女神裁判開廷
黒の森の近くの裁判所。冒険者を裁く特別な裁判所前。人だかりが出来ていた。新聞記者。勇者を恨む者。興味だけの野次馬。黄色の子鬼。勇者と賢者を応援する変わり者などがいた。遠目から様子を見る勇者と賢者。
「また来てしまった」
「ここには二度と来たくなかったです」
「俺もだ。魔物と戦うより、緊張するな」
「え~」
覚悟を決めた二人は群衆の前まで走っていた。群衆は突然現れた二人に反応した。
「勇者だ」怒号や歓声が混在する群衆に二人は突っ込んで行く。群衆と二人が当たる一歩手前。
勇者と賢者は魔法を使って、地面を蹴り宙を舞った。魔法の靴のおかげで、群衆を飛び越え裁判所の門を通過。二人は裁判所敷地内に着地した。
「おお勇者さん、賢者さん」着地した二人を見た監守が手を振ってくる。前の裁判でいた監守だった。監守は近寄って、二人に挨拶と世間話をしてきた。内容は勇者の評判がうなぎ上りに悪くなっている話だ。時間がないと言って、賢者は切り上げてもらった。勇者の本音は監守を殴りたくて、拳を握っていた。その様子に賢者は監守を守るため切り上げていた。
一度来た経験が生きた。二人は法廷に迷うことなくついた。早く法廷に着き裁判官を待っていた。原告側には冒険者から女性を守る会代表の女性と弁護士男性が来ていた。原告人の姿はなかった。その代り水晶が原告の机の上に置かれていた。水晶は魔法の力を使い、対となる水晶を通して映像と音声を送ることができた。原告は別の部屋にいた。被告側は勇者と賢者に加え冒険者協会訴訟担当弁護士男性が鎮座していた。
「ばたん」法廷の扉が開いて裁判官三人が入ってきた。五十代の男、四十代の女、三十代の男の裁判官だった。女の裁判官が中央、左に五十代の裁判官、右に四十代の裁判官が裁判官の座る椅子の前に立っていた。女の裁判官が号令をかけた。全員が起立した。原告側、被告側が宣言書を読みあげて裁判が始まった。原告の訴えから。
「原告地上の町の食堂勤務女性が三年前から、被告勇者に交際を求められました。断ると被告は原告の勤務する食堂に来て、勤務を終えて帰る時間を待っていました。原告の家まで後をつけて、交際を度々持ちかけて来たのです。怖くなった原告は父に相談し、被告を追い返しました。一ヶ月間は被告は姿を現しませんでした。しかしまた被告は原告の前に現れたのです。家には近寄りませんでしたが、出勤途中、職場、休暇の買い物中など。一ヶ月ごとに被告が現れたのです。家族と相談して町の護衛団から冒険者協会に注意喚起をしました。それでも被告は凝りもせず現れました。原告は恐ろしくなり訴えたのです。今の“協会の知る権利”がある限り、冒険者に冒険に役立つ情報を聞かれたら拒否できません。被告は権利を巧みに使い、被告に言い寄ってきたのです。原告側としては勇者に懲役刑を。協会と国には知る権利の改善を求めたいと思います」と原告側の弁護士が内容を読み上げた。
続いて被告側の弁護が開始された。
「被告人は、罪を認めています。二度と原告に近寄らないと言っていますので、懲役刑は免除していただきたい。被告としては冒険者として、魔物を倒す義務を果たさなければいけないと言っています。他の刑に変えてほしいと望んでいます。協会としては知る権利を改善することを誓います。改善内容は、冒険者は同一人物から三度情報を聞きだすまでは許されます。一般人の義務としてここは権利を残します。四度目からは聞かれた一般人は拒否権を行使できる規定にします。冒険者からも逃げても構いません。これを破る行為があれば、冒険者は協会の認定取り消し処分となる予定です」と被告弁護士は協会の素案を原告と裁判官に渡した。
「裁判で判決が下りましたら、国にこの改善案を提出して国王様に許可をもらいます」と被告側の弁護も終わった。
裁判は質疑応答に入った。原告側から質問が入った。勇者の認定問題は?環境問題を起こした勇者を野に放って世間に影響はないのか?二つの質問に対して被告側の弁護士は、
「被告の認定問題は法律改善の前の出来事なので、関係ないです」グレーな答えを出し、
「懲役刑については、被告人の家系図見てください」と資料を取り出し解説。被告の家系図が先祖代々の勇者で最も魔王を倒す可能性があると結論づけられた。原告側はこの答えに黙った。
裁判官が最終確認をする時、原告側女性代表から裁判官に懇願する。
「どうか、被告に重い罰を、あいつのせいで、何人の健康被害が、許せません」裁判官を見ていた女性代表が涙を流しながら、勇者に顔を向けて、
「あんたのせいでどれだけ人が苦しんでいると思う。あんたは魔物よりも悪よ」水晶を手に持ち女性代表は勇者に投げつけた。水晶は勇者の頭上スレスレ飛んで被告側の後方の壁に当たり、破片が飛び散った。幸い誰も怪我しなかった。
「・めなさい!」裁判官が一喝。監守と原告の弁護士が止めた。
「感情的になってはいけません。環境問題は今関係ないのです」進行役の裁判官が女性代表を宥めた。五分間裁判は止まった。
静かに。進行役が業と、裁判を止め女性代表が落ち着くのを待った。
女性代表の顔を見て裁判は再開された。
「最終確認です」原告、被告とも裁判官に最終判断を任せた。三人の裁判官が集まり、三十秒ほど話して、席に戻った。
「しばし協議します」裁判官が退廷していった。残された原告と被告も別室で待つことに。
被告側控室。
「怖かったな女性代表」
「はい。水晶投げるのには驚きました」
「だな。それにしても環境問題に反応していたな。女性問題より」
「協会で女性代表を調べた所、緑錆の町出身で、今回の環境問題で娘さんが皮膚の感染症に掛かり、体に痣が残ったそうです。母親も失神して生死の境を、その後無事生還されたらしいです。本人は嗅覚を無くしたそうです」賢者は悲しんでいた。勇者もいつものように開き直らず、反省していた。ため息が被告側で伝染していた。
原告側控室。
「ああ~腹が立つ。何あの顔。あんたは何をしたのか分かっているのかっつうの」
「とりあえず落ち着いてください」
「弁護士さん」胸元を掴み壁に弁護士を押し付ける女性代表。顔を近づける。
「分からないでしょうね」笑顔で言うので弁護士は不気味がる。
「弁護士さ~ん。被害者の気持ちなんて関係ないはよね。金さえもらえばいいんだもんね~金さえ」胸ぐらを掴む力が増した。弁護士は血が上る。苦しい。血が頂点に行き。下る。弁護士の顔は見る見る青くなっていく。手を放す女性代表。顔の血が分散された。
「私の苦しみ理解できて」咳き込みながら弁護士は頷いた。強制的に女性代表の苦しみを弁護士は体験させられた。原告側では殺人事件が起きそうになっていた。




