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悪役令嬢になった理由がわかりません ~王妃様の首を心配しただけなのですが~  作者: とも


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8-5 小さな庭師たち

 それから、さらに三週間が過ぎた。

 タンとポポは、赤ちゃんと呼ぶには大きくなっていた。まだ両親よりはずっと小さいが、足取りはしっかりし、草原を転ばずに走れるようになっている。

 乳を飲む回数も減り、今では陽輪花の果肉を少しずつ食べ始めていた。好奇心旺盛なポポは、何でも最初に口へ入れようとする。慎重なタンは、父にゃわんやポポが食べるのを見て、安全だと分かってから口にする。

 果物の好みも違った。

 ポポは甘い雫桃が好きだったし、タンは酸味のある紅珠の実を気に入り、白い眉を寄せながら何度も食べる。

「酸っぱい顔をしているのに、好きなのですね」

「タンは、あれが普通の顔なのではないか?」

 フェリクスが言う。

「眉毛模様のせいで、何を食べても難しい顔に見えます」

「本人に失礼だぞ」

「兄様も最初に言っていたでしょう?」

 二人が話している間にも、タンは紅珠の実を食べ終え、チャチャの膝へ前足をかけた。

「もうないよ」

「にゃう」

「今日は二つ食べたでしょう?」

「にゃうう‥‥‥」

 タンはチャチャの膝から下りると、籠を持っているマリアネーゼのもとへ向かった。

「チャチャでは駄目だと分かって、交渉する相手を変えたな」

「賢い子なのです」

「食い意地については、ポポと変わらないと思うぞ」

 ポポは父にゃわんのそばにいた。父にゃわんが硬い風綿種の殻を牙で割る様子を、興味深そうに見つめている。殻が割れると、中から柔らかな果肉と小さな本当の種が現れた。

 父にゃわんは果肉の一部を食べ、残りを母にゃわんのもとへ運ぶ。

 そのあと、小さな種を一つくわえて歩き出した。

「種を植えるみたいです」

 チャチャたちは立ち上がらず、その様子を見守った。

 父にゃわんは二つの陽輪花の芽から少し離れた場所まで行くと、前足で土を掘り始めた。

 浅い穴ができ、くわえていた種を穴へ落とし、鼻先と前足を使って土をかぶせる。

 最後に、その場所を何度か踏んだ。ポポは父親の隣に座り、一連の動きをじっと見ていた。

「お父さんのまねをするかな?」

 チャチャが囁く。ポポは割れた殻のところへ戻ると、小さな種を一つくわえた。

「持った」

「静かにしろ。驚かせるぞ」

 ポポは得意そうに尻尾を立て、父にゃわんの植えた場所へ向かう。そして、父親が土をかぶせたばかりの場所を掘り始めた。

「あっ」

 埋めた種が、再び土の上へ転がり出てしまうじゃないか!‥‥‥ポポは自分のくわえていた種も隣へ置き、二つを前足で転がし始めた。

「植えるのではなく、掘り出してしまったようです」

「遊びたかっただけらしいな」

 父にゃわんが駆け寄る。せっかく埋めた種を掘り出され、困ったようにポポを見つめている。

「にゃう!」

 父にゃわんが鳴く。

 ポポも「にゃあ」と答えた。

 何を話しているのかは分からない。

 けれど、父親が叱り、子供が言い訳をしているように見えた。

 父にゃわんは二つの種をくわえ直し、もう一度穴へ入れる。

 今度はポポへ見せるように、ゆっくり土をかぶせた。

 ポポは前足を出しかけたが、父にゃわんに見られると、その手を引っ込める。

「掘り返してはいけないと、分かったのでしょうか‥‥‥」

「今のところは、な」

 そこへタンもやってきた。タンは埋められた種ではなく、父にゃわんが掘った穴を嗅いでいる。

 自分もまねをするように、少し離れたところで土を掘り始めた。

「タンも真似してるみたい」

 チャチャが期待していると、タンは丁寧に穴を掘った。

 深さを確かめるように鼻先を入れる。

 それから、何も入れないまま土を戻した。

「穴を掘って、埋めただけですね」

「種を忘れたんじゃないか?」

 フェリクスが笑う。タンは達成感に満ちた顔で、チャチャのもとへ戻ってきた。

「上手に穴を掘れたね。でも、種を入れないと陽輪花は生えないよ」

「にゃう」

 本人は完璧に仕事をしたつもりらしい。

「初めから上手にはできないでしょう」

 オスカーが言った。

「この子たちは今、両親の行動を見ながら覚えているところなのです」

「わたくしたちが手伝うことはできませんか?」

「人間が種を埋めても芽は出なかったのでしょう? 必要以上に手を出さず、両親へ任せるのがよろしいかと」

 チャチャは、割れた風綿種の中に残っている小さな種を見た。陽輪花が増えれば、にゃわんたちの食べ物も増える。

 タンとポポが大人になり、両親と別の場所で暮らすようになっても、十分な種を食べられる。綿毛は埋めないので、鬘の研究にも使えるかもしれない。まずは、にゃわんたちが暮らせる草原を作ることが先だ。

