協会と裁判
暗黒の一週間は終わり、勇者と賢者に安息の日々が来なかった。本当の暗黒の日々が始まる。勇者に更なる裁判が待ち受けていた。本人には自覚していないうちに訴えられる。冒険者協会との絡みが裁判にどう影響していくか?
滝の洞窟の攻略に挑んで半年と一週間後、冒険者協会内の医療施設に賢者が入院していた。足の治療のために。勇者も付き添いで病院にいた。昨日の夜から二人は魔法治療の順番を待って、朝になっていた。病室に白衣の医者はなかなか来なかった。病室のドアを叩く音がした。失礼しますと人が入ってきた。
白衣ではなく黒衣の二十代位の男性が。
「医者の方ですか」黒衣を着た医者もいるのかと思い賢者は聞いた。
「いいえ。医者ではありません。冒険者協会訴訟担当調査部門の調査員です」舌を噛みそうになる長い役所名を掲げる男に、困惑する二人。訴訟の発音だけが聞こえた勇者は何しに来たか聞いた。
「勇者様はどちらですか」手の内側を一人ずつに向けて勇者を探す調査員。
「俺」指を自分の顔に向け勇者が名乗り出た。
「あ、あなたが勇者様ですね。協会の事務所に裁判所から呼び出し状が届きました。勇者様が訴えられました」
「どうして協会に」
「そうだ。俺じゃなくて協会に行く」首を傾げる二人に対して調査員が黒い革の鞄に手を突っ込んだ。
「これを見てください」と手紙が二通出て来た一つは封がされ、他は開いていたのを二人に渡した。調査員の話は続いた。
「封が開いたのが協会の呼び出し状、開いてないのが勇者さまへの呼び出し状です」封を開け手紙を見る勇者と、賢者は協会の手紙を見た。二通の手紙を読み終えた二人は調査員に補足をしてもらう。
「国の法律である“協会が知る権利”それが問題になっているのです。勇者のストーカー容疑が知る権利の改善の訴えの一例として裁判に取り上げられることになったのです。協力して冒険者の権利を守りましょう」
熱血漢を全面に出して調査員は二人と握手した。両手で選挙するかのように。冷めている勇者が賢者に質問した。
「で、協会の知る権利って何」根本が分かっていなかった。
「知る権利は冒険者がいかなる時も冒険に関することなら、一般人は情報提供しなくてはいけない義務があるという権利です。勇者分かりました」賢者は丁寧に説明した。勇者は掻い摘んで理解した。
「分かった。冒険者ならいつでも一般人に情報を聞けるということだな」
「はい」理解してくれたことに賢者は喜んだ。調査員は理解したことを確認して勇者に発言した。
「これから調査部門がある五階の面談室で事情を聴きます。勇者様来てもらいますか」頷いた勇者と調査員は病室を後にした。賢者は一人寂しく手術の番を待った。
冒険者協会訴訟担当がある五階の調査部門面談室に勇者は来ていた。部屋は真っ白に統一され、机も白、椅子も白で無駄がない。
「勇者様。訴訟にいたった状況を詳しく話してください」向かい合った椅子に座る熱血漢の調査員の男が聞いてきた。嫌そうに勇者は椅子に座ったまま話す。
「始まりは地上の町に三年前立ち寄ってからだ。当時町付近にある天上の山攻略のため情報を集めていた。そこで女神にあった。俺のな」うれしそうな顔をする勇者。さきほどの嫌な顔が嘘かと思えるほどに。
「長い黒髪。可愛らしい子犬の目。あれで見つめられたら頭を撫でてやりたい。鼻は丸く団子。食べてやりたい。口はふっくら。ぷにぷにしたくなる。肌はきれいじゃない。これがいい。手なんか皸してかわいそう。たまらん。体系は細くていい。魔物から守りたくなるだろ」と言われ調査員が引いていた。
「女性の方の容姿はいいので訴えられた原因を知りたいのです」調査員が本題に戻そうとした。顔を整え真剣に話そうとする勇者だが、にやけた顔のままだった。
「一目惚れした俺は、情報を聞くふりをして声を掛けた。天上の山へはどういけばいいんですかと。女神は笑顔で“わき”と指で道を示された。あああ~わき何ときれいな言葉だ」立ち上がり天を喘ぎみる勇者が別世界にいた。
肩を叩き調査員が勇者を座らす。現実に引き戻され勇者は、横暴な態度を取った。
「出会いはこんな感じだ。書いとけ」と。付いていけなくなる調査員が愚痴を漏らす。
「仕事やめようかな」首をかしげながら。
「何か言ったか」
「いいえ、いいえ。続きをどうぞ」手の動きを付けて調査員が促した。
