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1-3 そして、お茶会へ向かう

「女性は仕事をしないのですか?」


私の質問に、部屋の空気がぴたりと止まった。

侍女たちは一斉に視線を逸らし、母だけが困ったように微笑んでいる。

‥‥‥やはり変なことを言ったらしい。だが、どこが変なのかがよくわからない。

だって仕事があるから軽い鬘を被るのでしょう?

だったら女性だって軽い方がいいのでは?その疑問は解決しないまま終わった。


結局、母は、

「その話はまた今度ね」

とだけ言って話を切り上げてしまったのだった。

私は納得していない。

最後まで突き詰めてはいけない気もする‥‥‥

胸の奥に小さな棘が刺さったような感覚が残り、何か大事なことをはぐらかされた気もする。

けれど、何をどう聞けばいいのかも今は、わからなかった。

なんだかモヤモヤした気持ちのまま唇を尖らせた。


だがそれ以上に重大な問題が発生していた。

とりあえず、この疑問については後で考えることにした。

今はそれよりも、目の前のやらなければならないことに集中しなければならない。

お茶会の時間が迫っていたのである。


「お嬢様、手袋はこちらです」

「靴をお持ちしました」

「髪飾りを追加いたします」


追加、す、る?


その単語に嫌な予感がした。私は鏡を見る。

すでに十分だと思う。

むしろ過剰だと思う。

頭の上には2樽。

首は悲鳴を上げている。

これ以上何を足すのだろう。

だが侍女たちは容赦しなかった。

真珠。

金細工。

小さな宝石。

次々と鬘へ取り付けられていく。

私はだんだん不安になった。

「あの」

「はい、お嬢様」

「重くなっていませんか?」

侍女たちは顔を見合わせた。

そして優しく微笑んだ。

「もちろんです。公爵家の威厳を保つためですから」

これは、当たり前なのか‥‥‥

私は思わず黙り込んだ。

どうやらこの世界では重くなることは良いことらしい。

理解は、できないが‥‥‥

「素敵ですわ」

侍女がうっとりと呟く。

「公爵家のお嬢様らしくなりました」

私は鏡を見た。

確かに綺麗だった。

前世なら写真館で撮影するお姫様のような姿だ。

淡いクリーム色のドレス。

繊細な刺繍。

宝石の輝き。

そこまではいい。

とても綺麗だと思う。

だが、頭の上の巨大な鬘だけは、どうしても理解できない‥‥‥

椅子から立ち上がる時がまた、一苦労だった。重い、とにかく重い。

私は足を少し開き、ぐっと踏ん張る。

よいしょ、と心の中で気合を入れてようやく腰が浮いた。だが立ち上がった瞬間、頭の上の2樽がぐらりと揺れる。

「ひゃっ」

思わず声が漏れ、身体がふらついた。慌てて侍女が両脇から支えてくれた。

「お嬢様、お気をつけくださいませ」

「ありがとうございます……」

私は情けなく礼を言った。

数歩、歩いてみる。

やはり少しふらつき、足元がおぼつかない。

これ、本当に大丈夫なのだろうか?お茶会の途中で転んだりしないだろうか?

もし転んだら、首や腰を痛めるかもしれない。

最悪の場合、ずっとひっくり返ったまま起き上がれずに過ごすことになるかもしれない‥‥‥

そう想像して、私はぶるっと身を震わせた。

頭の上の2樽はどうなるのだろう?


あ~、考えたくない‥‥‥


私は不安を抱えたまま、母と共に屋敷の玄関へ向かった。

歩くたびに鬘が揺れる。

そのたびに首の筋肉が緊張した。

まるで頭の上で誰かが小さく飛び跳ねているようだった。

玄関前には公爵家の馬車が待っていた。

黒塗りの車体で、金の装飾が施されていた。

扉にはクラウゼン公爵家の紋章が描かれている。

とても大きく立派な馬車だった。

だが私が気になったのはそこではない。

「お母様」

「なあに?」

「馬車に乗る時は頭をぶつけませんか?」

母が吹き出した。

後ろの侍女たちも肩を震わせている。

私は真面目に聞いたのだけど‥‥‥

「頑張って感覚を掴みなさいな。そのうち、このくらいとわかるようになるわ」

母はそう言った。

そういうものなんだろうか?そのうち、慣れるらしい‥‥‥

世の中には慣れなくていいこともあると思う。

私は慎重に馬車へ乗り込んだ。

本当に慎重に。

少しでも気を抜けば頭上の2樽が扉にぶつかりそうだったからだ。

侍従が扉の横に立ち、

「もう少し頭をお下げください、お嬢様」

と声をかけてくれる。

私は言われた通りに身をかがめた。

だが今度は鬘の後ろ飾りが引っかかりそうになる。

「ひょえっ」

また、変な声を出してしまった。

侍従と侍女に支えてもらいながら、私は少しずつ馬車の中へ押し込まれていく。

まるで大きな荷物を運び込んでいる気分だった。

ふぅ、と一息ため息をこぼし、何とか無事に乗り込めたことにほっと胸をなで下ろした。

座席はとても乗り心地が良く、ふかふかだった。

だが安心したのも束の間だった。

向かい側へ座った母を見て、私は固まった。

改めて見ると母の頭は、本当に大きい。

どうして今まで平然と会話できていたのかわからない。

3樽、かぁ‥‥‥

その言葉の意味が少しだけ理解できた気がした。

頭の大きさではない。

背筋を伸ばし、姿勢よくピンとしている。そんな母は、とてもきれいではある。

だが、それでも3樽は3樽だった。

もはや建築物の規模なのだ。

馬車がゆっくり動き始める。

窓の外の景色が流れていく。

私はふと小さく息を吸った。

屋敷の外の空気は少しだけ軽かった。

それだけで気分が良くなる。

だが母はそんな私を見て首を傾げた。

「そんなに楽しみ?」

「え?」

「初めてのお茶会でしょう?」

私は少し考えたが楽しみかと聞かれるとちょっと、違う気がする。

むしろ‥‥‥

「怖いです」

母は目を丸くした。

「どうして?」

私は正直に答えた。

「もっと大きな鬘を被るんですよね?」

母は数秒黙ったあと、耐え切れなくなったように笑い出した。

私は真剣だったのだけれど‥‥‥

そして、その頃。私はまだ知らなかった。

お茶会会場に集まる貴婦人たちが、この予想を軽々と超えてくることを‥‥‥

馬車はゆっくりと目的地へ向かっていた。



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― 新着の感想 ―
この世界でも18世紀の絵には、とんでもない物もありますが、どこまで実物でどこから誇張なのでしょうか……頭に帆船を載せるのはさすがに首が折れそうな気がします。
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