裁判は裁判を呼ぶ
賢者の病室。寝台で寝る賢者。廊下から足音が病室に忍び寄る。寝台の横で足音が止まった。賢者は気付かない。奇声が病室に響く。
「きっえ~」賢者の足元に何かわからない重たい物が乗かってきた。
「いて~」飛び起きる。
「ふふふ~油断したな」目の前に勇者が出現した。いつもの悪ふざけだった。
「何するのですか。足が」擦る賢者。大笑いの勇者の声が館内に響く。病室の外から看護婦が来て二人を叱りつけて、看護婦は帰ろうとするのを止めた。
「治療はいつになりますか」と尋ねると、
「午後から魔法治療をします」と言って看護婦は出て行った。
治療の目途が立ち、安心する二人は調査内容について話した。勇者が大幅に内容を削って。
午後になっても看護婦は来なかった。イライラした勇者は、ちょっと様子見てくると言って病室を出た。
病院の受付に聞きに行こうと廊下を歩いていると。
「病室確保して」走る看護婦に。
「あ。はい。分かりました」連絡しながら走る看護婦や。
「先生こちらです」
「分かった」看護婦と医者が走っている。病院内が慌ただしくなっていた。勇者も圧倒された。受付に着くと勇者は事情を聞いた。
「たいへんなことが起きて、すみません」と何度も同じことを繰り替えし言われた。仕方ないので賢者の治療があるのか尋ねた。
「緊急性がない病人の治療は中止になりました」事情も分からない、治療も受けられない勇者はクレーマーに転職した。勇者の文句が切れ目なく飛ぶ。受付はダメージを受け続けていた。勇者の能力が覚醒して、話を聞きに来た同じ境遇者を先導していく。受付はクレーマーで溢れた。パンク寸前の受付を救う男が登場した。
「院長」受付全員が叫んだ。
「みなさん落ち着いてください」両手を上げて落ち着いて、落ち着いてと、院長が鎮めてから説明する。
「緑青の海で環境破壊が起きて、健康被害が出ました。数は把握できていません。これから魔法以外の治療で治らなかった患者が運ばれてきます。緊急の患者以外は治療ができないでしょう。大変迷惑をかけますのでご協力お願いします」と受付にいた全員が患者にお辞儀した。クレーマーたちは解散していった。勇者も元の職業に戻った。
勇者は治療できないことを知らせに、賢者の病室に帰っていった。
賢者の病室の前に人だかりが出来ていた。白衣一割、黒衣が九割を占めていた。人だかりで病室に入れない。勇者は「どけろ」と声と行動で人を退かしていった。掻き分けた先に賢者はいた。
「どうなっている」
「それが。勇者」賢者は困った顔をしていた。
「勇者だと。こいつか」病室にいた一人が声を出す。病室にいた全員の視線が勇者に集まった。ぞっとする勇者。堪り兼ねて、
「出ていけ」と言ってしまった。
「勇者。言いすぎですよ」諌める賢者。勇者の気持ちを汲んで群衆の一人が提案した。必要最低限残ればいいと。病室にいた群衆は出て行った、五人だけ残して。内訳は白衣一人、黒衣四人だった。
病室がすっきりした。勇者が口火を切って話が展開された。
「この人たち誰」
「緑青の海の環境破壊問題で来られたのです」と賢者は言った。
「俺たちに関係あるのか」勇者が言うと黒衣の一人が懐から小瓶を取り出した。
「二人が持ってきた液体だ」渡される小瓶。勇者は渡した黒衣の顔を見て、思い出した。
「あんた、冒険者協会薬学部門主任か」
「そうだ。思い出したか。昨日小瓶を受け取った者だ」
「賢者のことで忘れていた。分析は分かったのか」
「結果は出た。あれは魔物の汚物と体液に“魔泉のへ泥沼”の水が配合されていた」
「けったいな物だな」勇者は感心した。一日で分析してしまう協会と液体の成分に。
「お前、小瓶と緑青の海問題が関係してくる」
「私に聞かずにこちらの方々に聞いてください」急に話を振ってくる勇者に賢者はかわす。あっさりと。かわされた勇者を主任が受け止めた。
「緑青の海の環境破壊を調べた所、二人が持ってきた小瓶の液体と汚染された海の成分がほぼ一致した。二人の話していた事情があまりにも発生時期と重なった。だから確認のために来た。賢者には話を聞いた。勇者、あんたも、ここにいる五人に話ををしてもらう。紹介する」と言って、一人目の白衣は協会魔法医療統括主任の女。二人目は協会訴訟担当主任の男。三人目は国の環境問題担当官僚の男。四人目は国の広報担当官僚の男。全員の名刺を渡されたが勇者は覚えられなかった。というより、覚える気がなかった。名刺を賢者に渡して勇者は起こった出来事を話した。
一週間前に魔物から液体を投げられて汚れを落とすため、緑青の海に浸かっていたこと。そこで、液体を収集して協会に持ってきたと。その道中魔物に何回も液体を食らい滝の洞窟近くの川で汚れを落としたことを報告すると五人が怖い顔になった。
「伺ってないけど、賢者、本当に川で」薬学主任が聞く。
「忘れてました」頭を下げて謝る賢者に環境官僚が怒り出す。
「ばかもん。忘れていたでは、すまされないぞ。早く環境改善のチームを派遣しなければ。何時ごろ川にいた」落ち込んでいる賢者を見て補助する勇者。
「六日から四日前だ。川を上りながら汚れを落としていった」
「分かった。下流から日にちが立っているのだな」
「おう」口に手を当てながら環境官僚は病室を出て行った。
「他に環境破壊はしていないか」
「ああ後は出していない」緊迫感が緩やかになる四人。これ以上被害が拡大しないことに。勇者と賢者も緊張が緩んだ。四人は事情を聞いた後すぐに病室から消えた。
「どうなっていくのでしょうか」先が読めない展開に賢者は勇者に頼った。
「俺に聞くな。ただ魔物より不気味な影が迫ってきている気がする」不安に駆られる二人だった。




