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第10話(最終話):夜の営みゼロ、満足度1000%の私たち

土曜日の朝


  まぶしい太陽の光が、私の部屋のカーテン越しに差し込んできた。


「ん……ふぁ……よく寝たぁ……!」


ベッドの中で大きく伸びをする。 時計を見ると、時刻は午前九時。

途中で誰かのイビキに邪魔されることもなく、

掛け布団を奪い合って凍えることもなく、

アラームもかけずに八時間たっぷりと熟睡できた最高の目覚めだ。

パジャマのまま部屋のドアを開け、リビングに向かう。


「あ、茜。おはよう」


キッチンから、エプロン姿のたくみが顔を出した。

テーブルの上には、香ばしいバターの香りが漂うフレンチトーストと、

淹れたてのフレッシュなコーヒーが並んでいる。


「巧、おはよう! すごい、めちゃくちゃ美味しそう!」


「ふふ、昨日茜が言ってた通り、一晩じっくり卵液に浸しておいたんだ。

絶対に美味しいよ」


「神……! 巧、本当にありがとう!」


「お互い様だよ。昨日、茜が洗濯と掃除ぜんぶやってくれたでしょ?」


ふたりでテーブルにつき、「いただきます」と手を合わせる。

フォークを入れるとジュワッと溢れる甘いシロップ。

一口食べれば、口いっぱいに幸せが広がっていく。

テレビのニュースを観ながら、

「このニュースひどいね」「来週の天気、晴れるといいね」

なんて他愛もない会話を交わす。


 結婚して二年。

私たちの日常は、ずっとこんな風に穏やかで、優しさに満ちあふれている。



食後の片付けを二人で手早く済ませたあと、私たちはいつもの定位置へと

向かった。


ふかふかのソファ。


 私は向かって右側に座って大好きなマンガの続きを開き、

巧は左側に座ってゲーム機を起動する。

お互いに背中をあわせ、すっと背もたれに体重を預ける。

背中越しに伝わってくる、巧の確かな体温。

そして、ゲームのボタンを叩くカチカチという心地よいリズム。


(あぁ……やっぱりここが、世界で一番落ち着く場所だな)


ふと、これまでの出来事が頭をよぎる。


『寝室別なんて冷え切ってる』と哀れんできた同僚の結衣さん。

『夜の営みがないなんて欲求不満でしょ?』と迫ってきた痛い後輩の佐々木くん。

『放置されて可哀想〜』と誘惑してきたあざとい萌ちゃん。

『男の尊厳がない! 夫婦失格だ!』と大騒ぎした親戚の叔父さんや叔母さん。


 世間の人たちは、みんないつだって『自分の価値観』という物差しで

私たちの幸せを測ろうとしてきた。


『同じベッドで抱き合って寝るのが本当の愛』

『夜の営みがあってこそ一人前の夫婦』

『お小遣い制でお金を一本化するのが信頼の証』


 だけど、そんな『世間の正解』をいくら集めたところで、

自分たちが苦しかったら意味がないのだ。

同じベッドで寝なくても、最高の睡眠時間があれば毎朝笑顔で向き合える。

 夜の営みがなくても、日常の中に感謝とリスペクトがあれば

心は100%満たされる。

お財布が別々だからこそ、相手へのちょっとしたサプライズが何倍も嬉しくなる。

私たちは、『世間の普通』を捨てた代わりに、『自分たちの本当の幸せ』を

手に入れたのだ。


「ねえ、茜」


背中越しに、巧が声をかけてきた。


「んー?」


「今度の三連休、久しぶりにドライブでも行かない?

茜が前に行きたがってた、海沿いのカフェのパフェ食べに行こうよ」


「えっ、本当!? 行きたい行きたい!」


「よし決まり。僕が車出すから、茜は美味しいお店のリサーチよろしくね」


「任せて! ガッツリ調べ上げる!」


 背中越しに、巧がくすくすと楽しそうに笑う。

私も嬉しくなって、背中に少しだけぎゅっと体重をかけた。


 夜の営みなんて、ゼロでいい。 寝室だって、ずっと別々でいい。

相手の自由を尊重し、お互いを一番の味方だと信じ合える。


 安藤 巧という、世界一の『共同経営者』と出逢えた私の人生は――

文句なしに、満足度1000%だ。



(完)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました

これにて

『レスで何が悪い!~元々レス、これからもレス夫婦ですが、何か問題でも?~』

は完結となります


誰かの価値観に振り回されず、自分たちなりの幸せの形を見つけた安藤夫妻の

物語を、最後まで温かく見守ってくださり心から感謝申し上げます。


「スカッとした!」「安藤夫妻、末永くお幸せに!」

「こんな夫婦関係も素敵だな」と思っていただけましたら、

ぜひページ下部の【★評価】や【ブックマーク登録】で

作品を応援していただけると、

今後の執筆の大きな大きな励みになります


またどこかで二人のSS(短編)などでお会いできたら幸いです。

これまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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