更生プログラム3
勇者は更生プログラム初日を終え、黒い森の近くの町、宿屋にいた。初日のプログラムを耐え、勇者は部屋の寝具で寛いでいると魔法連絡が入った。
「勇者さん。更生カウンセラーです。今日はお疲れ様です。」勇者の脳に聞こえてきた。何だ、こんな夜遅くにと思いつつ、口に手を当て相手の名前を呼んだ。
「先生。お疲れ。で、こんな夜中になんだ」
「あなたに聞いてほしいことがあるんだ。話してもいいかい」
「手短にならいいぞ」本音は一切聞きたくなかった。両手に頭を乗せ、寝ている勇者は部屋の天井を見つめる。
「ありがとう。話は冒険者協会から言われたことなんだ。協会は更生プログラムを使い、勇者さんの心理状態を調べて、報告しろと頼んできたんだ」俺のことを調べてどうするんだと勇者は思い、言葉にした。
「協会は何をしたい」先生が協会の意図を推測した。
「私の推測だと、協会は勇者が出廷する緑錆の海裁判を視野に入れていると思います。今回のプログラムは協会指定で組まれているから。普通、今日のような別々の犯罪歴者を集めたりして話さないからね」
「そうなのか」起き上り勇者は、寝具の上で胡坐を組む。
「はい。一般的にはストーカー犯罪者だけ集めてプログラムします。協会は勇者にたくさんの犯罪者に触れる経験を、させたかったのではないですか。明日のボランティアも協会指定、滝の洞窟から緑錆の海に至る川掃除ですしね。・・あきらかに環境問題を意識してます。あくまでも推測ですけど」推測を聞くと勇者は協会に不信感を抱いた。
「俺にそこまでするのは・・・協会の奴ら俺を信じてないってことか」確認したくないが、勇者は先生に聞いてしまった。面と向かってないため先生は躊躇いなく勇者に宣告した。
「私もそう思います。カウンセラー経験でいいますが、相手を心配する気持ちが小さいのは信用。大きいのは不信用。協会は後者ですよ。もしかしたらですけど、協会は裁判で追い込まれたら・・・・・勇者さんを切り捨てるかもしれませんよ」鈍器で頭を殴られた衝撃を、勇者は受けた気がした。協会がそこまで考えているなら、どうしてやろうかと勇者は思いを巡らした。寝具から立ち上がり、部屋の窓の傍に行く。外を見つめた。勇者の目に暗闇が広がった。
「どうしました」気遣う先生の声が勇者の頭に響いた。その優しい言葉を聞いて慰められるが、ふと勇者は疑問が生じて先生に問う。
「先生はなぜ、ここまで教えてくれるんだ」十秒ほど先生の応答がなかった。
「聞いてるか。先生」聞いていないと思い勇者は尋ねた。
「聞いてます。聞いてます」慌てた声で勇者の脳に響いてきた。
「少し考えごとしてました」勇者は先生の考え事は何か質問した。考え事は先生が勇者に隠し事をしていた事を話すべきかで、悩んでいたと先生は告白する。これは大事な話だ、集中しないと思い、勇者は部屋の椅子に座った。聞く体制に入ると先生の声が鮮明に勇者の脳を震わせた。
「実はね、勇者さんのお父さんと知り合いなんです」
「知り合い」
「そう。勇者さんが生まれるずっと前。三十年位かな。私はお父さんと一緒に旅をしていた。魔王を倒せる薬を探してね」
「そんな昔から」うん・・魔王を倒せる、薬。勇者は言葉を捕まえ飲み込んだ。すると体に化学反応が起こった。体が震え、血熱が上がる。体が火照り口を渇かす。
「先生。・・先生。魔王を・はっあ・・はっあ・倒せる薬があるのか」興奮が言葉に出た。勇者は机にあったコップに、水を注ぎ、口の渇きを潤した。
「ああ。あるよ。興味があるのだね」
「あるに決まっているだろ。薬は持っているのか」
「持っていない」持っていないのかと勇者は言いたくなる。
「薬の成分は分かっているのだが」曖昧に言われ、はっきりさせたい勇者はしつこく聞いた。
「だが?がなんだ」
「薬の原材料の一つが入手するのが難しい。それさえ手に入れば薬が完成することも夢ではない」夢じゃないなら完成しろと勇者の心が言っていた。
「材料は何だ。俺が手に入れてやる」お前が完成しないなら完成させてやると、勇者のやる気が言葉に出た。
「材料は、滝の洞窟の奥にある地下湖の水です」話を聞いた勇者は父と先生が入手できなかった理由を聞いた。
「あの洞窟には例の主が居て、水を汲めないんだ今は」勇者は洞窟の主の強さを頭に浮かべた。
「昔は私とあなたのお父さんと二人で主に挑み、瀕死にして水を入手したけど、今じゃ無理だろう。私も若くないからね。」座っていた勇者が立ち上がって怒りを露わにした。
「手に入れたんだろ、昔。それはどうした。薬を作ったのか?魔王に使ったのか?おい。先生」矢継ぎ早に質問を続けた。
「それが・・・」先生は言いにくいのか、勇者の脳に言葉が届かなくなった。ので、待って入られない、勇者が真実を求め先生に言葉攻めした。話せ。話せ。全部言え。先生。探究心に負けた先生は勇者の脳に真実を届けた。
