魔王への道3
約束の一年が過ぎた。賢者は小さな小さな集落の医者と手紙(近況報告)や集落の特産品を十二回送って貰った。その中の一回に例の薬が入っていた。荷物の送り先は緑錆の海近くにある勇者の別荘。勇者と賢者は緑錆の海の掃除と周辺の魔物を倒し修行に勤しんだ。世間では、勇者が起こした事件・裁判は忘れられつつあった。
「一年か」緑錆の海の砂浜で勇者が掃除しながら言った。
「一年ですね」麦わら帽子を被った賢者が答えた。
勇者は腰に手を当て言った。
「そろそろ行きますか」
帽子の唾より賢者は太陽を見た。眩しく視野を手で覆い、言った。
「行きますか」
二人は目線を合した。
「魔王を倒しに」気持ちが重なったように二人の声が揃った。
冒険者の町には冒険者養成所があった。冒険者になれるよう修行する機関。冒険者を夢見て若者が集った。そんな中、たまに冒険者になって来る者もいた。冒険者として力がなく魔物に負ける落ちこぼれを、一から鍛え直す復帰コースがあった。そのコースが行われる場所に勇者が来た。
「あいつ。いないか」コースを受けてる冒険者を見る勇者。
「いないですね・・・あっ、いました」賢者は二人の男を指さす。
勇者がその二人の男を呼んだ。
「自由兄弟」呼ばれたのは更生プログラムに参加した自由人の兄弟だった。
勇者たちは薬の完成する一年の間に、冒険者カウンセラーに頼んで自由兄弟の連絡先を聞いた。勇者は自由兄弟と交流を深めある頼みごとをしていた。その頼みごとで勇者たちは来ていた。
勇者の声に気付き二人が修行の手を休め、勇者に向かてきた。勇者と賢者は自由兄弟と話す。
「服完成したか」自由弟に勇者が聞いた。
「出来てます。勇者さんの実家に後で届けますんで、待っていてください」
「分かった。そっちはいい。例の物はどうだ」小声で勇者が言った。
「ええ。送りましたよ」自由弟も小声で言い返した。
勇者と賢者は礼を言い勇者の実家へ行った。
実家で二人は食事をし、自由兄弟を待つ。養成所で会って数時間後、自由兄弟が実家に来た。
「新しい服持ってきましたよ」
「かっこいいですね」
「いいな。これ」魔王を倒す気持ちを籠め勇者と賢者は服を新調した。
自由弟は自由兄に鍛えられた裁縫技術が勇者たちの役に立った。
「お金振り込んどく。例の物を後で頼む」二人は自由兄弟に報酬を払う約束を交わし、自由兄弟は満足げに帰って行った。
勇者の実家を後にして四日、黒い森の近くの町宿屋。
「荷物来ている」勇者は宿主に自由兄弟の荷物が届いたか尋ねた。
「こちらですね」荷物は届いていた。縦五十センチ・横六十センチの木箱。
勇者は木箱を受け取り、泊まっている部屋に持っていた。二人は中身を確認した。
「これは、恥ずかしいですね」
「ふふふ・・・笑えるな」感心する賢者の横で勇者は中身を見て笑った。
「もう。笑わないでください。これ使うんですよ」中身を見ながら二人は、会話が弾んだ。
黒い森の近くの町宿屋には、一部の人間しか知らない隠し通路があった。通路の行先は冒険者裁判所。勇者の裁判でいつのまにか裁判所お抱えになった宿屋。裁判所と深く付き合うことに。そのため、裁判所の命令で隠し通路を作ることになってしまった。
勇者宿泊二日目。昼間、一組の恋仲風の二人が隠し通路を利用し裁判所に向かう。
一人は茶のハンティング帽子にサングラスを掛けた狩人の恰好で手には松明を持つ、一人は頭を赤のスカーフで覆い、茶のチュニックを着、首に鍵をぶら下げていた。
通路は暗く、茶のハンティング帽子の人が松明を持ち道を照らした。
二人は歩くこと十分後隠し扉がある場所に辿り着く。扉には鍵が掛っていた。赤のスカーフの人が扉の鍵を開け裁判所の裏に出た。隠し通路を最初の状態に戻し、周囲を警戒する。近くには誰もいなかった。
裁判所をすぐに出、二人は町の外へ行く。魔物がいる黒い森に二人は躊躇せず入って行った。
