗かした。
「確かに、被告にはなりたくないです」賢者の顔を勇者が覗き込む。
じ~と。数秒。
「あっ。賠償金が頭をよぎったな」
「うっ」分かりやすい声と表情が賢者は出てしまう。
「表に出すぎだ」賢者の心を見透かす勇者だった。
毎日裁判所は裁判を開くか審議する。毎回訴えを認め裁判を開いていたら、裁判を待つ人々で溢れる。生きている間に揉め事が解決しない。それを防ぐために訴えは妥当か審議した。
冒険者裁判所事務室では勇者の訴状を見て裁判が妥当か審議していた。
「これ、どうしましょうか」
三十代男の裁判官が一枚の裁判案件を持ち四十代女裁判官に渡した。
「勇者が訴えた案件ね。難しいわよね」
案件を見て、椅子に座る裁判官の女が魔法ペンで自分の顔を叩く。
「判断迷てます。訴えはしっかりしてますよ。裁判開いても可笑しくない基準ですが・・・・王が」
弱気な顔に裁判官の男を浮かべた。
「それでも司法官なの」権力に負けそうな裁判官の男を裁判官の女が叱りつけた。
「裁判官の資格を忘れてました、すみませんでした」頭を下げ裁判官の男が謝った。
それなら・・と裁判官の女が納得する。
裁判官の男は少しだけ不満があった。ので、小声で言った。
「でも聞きましたか。偽薬裁判と王の関与についての噂」
勇者の案件を机の上に置き裁判官の女は言った。
「噂でしょ。信じるに値しないはね」
「ですが、前の前の最高裁判官三人は偽薬裁判で王の圧力に負け、判決を下したんじゃないかって」
不満を垂れ流すので、裁判官の女は鼻で笑った。
「くだらないこと言わない。早く訴えを認めるのか決めなさい。仕事は山ほどあるんだから」
「そうはいいますが。失踪しているんですよ」
「話はいいから早く」裁判官の女は案件を返す。
裁判官の男は案件に目を通し五分後、訴えを認めた。
王の城の一室。
「大変です」
慌てた様子の紫の法衣を着た大臣が王の部屋に入ってきた。豪華な装飾の椅子で王は本を読んでいた。
「何事か。勇者の件か」王が本を閉じた。
「勇者の訴えが認められたと密偵から連絡がありました」本を丸机の上に置き王は言った。
「正式に公表されたのか」
「まだのようです。審議が通った段階で公表まで一日はあるでしょう」
王が大臣に難題な命令をした。
「手を回せ。何としても訴えを取り下げろ。よいな」渋い顔で大臣は命令実行を約束。
部屋を出て、
「訴えをもみ消せ」と毛が伸びた監視者に魔法連絡を取る大臣がいた。
勇者が訴えて一ヶ月後王都。勇者裁判の話で人々は盛り上がっていた。
「裁判の話聞いた」若い男Aが話を振る。
「始まるって言う話」若い男Bは答えた。
路上で座って騒ぐ若い男Aと若い男Bだった。
「疎いなあ」
「違うの?」
「違う、違う。裁判中止だってよ」
「えっ。がちで」若い男Bは驚いた顔だ。
「がちで、仕事の先輩に聞いた」自慢げに若い男Aは言った。
「中止かおもしろくねえ」若い男Bは不満な顔に。
「ところがよ、おもしろい話あるんだよ」若い男Aは笑いながら大きな秘密があるかのように接した。
「なになに」若い男Bは興味津々で聞く。
「デモ。勇者を応援する人がやるってよ」
若い男Bはへえ~と相槌を打った。
「国王裁判所前と城前で訴えを認めろって声を上げるってよ。今日」
若い男Aはズボンのポケットよりぐちゃぐちゃなチラシを取り出し、若い男Bに見せた。
若い男Bはチラシを広げ見た。
「おもしろそうすね」と若い男Bが反応を見せた。
「だろ。いっちょ参加するか」
「参加しましょうよ。楽器鳴らしたり、叫びましょうよ」
「ゆうしゃ!ゆうしゃ」若い男Aは頭上で手拍子をした。
それを真似、若い男Bも手拍子して叫んだ。
「さいばん!さいばん」
二人はデモが行われる王城を目指した。




