王
「増えたよ。増えたよ」王都の道端。
「おい。兄さんくれ」新聞売りがおやじに新聞を渡す。
「増えたよ。勇者が増えたよ」
「頂戴。お兄さん」噂が好きそうなおばさんも我先に新聞を買う。新聞はどんどん売れていく。数分で新聞は最後の一部になった。
「さあ。最後だよ。こんな滑稽な話はないよ。増えたよ。勇者の賠償金。買った、買った。おっ。黄色の服が似合うお兄さん。どうだい・・・・ありがとう」新聞は売り切れた。
緑錆の海裁判は続いていた。上告裁判から一ヶ月。勇者が裁判に負けた事実が世間に広がると、海の汚染が広がるごとく、訴訟された。あまりに訴訟が多く、国が動いた。訴訟は一つに統合。健康被害は上告裁判の判例が基準になった。続けて行われた裁判は、経済問題。海が汚れたために緑錆の町は経済が低迷。その責任を勇者と賢者が背負う破目になる。勇者は賠償金が莫大になり、いつしか賠償王と呼ばれだす。
上告以来、勇者と賢者は関係者にお詫び行脚をした。賠償金は払えるはずもなく、勇者たちは冒険者協会に借金する。その借金は自分の代では、払えないほどに膨れ上がる。その額に賢者は悲鳴を上げ、勇者を困らせた。ただ、協会は一つ機会をくれた。魔王を倒せば、報奨金で借金を無くすと言った。提案は賢者に覿面で、俄然燃え上がった。勇者はそれほどこの件は、効果がなかった。元から倒すことに燃えていたため。それより行方不明になった、女神を気に掛けていた。
上告裁判から二カ月、勇者と賢者は緑錆の海に来ていた。海の掃除をするため。
「勇者、そっちにゴミ」
「おっ。大物」二人は海岸沿いのゴミを拾う。その様子はまさしくボランティアの熟練者に見えるほどだ。全ての裁判が片付いてから、二人はゴミ拾いを続けていた。だけではなかった。そこは勇者、大人しくなどするはずもなかった。勇者は裁判の負けを、一発逆転出来る策を賢者と練っていた。
「お前そろそろ、計画実行の時期が来たんじゃないか」小声で勇者は賢者に耳打ち。
「はい。明日出発しますよ」周りを警戒しつつ賢者は呟いた。二人は一日中ゴミ拾いを続けた。計画には一切触れる会話は極力控えた。王国側の諜報活動を恐れての措置だった。
計画実行のため緑錆の海を経って五日、目的に着く。そこは冒険者の墓がある霊園。天気は雲一つない晴れだが、秋風が吹き少し冷え込んだ。肌寒い中、二人は霊園に入って行く。
「ここにあるのですね」目をゆっくり動かしながら警戒する賢者。その手には花束が握りしめていた。
「ある」勇者は一言で断言。二人が追い求めている物があると。ここに。真直ぐ勇者の祖先が眠る墓へ二人は歩いて行く。
二分後勇者の墓前に着いた。二人は墓石に滲みよった。勇者が墓石を見て、
「お前。あそこの字」目で賢者に合図。勇者の目線の辺りを見、賢者は確認する。
「勇(YU)の字」
「ああ」確認を取った賢者が屈んだ。手にあった花束を墓石に立て掛けようと、体が墓石に被さった。一瞬だが墓石の一部分が、周囲に見えなくなった。花束を置き賢者の体は起き上がった。まるで、革命者に見えた。どんな困難にも負けないと意志が表面化していた。賢者は立って短い演説をした。
「歴代の勇者。・・・あなたたちの子孫、救って見せます。私たちは絶対王になど屈しない。死んでも」演説を聞いていた、たった一人の観客が墓石に言った。
「誓う。王と言う王は俺が倒す」墓石に向かって二人は目を瞑って祈った。霊園は、晴れていた。二人の気持ちを表すように。
冒険者の墓を訪問してある物を手に入れてから二人は、勇者の実家へ行った。実家へ行く訳は、判決義務の家族懇談があるためでもあったが、敵の目を欺くために利用した。
協会の人間が案の状、実家に来ていた。怪しまれないよう二人は普段を装う。母との懇談は、雑談と報告だけの形式ばっていた。懇談はいつも通り終わった。帰りがけに勇者が含みのあることを言った。
「じゃあな。お袋。おっと、言うの忘れていたが先祖の墓参りして来たからな。墓掃除しといた、俺が綺麗にな。たまには行けよ墓参り」笑顔で母も返した。
「そう。墓参りしてくれたの。ありがと。私も行かなくちゃね」と勇者の言葉の意味を理解したのか、してないのか二人には分からなかった。
二人は家族懇談が終わると別れた。賢者は小さな小さな集落に向かった。勇者はどこかに魔法連絡をして、自宅を離れた。




