魔王への道2
「膝をつけ」勇者は無理やり腰を落とされる。頭には黒い布を被されていた。
その布を取られた。
「ようこそ」
勇者の前に、黄金の冠、白い毛皮のマント、黒いシルクの服、ボタンには宝石が散りばめられ、白のシルクズボンを穿き、靴は黄金に輝く。それらを纏う太った中年の男が居た。
「勇者。よく来てくれた」太った男の周りにも、着飾った男たちが並んでいた。
「何のつもりだ。俺を拘束して」
「こら、無礼者」勇者は頭を抑えられた。
「国王様であるぞ」
「国王」太った中年の男は国王だった。
「失礼しました」頭を下げた状況で勇者は無礼を詫びた。形式上。勇者の心中では、人間の王がついに現れたか、お前などには屈しないと頭のネジを締めた。
「勇者よ。体は大丈夫か」
「はい」
「何でも、滝の洞窟が崩壊したらしいな。その崩壊に巻き込まれ流されたんじゃろ」
「はい」
「そこを我が配下の憲兵隊が救った訳か」笑いながら王は言った。
腹が立ったが勇者は気持ちを握り潰した。ダメだ。ここで、感情的になっては、おやじの無念が晴らせない。
「はい。ありがとうございます」
「びっくりしたであろう。拘束され」と言って王は勇者の手の拘束を外させた。
「はい。何事が起きたのか、びっくりしました」勇者は手の関節を回した。拘束され関節が固まっていたのを解す。
「そうか。悪かったのう。守る必要があったのじゃ。悪い噂を聞き心配で。裁判。大変みたいじゃな」
「はい。配慮、感謝します」
何という言い訳。守ると言うが、あれは襲うだと勇者は心で呟いた。
王も勇者の神妙さに、警戒を強めた。両者が内心では疑っていた。
王の横に一人の男が近寄り、耳打ちした。王は頷き発言した。
「勇者。賢者がここに来ておる」
「賢者ですか」すでに、賢者が来ていたのかと、勇者は賢者の心配をする。
「会わしてもらえますか」
「そう。会わしてやりたいのじゃが、あいにく賢者は病気で」
「病気。賢者はどこに居ますか?そちらに伺います」勇者は慌てた顔で言った。
「それが・・・賢者は大変な病気に掛かってしまい、誰も会えんのじゃ。感染してしまうからのう」
「私は感染してもいいです。賢者に会いたいのです」王の言葉にうさん臭さを感じつつも、勇者は賢者が気になった。
もしもがあったら・・・・。
「勇者の命も危うくなる。王としてそれはできない。許せ」
「では、賢者は死んでしまうのですか」
王が勇者に接近し、屈んだ。
勇者の右手を王は両手で包み言った。
「助かる。助かる薬があるんじゃが、我が王立医療機関にはない」
「薬があるのでしたら、私が入手します。薬はどこに」と勇者は聞いた。
王の右口角が薄ら上がった。
「薬の原料の一つが欠けておる。滝の洞窟、地下湖の水さえ手に入ればのう。勇者持っておらんか」
そう来たか。勇者に怒りが込み上がった。が、顔に出でないよう、感情と逆の顔(悲しい顔)をする。
「すみません。持っておりません」
勇者の手を離し、王は立ち上がり後ろを向いた。
「持っておらんのか」王は内心安堵した。
「はい」
「まあ。奇跡を信じるしかないな。賢者の病気は治った例もある。勇者よ、一週間王都で待っておれ。賢者に会えるかもしれん」話しながら王は数歩進み、勇者の方へ向き返した。
「はい。奇跡を待ちます」
「勇者、本当に持っておらんのじゃな」疑り深い王は確認してきた。
「はい」勇者は知らぬふりをした。
勇者はその後、王を追及せず王都の宿屋に戻る。勇者は賢者が帰ってくるのを待った。いろんなことを考えて。どうして王は俺の行動を知っているのか、憲兵隊を派遣した理由、賢者の病名など。考えれば、考えるほど変な謁見だったな。賢者が死ぬことはないだろう。あれは王のでっち上げた話で、賢者は病気に掛っていないはずだ。俺が薬を手に入れたのか確かめたいだけと憶測する。
