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【特別編】一緒に一人旅?

~究極の合理主義者が試みる「一人旅の共有」~


「来月、有休を取って一泊二日で岐阜に行ってくる」


 夕食後、リビングでノートPCを開きながら私が告げると、

向かいの席でポータブルゲーム機を握っていた巧がぴくりと眉を動かした。


「岐阜か。珍しいね、茜が一人旅なんて」


「私の推してる2.5次元俳優のファンミーティングが岐阜の市民会館であってね。

チケットが当たったの。推し活は一人で没頭するのが私の鉄則だから、

当然完全な一人旅だよ」


私がそう言うと、巧はゲームの画面から目を離し、珍しく真剣な顔で

ビジネス用の手帳を開いた。


「……奇遇だね。実は僕も、ちょうど同じ日程で岐阜県の各務原かかみがはら

行く予定を立てていたところなんだ」


「えっ? 巧が? 自宅のゲーム部屋を愛する引きこもりの君が、わざわざ岐阜に?」


驚く私に、巧は眼鏡の奥の目をキラリと光らせて語り始めた。


「海外から個人輸入されたものの国内では流通していない、伝説の超静音

ファンレスPCケースがあるんだ。

ネットのガジェット掲示板で知り合った岐阜在住のマニアの方が

『直接引き取りに来てくれるなら半額で譲る』と言ってくれて。

千載一遇のチャンスなんだ」


「なるほど、オタクの行動力ってすごいのね……」


 お互いに目的は違えど、目的地は同じ「岐阜」。

巧は少し顎に手を当てて考え込んだ後、プレゼンでも始めるかのように

指を一本立てた。


「茜。ここで提案なんだけど―

―今回の岐阜遠征、『一人旅の共有』を行わないか?」


「……一人旅の共有? それって言葉として矛盾してない?」


ううん(いや してないよ)。新幹線の指定席やホテル、レンタカーなどをまとめて手配すれば、

交通費や宿泊費の複数人割引が効くよ。

移動中の荷物番やトラブル時の相互バックアップというメリットも享受できる。

ただし、現地での行動や買い出し、部屋は完全別個。

互いのパーソナルスペースには一切侵入しない…

…いわば『ソロプレイのパーティ同乗』だ」


巧の提案に、私の脳内の計算電卓が瞬時に弾き出された。


(新幹線代とレンタカー代を折半できて、一人旅の気楽さは100%保持できる…

…利点しかない!)


「採用! その『岐阜遠征協定』、結びましょう」


 こうして始まった、前代未聞の「一緒に一人旅」。



当日の東海道新幹線。

私たちは並びの指定席に座っていたが、会話はゼロだ。

私はノイズキャンセリングイヤホンを装着して推しのライブ映像に没頭し、

巧は隣でゲーミングノートPCの画面と睨めっこしている。

周りから見れば「冷え切った夫婦」に見えるかもしれないが、

私達にとってはこれが至高の快適空間だった。


岐阜駅に到着した瞬間、私たちは改札前で向き合った。


「じゃあ、僕はレンタカーを借りて各務原(かかみがはら)のガジェットマニア宅へ向かうよ。

夕方18時にホテルのロビーで」


「了解。私はバスで市民会館へ向かうね。18時に」


 ビジネスマン並みにスマートな現地解散。


私は思う存分推しのイベントでキャーキャー叫んで狂喜乱舞し、

巧は激レアな重量級PCケースをレンタカーのトランクルームに積み込んで

ほくほく顔で合流した。


 ビジネスホテルのロビーで再会した私たちは、チェックインを済ませる。

もちろん、部屋はシングルルームを別々に二室だ。


「お互い無事にミッション完了したようだね。……さて、茜。

一人だと色んな種類が頼めない地元の居酒屋へ、夕食に行かない?」


「賛成! 飛騨牛と鶏ちゃん(けいちゃん)焼きが食べたい!」


 ホテルの近くで見つけた雰囲気の良い居酒屋に入り、

私たちはテーブルを挟んだ。

一人旅だと量の問題で諦めがちな大皿料理も、二人なら頼める。

もちろん会計はきっちり折半だ。


「推しのビジュアルが過去最高でね……ファンサで目が合った気がするんだよ……」


「それは素晴らしいね。僕の方も見てよ、この10kg超のアルミ削り出し筐体。

この金属フレームと冷却構造の美しさ、わかる?伝わる?」


 お互いに自分のオタク話(相手にとっては興味のない分野)を一方的に熱弁し、

相手も「へえ、良かったね」「それは素晴らしいね」と適度な相槌だけを打つ。

相手に共感や理解を強要しない、この圧倒的な居心地の良さ。


 料理を平らげ、お腹も心も満たされた私たちは、

店を出てホテルのエレベーターに乗った。


「じゃあ、僕の部屋は4階なのでここで。おやすみ、茜」


「おやすみ、巧。明日も各自、朝食はテキトーに済ませて10時にロビー集合ね」


「OK、了解」


チーン、とエレベーターの扉が閉まり、自分の部屋に戻る。

ふかふかのベッドに飛び込みながら、私は幸せな溜め息をついた。

誰にも気を使わず、自分の「好き」だけに100%没頭できる一人旅の自由さ。

それでいて、美味しいご飯を一緒に食べられて、

安心感を共有できるパートナーがいる快適さ。


「『一緒に一人旅』……これ、最高すぎるんじゃない?」


 隣の部屋(あるいは下の階)で、今頃せっせとPCケースの分解チェックを

しているであろう旦那さんの姿を思い浮かべ、私はくすりと笑って目を閉じた

のだった。



(【特別編】・終わり)

最後までお読みいただき、ありがとうございます

完結したはずなのに、もう一話書いてしまいました…

今回は、現地即解散・宿はシングル2室という、ふたりらしい

『一緒に一人旅?』をお届けいたしました。

誰にも気を使わない自由さと、パートナーがいる安心感を両立する

旅の形を描いたつもりです。

楽しんでいただけましたら幸いです


読んでくださっている方がいらっしゃるというおかげで、

こうして楽しく書く気力が生まれることができています。

本当にありがとうございます

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