奥へ奥へと行く。二人の前に一人の老人が現れた。二人は老人と握手した。数秒話し、三人は足早に歩きどこかへ向かった。
勇者宿泊三日目。早朝、宿屋の外で監視者が眠たそうに勇者の部屋を見張る。そこに一人の髪の毛と髭が伸びた監視者が近寄った。
「交代だ」
監視者が頷き毛が伸びた監視者に報告した。
「昨夜は部屋の光は点きませんでした。しかし、勇者は宿屋より出ていません」
「他に変わった点はないか」部屋の光が点かなかったことが、毛が伸びた監視者は気に掛けた。
「いえ。ありません」
毛が伸びた監視者は他に変わりがなければ大事に至らないと思った。
「よし。ご苦労」毛が伸びた男が監視者の肩を叩き、労をねぎらった。監視者はすーと消えた。
昼。監視者たちの目は宿屋に注がられた。勇者の部屋には何の動きもなかった。宿屋の外にも出てこない。毛が伸びた監視者は怪しんだ。確信でなかったが、万が一を考えた。口を押え、魔法連絡を毛が伸びた監視者は宿屋周辺の別の監視者たちに使った。もし夜になっても、部屋に動きがなければ、乗り込むことを打ち合わせした。
夜。勇者の部屋は灯が点っていなかった。宿を出た形跡もなく、毛が伸びた監視者は他の監視者に魔法連絡を使い再度確認。毛が伸びた監視者が宿屋に単独で行くことに。怪しまれないよう冒険者を装った。
「いらっしゃいませ」と宿屋は接客する。
毛が伸びた監視者を怪しむ様子はなく、勇者が居るか宿主に尋ねた。
「いませんが」
これはまずいと毛が伸びた監視者が焦る。外見は焦った雰囲気が出ていない。
「用事か何かで?伝言残しますか」
毛が伸びた監視者は伝言を断り、いつ出て行ったか尋ねた。
「昨日のですかね」
交代者の情報と違い宿主にどこから出たか、毛が伸びた監視者が聞いた。
「え~と受付にメモがあっただけなんです」
「そうなんですか」困った毛が伸びた監視者、次の策を練った。ここに居ても勇者は帰ってこない確率が高い、伝言を残す方向にした。
「拙者・・・」身元となぜ勇者と会いたいかを宿主に話、伝言を残した。毛が伸びた監視者は宿屋を出、他の監視者を集め勇者の痕跡を探すよう命じた。
王都に監視者の連絡がいった。王の城の一室、連絡を受ける頭の頂きだけ剥げた白髪の男性。体系は細く筋張ている。服は紫の上衣とズボンだった。
「何、勇者が消えた。真か」部屋に声が響いた。
「いつから」
「昨日」白髪の男は何度も、おでこを叩いた。
「情報はないのか?行き先の」
「何。手掛かりがない。言い訳するな」不満な顔で監視者の声に耳を傾けた。
「まあ何より、早く勇者を探すのだ」白髪の男は報告を聞き疲れ、部屋にあった椅子に座った。
白髪の男は独り言を言い出す。
「勇者がいなくなった。王にどう言う。言わない方がいいか。発見後で・・よしとするか」椅子の肘掛けを右手の小指でトントン叩いた。
「心配し過ぎかもしれん。報告だと勇者は薬を完成する暇などなかった。薬を完成しても、まあ魔王が倒されるわけないな。何せ、昔の伝記に書いていたからといって、真実かも分からん。ああ・・・・」
椅子の背もたれに身を委ね、白髪の男性は目を瞑った。
王があんな噂を聞いたのが間違いの始まり。現王が若い頃は野心家だったな。本気で魔王を倒そうと計画を練られた。有能な冒険者を募り、魔王を倒そうとしたが、結局は適わなかった。若き王は諦めが悪かった。今もだが。
ん~そう。あれは、魔王を倒す情報に懸賞金を出すと言って、迷惑したな。そうこの時に、不確かな情報が入って来た。たしか勇者の家には代々伝わる伝記があると。王は情報を確かめるために兵を派遣し、調べ上げた。
そして、先先代の勇者に話を聞き、伝記の記述を兵が見せてもらい・・・・・悲劇か。
王は、昔ほど野心家では無くなったが、過ちは認めないだろうな。
白髪の男は目を開け呟いた。
「勇者もかわいそうに」




