第3話:夫視点:僕の妻が可愛くて優秀すぎる件
僕――安藤 巧(あんどう たくみ・28歳)には、世界で一番尊敬していて、大好きな妻がいる。
名前は茜。 システムエンジニアとして働く、自立していてカッコいい女性だ。
今夜もリビングで、僕たちは背中合わせで座っている。
僕は新作RPGのレベル上げ。 茜はスマホで大好きなマンガを読んでいる。
ときどき、背中越しに「ふふっ」と茜の笑う振動が伝わってくる。
ただそれだけで、僕の心は驚くほど満たされていた。
(あぁ……今日も平和だなぁ)
◇
「お前、マジで大丈夫なのか……?」
今日の昼休み、会社の同僚である健太に、神妙な顔でそう問い詰められたのを思い出す。
「何が?」
「何が、じゃないよ! お前、奥さんと寝室別々で、夜の営みもゼロ(レス)なんだろ!? 男としての尊厳、ズタズタじゃないか……!」
健太は「男の友情」みたいな熱い瞳で、僕の肩をぽんぽんと叩いてきた。
「いいか巧。男にはな、『必要とされたい欲求』ってものがあるんだよ! 妻に拒絶されて、同じベッドにも入れないなんて、俺なら悲しくて耐えられないね!」
健太は熱弁を振るっていたが、僕は冷めた目でアイスコーヒーをすすっていた。
(拒絶って何だ……?)
そもそも、僕たちは『拒絶し合った結果』レスになったわけじゃない。
付き合っていた頃から、お互いにそういう行為への関心が薄く、結婚するときに「お互い無理して合わせるの、やめようか」と話し合って決めたのだ。
寝室を分けたのも、僕が重度のゲーマーだからだ。
「健太。僕は休日に12時間連続でゲームしたい人間なんだよ」
「おう、知ってる。重度のオタクだな」
「元カノには『ゲームと私、どっちが大事なの!?』
って怒鳴られて、ゲームの電源切られたりした」
「まあ……普通の彼女なら怒るわな」
「でもね、茜は違うんだ」
僕は遠い目をして、茜の天使のような対応を回想した。
「僕が12時間ゲームしてても、一切怒らない。 どころか、
『集中できてすごいね! お腹空いたでしょ、夕飯ピザ頼むけど何味がいい?』
って笑顔で聞いてくれるんだよ」
「神か???」
「だろ? 神なんだよ」
僕は力強く頷いた。
「僕が自分の部屋でゲームに没頭して、茜は自分の部屋で推し活を楽しんで、
お互いスッキリした状態でリビングで会う。
同じベッドで寝てイビキで起こし合うより、別々の部屋で熟睡して、
朝『おはよう!』って笑顔で挨拶する方が、100万倍幸せなんだ」
「うぐ……」
「僕にとって茜は、僕が僕のままでいられる場所をくれた、
世界でたった一人の最高のパートナーなんだよ。
男としての尊厳?
そんなものより、茜と過ごす穏やかな時間の方が遥かに大事だけど」
健太はぐうの音も出なくなったようで、
「……お前らが幸せなら、それでいいや」と呟いて引き下がっていった。
◇
「あ、巧。ハーゲンダッツ食べよ!」
茜の声で、回想から意識が引き戻された。
茜が冷凍庫からアイスを持ってきて、スプーンを僕に差し出してくる。
「ありがと。茜、これ食べたかったやつでしょ?」
「うん! 期間限定の抹茶ナッツ! 巧、一口ちょうだい」
「はい、あーん」
「んーっ! 美味しい!!」
目を細めて幸せそうに笑う茜を見て、胸の奥がキュッと締め付けられる。
触れ合わなくたって。 同じベッドで寝なくたって。
この笑顔を一番近くで見られる権利を僕にくれた彼女を、
愛おしく思わないわけがない。
(外野は『仮面夫婦』だの『同居人』だの好き勝手言えばいいさ)
僕は茜とスプーンを突き合わせながら、心の中でフッと不敵に笑った。
(君たちがどんなに羨ましがっても、この世界一可愛くて優秀な
『共同経営者』は、絶対に誰にも譲らないけどね)
(第3話・終わり)
ご覧いただきありがとうございます
今回は夫・巧視点でお送りしました。
妻にベタ惚れな巧ですが、みなさんの周りにも
「一見冷えてそうだけど実は超仲良し」
なご夫婦はいらっしゃいますか?
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