第9話:二人の絆と、これからの未来
親戚の集まりから帰ってきた日の夜
お風呂上がりのさっぱりした体で、私はリビングのソファに腰掛けた。
となりに巧が座り、いつものように背中をあわせる。
「巧、今日は本当にありがとうね」
「ん? 何が?」
「親戚の前で、私のこと庇ってバシッと言ってくれたでしょ。
すごくカッコよかった」
「あはは、本当のこと言っただけだよ。茜と僕の快適な生活をバカにされるの、
僕だって嫌だしね」
背中越しに伝わる巧のあたたかな体温。
勝男叔父さんたちの不快な怒号も、この背中のぬくもりを感じているだけで、
スーッと胸の奥から消えていくようだった。
ただ……親戚の集まりの去り際に、玄関で母からそっと手を握られながら
囁かれた言葉が、どうしても頭の隅に残っていた。
『茜、巧くんと上手くいってるなら良いんだけど……子どもはどうするの?
世間的にはやっぱり、夜の営みがあって、子どもが生まれてこそ
一人前の夫婦だなんて言われちゃうでしょう?
孫の顔も見られたら嬉しいけれど……』
母に悪気がないことは分かっている。
娘の将来を心配する親心だし、孫を抱いてみたいという素朴な願いなのだろう。
だけどそこには、世間が押し付けてくる 『夫婦の正しいロードマップ』
が色濃く存在していた。
「……ねえ、巧」
「んー?」
「巧はさ……子ども、欲しいって思うことある?」
背中越しに、巧が小さく息をのむ気配がした。
ゲーム機を操作するカチカチというボタン音がピタリと止まる。
巧はポータブルゲーム機を膝の上に置き、少しだけ時間を置いてから、
静かで優しい声で答えた。
「正直に言うね。
僕は、茜とふたりで過ごすこの日常が、あまりにも満たされすぎてて…
『子どもが欲しいから夜の営みを頑張る』
っていう発想に、一度もならなかったんだ」
「巧……」
「もちろん、世の中の子供を育てているご夫婦のことは心から尊敬してるよ。
凄く大変だし、素晴らしいことだと思う。
でも僕にとって人生の最優先事項は、
『茜と二人で、ストレスなく笑顔で生きていくこと』なんだ。
世間が『子どもを産んでこそ一人前』とか『それが本当の幸せ』って
押し付けてこようが、僕たちの幸せの形は、僕たち二人で決めていいと思ってる」
巧の言葉が、じんわりと胸の奥深くに染み渡っていく。
思い返せば、結婚を決めたあの日もそうだった。
『お互いに夜の営みに執着がないこと』
『自分の部屋とプライベートな時間を最優先したいこと』
そんな普通なら「冷たい」と切り捨てられそうな条件を、
二人で素直に打ち明け合えたあの日。
『だったら、二人で最強の同居ルールを作ろうよ』
と笑い合えた瞬間に、私はこの人と一生を添い遂げたいと心から思ったのだ。
「私もね……巧とふたりで背中を合わせながら、くだらないことで笑い合ってる
この生活が、世界で一番大好きなんだ」
「そっか。……よかった」
背中越しに、巧がホッと身体の力を抜き、安心したように息を漏らした。
「じゃあ、これで決定だね。
僕たちはこれからも、世間の雑音はぜんぶスルーして、
世界一仲良しな『ふたりだけの共同経営者』として生きていこう」
「うん!
人生という長期プロジェクト、これからもよろしくね、巧パートナー!」
「こちらこそ、よろしく茜パートナー」
背中を預け合いながら、私たちは顔を見合わせてくすくすと笑った。
世間がどれほど『正しい夫婦の形』を押し付けてこようと関係ない。
私たちは私たちのやり方で、手を取り合い、背中を合わせ、
どこまでも幸せになってやるのだ。
(第9話・終わり)
最後までお読みいただき、ありがとうございます
「子ども」や「世間の普通」についての二人の答えを描いた第9話でした
「お互いの価値観が一致してる二人、本当の神夫婦」
「背中合わせの二人が尊い!」
と思っていただけましたら、
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