「二回目は女神と会った次の日。朝から女神を探して町を探索したが見つからず、あきらめて昼食のため寄った食堂で女神が接客していた。俺は運命を感じて注文を頼んだ。女神は笑顔でオムライスですね。って返してきた。食べている間も女神しか目に入らなかった。献身的に施しをする女神に俺はますます惚れた。食事を終わらせ会計をする時が悲しかった。楽しい時間が、終わる。俺は思い切って女神に付き合ってくれと言った。女神の返事はすみませんだった。落ち込んだ。魔物を倒すことを忘れるほど。でも後から考えると女神は恥ずかしかったのでは。あの場にはたくさん人がいた。俺はそう考え次の日も食堂に行き、店には入らず外で女神が出てくるのを待った。食堂の閉店後に女神は降臨された。前のこともあったので、女神が一人になるのを待って後をつけた。同僚らしき女性と別れたのを見て告白をした」
完全に黒だと思う調査員。
「女神は声を出され天に戻られるように家に入られた」あたりまえだと言いたくなる調査員。表面所は頷いていた。
「女神の家を見つけた二日目も告白。ダメ。女神の家発見三日目も俺は告白しよとするが、話を聞かずに女神は天に帰られた。だが俺はくじけなかった。たかが、四回断られただけだ。五日目も行った。すると天から女神の父、ゼウスが下向された。俺は天の逆鱗にふれ、ゼウスの雷が落ちた。俺は立ち直れないほど打ちのめされて町を後にした」調査員の苦笑いが止まらなかった。死んだ目をしながら。
「それからは一カ月に一回、町に寄って話をしている。初めはいいんだ。冒険に役立つ情報を聞いている時は。告白しようとすると逃げられた。恥ずかしがり屋だからな。今もその関係が続いている。三日前にも言ったばかりだ。以上が俺と女神の愛の話だ」聞き終えた調査員は肩が凝っていた。首をぐるぐる回したり、肩を揉んだ。光景に勇者は肩が悪いのかと聞いてきた。いいえと嘘をつく。お前のせいだとは言わず、裁判について調査員の考えを述べた。
「勇者様。あんたはストーカーだ。身勝手な。有罪になりますよ。協会も一度注意したはずです。連絡が言っているのにやめないんですか」肩を凝った恨みを晴らす調査員がはっきり結論を言った。勇者は右手を前に出して調査員に向けて、
「ほのお」と呪文を唱えた。
怒りで勇者は炎系魔法を使ってしまった。
「勇者」人差し指を立て横に振る調査員が微笑みを浮かべていた。魔法は発動しなかった。
「ここでは魔法は使えませんよ」調査員が壁を叩いて、説明する。部屋には魔法を使えなくする、素材が壁に埋め込まれていると。
聞くと余計に勇者は腹が立った。だからと言って暴れる真似はやめた。噴火する前の山のごとく。勇者の中でマグマは渦巻いていた。
「協会としても、このままでは困ります。どうにか女神に会うのは、やめてください」マグマの温度が上がる。
「なぜ俺が女神に会えない」
「あんたが、知る権利を乱発して悪用するから悪いんだ」煮えたぎる音が。
「悪い。だったら知る権利を使わなかったらいいのか」
「分かってないな。あんたはストーカーで相手は嫌がっているの。会うのが犯罪なの」
どっ~ん。勇者が片手で机を叩く。
「なんでお前が、女神の気持ちを理解できる」引き下がらない調査員が油を注ぐ。
「法律なの。これも守れないの」
どっど~ん。両手で机を叩く勇者。
「法律!またそれか~」と勇者は机の両端を持つ。
「あんたそれでも勇者」
どっっっっか~~~ん。山から机がおもいっきり飛び出した。
調査員は横にかわして避難した。噴火は収まらない。避難先に椅子が飛んでくる。一つ。二つ。調査員は鎮火に挑んだ。
「勇者様。会うのをやめなければ魔物が倒せなくなりますよ」山は沈静化していった。調査員は救われた。
「すまない。取り乱した」と勇者が謝り、災害のあと片付けを自らした。部屋が戻り話は再開された。
「魔王を倒すまで女神と会わなければいいのです。女に構っている時間はないのですから。全国民が平和を待っているのです」
「なるほど」納得させることに調査員は成功する。実際に勇者が魔王を倒せないだろうと思っていた。
「協会としては非を認めてもらい。今後しない形を取ってください。刑は軽くなるでしょう。私の助言はこんなとこです。あくまでですよ。裁判担当の者に引き継ぎますので調査は終わります。何か聞きたいことはありますか」
「調査内容は賢者には、内緒でお願いします。恥ずかしいからな」
「はい。調査内容は極秘ですので漏れることはありません」と勇者の調査は終わり賢者の元に戻った。




