第10話(最終話):夜の営みゼロ、満足度1000%の私たち
土曜日の朝
まぶしい太陽の光が、私の部屋のカーテン越しに差し込んできた。
「ん……ふぁ……よく寝たぁ……!」
ベッドの中で大きく伸びをする。 時計を見ると、時刻は午前九時。
途中で誰かのイビキに邪魔されることもなく、
掛け布団を奪い合って凍えることもなく、
アラームもかけずに八時間たっぷりと熟睡できた最高の目覚めだ。
パジャマのまま部屋のドアを開け、リビングに向かう。
「あ、茜。おはよう」
キッチンから、エプロン姿の巧が顔を出した。
テーブルの上には、香ばしいバターの香りが漂うフレンチトーストと、
淹れたてのフレッシュなコーヒーが並んでいる。
「巧、おはよう! すごい、めちゃくちゃ美味しそう!」
「ふふ、昨日茜が言ってた通り、一晩じっくり卵液に浸しておいたんだ。
絶対に美味しいよ」
「神……! 巧、本当にありがとう!」
「お互い様だよ。昨日、茜が洗濯と掃除ぜんぶやってくれたでしょ?」
ふたりでテーブルにつき、「いただきます」と手を合わせる。
フォークを入れるとジュワッと溢れる甘いシロップ。
一口食べれば、口いっぱいに幸せが広がっていく。
テレビのニュースを観ながら、
「このニュースひどいね」「来週の天気、晴れるといいね」
なんて他愛もない会話を交わす。
結婚して二年。
私たちの日常は、ずっとこんな風に穏やかで、優しさに満ちあふれている。
◇
食後の片付けを二人で手早く済ませたあと、私たちはいつもの定位置へと
向かった。
ふかふかのソファ。
私は向かって右側に座って大好きなマンガの続きを開き、
巧は左側に座ってゲーム機を起動する。
お互いに背中をあわせ、すっと背もたれに体重を預ける。
背中越しに伝わってくる、巧の確かな体温。
そして、ゲームのボタンを叩くカチカチという心地よいリズム。
(あぁ……やっぱりここが、世界で一番落ち着く場所だな)
ふと、これまでの出来事が頭をよぎる。
『寝室別なんて冷え切ってる』と哀れんできた同僚の結衣さん。
『夜の営みがないなんて欲求不満でしょ?』と迫ってきた痛い後輩の佐々木くん。
『放置されて可哀想〜』と誘惑してきたあざとい萌ちゃん。
『男の尊厳がない! 夫婦失格だ!』と大騒ぎした親戚の叔父さんや叔母さん。
世間の人たちは、みんないつだって『自分の価値観』という物差しで
私たちの幸せを測ろうとしてきた。
『同じベッドで抱き合って寝るのが本当の愛』
『夜の営みがあってこそ一人前の夫婦』
『お小遣い制でお金を一本化するのが信頼の証』
だけど、そんな『世間の正解』をいくら集めたところで、
自分たちが苦しかったら意味がないのだ。
同じベッドで寝なくても、最高の睡眠時間があれば毎朝笑顔で向き合える。
夜の営みがなくても、日常の中に感謝とリスペクトがあれば
心は100%満たされる。
お財布が別々だからこそ、相手へのちょっとしたサプライズが何倍も嬉しくなる。
私たちは、『世間の普通』を捨てた代わりに、『自分たちの本当の幸せ』を
手に入れたのだ。
「ねえ、茜」
背中越しに、巧が声をかけてきた。
「んー?」
「今度の三連休、久しぶりにドライブでも行かない?
茜が前に行きたがってた、海沿いのカフェのパフェ食べに行こうよ」
「えっ、本当!? 行きたい行きたい!」
「よし決まり。僕が車出すから、茜は美味しいお店のリサーチよろしくね」
「任せて! ガッツリ調べ上げる!」
背中越しに、巧がくすくすと楽しそうに笑う。
私も嬉しくなって、背中に少しだけぎゅっと体重をかけた。
夜の営みなんて、ゼロでいい。 寝室だって、ずっと別々でいい。
相手の自由を尊重し、お互いを一番の味方だと信じ合える。
安藤 巧という、世界一の『共同経営者』と出逢えた私の人生は――
文句なしに、満足度1000%だ。
(完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました
これにて
『レスで何が悪い!~元々レス、これからもレス夫婦ですが、何か問題でも?~』
は完結となります
誰かの価値観に振り回されず、自分たちなりの幸せの形を見つけた安藤夫妻の
物語を、最後まで温かく見守ってくださり心から感謝申し上げます。
「スカッとした!」「安藤夫妻、末永くお幸せに!」
「こんな夫婦関係も素敵だな」と思っていただけましたら、
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またどこかで二人のSS(短編)などでお会いできたら幸いです。
これまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