「タン、ポポ」

 チャチャは二匹を呼んだ。

 ポポはすぐに走ってくる。

 タンも少し遅れて、チャチャの前へ座った。

「これを、もっと増やしたいの」

 チャチャは成長した二つの陽輪花の芽を指した。

「陽輪花が増えれば、甘い果肉も種も、たくさん食べられるでしょう?」

「にゃう」

 ポポが返事をする。

「だから、食べる分とは別に、種を少し植えてほしいの。できる?」

 二匹はチャチャを見る。

 次に、陽輪花の芽を見る。

 最後に、割れた風綿種の中に残っている小さな種へ顔を向けた。

 言葉の意味を考えているようだった。

「たくさん食べたいなら、たくさん植えるのです」

 ポポが種へ飛びついた。

 一つをくわえ、草原を走っていく。

「分かったのかな?」

「単に、種で遊びたいだけかもしれないぞ」

 フェリクスの心配どおり、ポポは途中で種を落とした。

 前足で転がし、追いかける。

 少し進んでは転がし、また追いかける。

 しかし、先ほど父にゃわんが植え方を見せた場所の近くまで来ると、ポポの動きが変わった。

 前足で土を掘る。

 種をくわえ直し、穴へ落とす。

 そして、鼻先を土だらけにしながら、何度も土をかぶせた。

「植えた!」

 今度は掘り返さない。

 ポポは埋めた場所の匂いを嗅ぐと、チャチャを振り返った。

「できたね、ポポ!」

「にゃわん!」

 褒められたことが分かったのか、ポポの尻尾が激しく揺れた。

 タンは、まだチャチャの前にいる。

「タンもお願いできる?」

 タンは種のところへ歩いていき、一つをくわえた。先ほど自分が穴を掘った場所へ戻る。

 土を掘り返し、今度こそ種を中へ入れた。

 穴を埋める動きは、ポポよりもずっと丁寧だった。

 最後には、父にゃわんと同じように、その場所を前足で踏み固める。

「タンもよくできました」

「にゃう」

 白い眉を動かし、タンがチャチャを見上げた。二匹とも、チャチャの頼みを理解したように見えた。

「もう少し、植えてくれる?」

 チャチャが残っている種を指す。

「食べる分は残していいからね。でも、陽輪花もたくさん増やしてほしいの」

「にゃう!」

「にゃあ!」

 タンとポポは揃って種のところへ走った。父にゃわんと母にゃわんも加わり、一粒ずつ種をくわえて草原へ散っていく。オスカーは慌てて、植えられた場所へ目印の棒を立て始めた。

「旦那様にも来ていただくべきでしたな。これでは私一人では追いつきません」

「お父様は、仕事中です」

「坊ちゃま、手を貸してくださいますか?」

「僕が目印を立てる。チャチャは植えた数を記録しろ」

「分かりました」

 その日、にゃわん一家が植えた種は、全部で十二粒。

 そのうち三粒は、ポポが途中で見失った。

 一粒は、タンが同じ穴へ二度入れてしまった。

 きちんと離れた場所へ植えられたのは、八粒だった。それでも、初めてにしては十分だ。


 五日後。

 目印を立てた八か所のうち、四か所から新しい芽が顔を出した。以前なら、芽が出るまでにはもっと時間がかかっていたはずだ。

 それも、半分が一度に芽吹くことなどなかったという。オスカーは記録を見比べ、何度も首を傾げた。

「植え方がよかったのでしょうか?」

「それだけでは説明がつきませんね」

 チャチャが芽の前へしゃがむと、タンとポポも両側へ座った。

 四つの新しい芽は、三人を迎えるように小さな葉を広げている。

 絆が深まるほど、陽輪花も増えていく‥‥‥とか‥‥‥?

 そんな簡単なわけないか‥‥‥

 けれどチャチャには、この小さな庭師たちと一緒なら、いつか草原いっぱいに陽輪花を咲かせられるような気がしていた。


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