謁見一週間後、賢者は勇者の王都の宿屋で再会を果たす。
「お前病気なのか」
「はあ~。そうらしいです」
「らしい」
「王直属の医者が言うには、感染力が強いウイルス性の病気だと」勇者が聞いた話と賢者の話は一致。
賢者は一週間分からない検査を受けた話をし、至って健康と勇者に主張する。笑って勇者はお前も災難だったなと。賢者の無意味な検査風景を頭に浮かべた。
検査の話が終わると別の話題に移った。
「盗賊さんには連絡しましたか」
「お前が一週間捕まっている内に連絡は入れた。盗賊じいさんと水は無事だ。流された後、川辺についたらしい。そこを釣り人に救われたらしい。体力の回復を待って、小さな小さな集落の医者に水を届けてくれたみたいだ」
「よかった。これで薬を完成するだけですね」成果が無駄にならずに済んだことを賢者は喜んだ。
「あとはどう薬を手に入れるかですね」憂いた賢者が勇者の考えを聞いた。
腕組みをして勇者は部屋のカーテン掛かかる窓辺に立った。
「あれが、問題だな」窓のカーテンを少し開け、勇者は外を見た。
勇者は顎で外を指す。賢者はその示す意図を理解し、
「はい」と賢者は頷く。
家と家の脇からこちらを伺う男が居た。王の謁見後、勇者は露骨に分かる監視を受けていた。沈黙の圧力が勇者たちの体に伝わった。
カーテンを閉め勇者が言った。
「監視者をどう撒くか?お前もそれを悩んでいたのか」
「はい。思い切って、逃げてもいいのですが・・・王側が露骨な監視をするのは、私たちの疑いが晴れていない証拠。ここで、刺激するような行動をとっていいのか」
「悩みはそこか」頷く賢者。
二人は考え込んでしまった。勇者は部屋をうろうろ。賢者は椅子に座って。
勇者が足を止め、先に意見を言った。
「戦う時が来たんじゃないか。監視者など放って置けばいい。薬を取りに行こう。勢いで伝記に書かれていた魔王の城に乗り込んで倒せば、誰も文句は言わん」早急な意見に賢者は勇者らしいと感じた。
魔王さえ、倒せればいい論。これに賢者が異を唱えた。
「犠牲者が出ますよ。小さな小さな集落の医者。嫌。悪くなったら集落の人々まで迷惑が行くのでは」
否定された勇者はキッパリ言った。
「犠牲者など考えていたら、一生魔王を倒せない。平和は来ん」
「しかし、犠牲者が出るのは・・・」勇者の意見を聞いて、賢者は閃いた。
「薬を郵送して貰うのはどうでしょうか。これなら取りに行かず、怪しまれません」
数秒考え、勇者はダメだと言う。荷物が王側に取られるんじゃないか、心配してだ。
「過剰反応では、単なる荷物ですよ。私宛にすれば、集落の医者とは長い付き合いで怪しまれないと思いますが」勇者は説得されかかるが、まだ不安だと言い出した。
「不安だ。過剰反応かもしれんが、十割安全はない。取られる可能性がある限り、俺は認めん」
勇者は自分の手で薬を取りに行きたかっただけで、深い気持ちはなかった。このままでは、勇者が納得しないだろうと賢者は考え、意見に修正を加えた。
「ある一定期間荷物を送ってもらうのはどうでしょうか。一カ月に一回とか、それを一年続けて、その期間内に薬を混ぜるのです」
修正案を聞き、勇者はいい案だ、試してもいいと思った。興味を持ち賢者に聞いた。
「この案、実行期間長くないか」
「一年でも短いですよ」
「何でそう言いきれる」
「魔王を倒す修行期間がいるのです。私たちの強さで勝てるとは限らないでしょ」
う~~んと勇者が悩む。
賢者は魔王を倒す言葉の効きめに微笑んだ。何て分かりやすい勇者と。魔王を倒す為なら、背に腹は代えられないと勇者は実行を賢者に約束した。