それは勇者の人生を大きく狂わせることになっていく。
「私たちは水を入手して帰ろうと、滝の洞窟の出口に向かった。そこに王直属の憲兵隊が待っていた。どこからか私たちが魔王を倒せる薬を作っている、情報を聞きつけていた。憲兵隊は薬を作る手伝いを国王がしたいと、言ってきたのです。私たちは了承しました。早く薬を完成したかった。人類を救いたかったから。私たちは憲兵隊に付いていき、国王と謁見をすることになりました。国王は私たちを歓迎し、薬は国で作ることになりました。完成するまで、城に滞在することになったのですが・・事件が起きたのです」探究心が満たされていき、自然に勇者は椅子に座っていた。本人もいつ座ったの分からないほど自然だった。
「滞在五日目の朝、目を覚ますとベットの周りを憲兵隊に囲まれていた。何事か憲兵隊に尋ねました。憲兵隊は勇者が魔王を倒せる薬と言っていた薬は、偽物で単なる目薬だと言ったのです」
「目薬」と勇者は言った。小さな疑問符を付けて。
「びっくりしました。勇者家先祖代々伝わる書物に記されていた、薬の成分が偽物なんて・・ありえなかった」そんな書物があるのかと勇者は思った。
「私たちは訴えたのですが、国王は取り持ってくれません。あなたのお父さんは裁判に掛けられました。国を惑わす詐欺師と言われ、処刑されたのです」二転三転する状況に勇者は混乱、髪の毛を手で掻き混ぜた。髪の毛はうねり絡み合い、弾けた。
「俺がお袋に聞いた話では、父は魔王に殺されたのは」混乱を取り除こうと勇者は先生に解決を託した。
「嘘です。人間の王に殺されたのです」騙されていた事実が暴かれた。感情の操作が上手くいかなくなった勇者は怒りにまかせ、机を蹴る。蹴られた机は壁に当たった。その衝撃音は短く高かったため、宿屋中に響いた。隣部屋の客が宿主に文句を言った。ので、宿主が注意しに来た。部屋の外から注意された勇者はうるさいと言い返した。大きな声で言われた宿主は、驚きいそいそと部屋を離れて行った。悪い癖が出てしまうほど、真実は勇者を刺激した。その後の真実も、勇者を痺れさせていった。
「あなたの母は、国より父の死をあなたに話さない契約を交しました。父の死刑裁判の中身が冤罪を助長する物だった。それを隠したかったのでしょう国王側は。もし話していたらあなたの命はなかったでしょう。母親に感謝しなさい」真実を知った勇者は、
「なぜなんだ。もっと早く聞きたかった」烈火のごとく吠えた。
二人はいろんな話を遅くまで続けた。話の内容は、先生が身分を偽り協会のカウンセラーになった経緯や、偽薬問題を調べていたこと、勇者の母と先生が仲間で魔物と戦った話などだ。今日一日の更生プログラムを忘れてしまう衝撃を勇者は受けた。
更生プログラム二日目。滝の洞窟と緑錆の海を繋ぐ川の清掃ボランティア。黙々と清掃する犯罪者集団。真面目に取り組む戦士と侍。ふざけ合う自由兄弟。ゴミを拾う速度がわざと遅い盗賊。一向に身が入らない勇者がいた。昨日のことで勇者は悩んでいた。そのため目にクマができ、一睡も勇者はしていなかった。勇者が先生に声を掛けようと視線をやった。目と目が合うと先生はわざと目線を外した。その後も目線をはずした。勇者は声を掛けられなかった。が先生からは勇者に声を掛け話した。先生と犯罪者のありきたりな話程度。昨日の魔法連絡で話した内容は触れなかった。先生はわざとそうしていた。勇者も先生の意図を感じ、思い出す昨日の話を。王国側の人間が協会にいて、勇者の監視している事実。二人は距離を開ける時間を増やしていった。
開いた時間で勇者は盗賊おじいさんと話す。もっぱら滝の洞窟の主の話題だった。勇者は盗賊おじいさんを仲間に加えたいと思い、魔法連絡の契約をした。他にも滝の洞窟攻略に役立つ人物はいないか、犯罪者集団から吟味した。しかし、戦士・自由兄弟・侍は、やはり使えないと判断した。それぞれに使えない理由があった。戦士は勇気が不足。自由兄弟は弱すぎ。侍は意思疎通ができないと、昨日の印象と何も変わらなかった。
時間は進み、何事もなく犯罪者集団は川掃除を済ませた。先生の講釈を聞いて更生プログラムは終了した。一同が帰ろうと支度している時、盗賊と自由兄弟が全員で飲みに行こうと誘った。戦士はすぐに飛びついたが、勇者と侍に先生の三人は拒絶した。飲みに行く三人衆は寂しそうに飲みに行った。飲みに行かなかった三人はその場に留まっていた。誰一人帰ろうとしなかった。勇者は先生と話がしたかったが、侍はなぜか残っていた。
「皆さん疲れたでしょう。お開きにしましょう」先生が呼びかけ三人は散った。勇者は結局先生と会話できずに帰った。




