5-5 そして、観察してから‥‥‥
観察を始めて三日目。
果実には新しい果肉を塗り直した。
同じ果実ばかりでは警戒されている可能性も考え、皿の横には、殻の中から取り出した小さな種も一つ置いてみた。
種の表面にも果肉を薄く塗ってある。
けれど、近づいたのは虫ばかりで、動物の姿は見えなかった。
四日目には、黒い種を別のものへ替えた。
今度は果肉を完全に拭き取った種と、果肉を塗った種を一つずつ並べる。
どちらに興味を示すのか確認するためだ。
しかし、私たちが見ている間は、何も起こらなかった。
翌朝確認すると、果肉を塗った種だけが皿からなくなっていた。
「食べに来たのでしょうか?」
「その可能性はあります。ただし、鳥が持っていったのかもしれません」
オスカーは木皿の周囲を詳しく調べた。
柔らかな土に、何かが踏んだような小さなくぼみがある。けれど、形が崩れていて、どのような動物の足跡なのかまでは分からなかった。
五日目。
今度は、木皿の周囲へ薄く乾いた土を撒いた。
何かが近づけば、足跡が残るはずだ。
ところが、その日の夜に風が強く吹き、翌朝には土の表面が乱れていた。
足跡らしきものはあったけれど、風でできたくぼみとの区別がつかない。
六日目には、果肉を塗る量をさらに減らした。
七日目には、皿の位置をほんの少しだけ陽輪花へ近づけた。
毎日、誰かが交代しながら観察を続けた。
朝はオスカーとマリアネーゼ。
オスカーが仕事へ戻れば、私とマリアネーゼ。
マリアネーゼに仕事があるときは、エマや別の侍女が私と一緒に入る。
けれど、姿の見えない動物は、私たちが隠れ場所を離れたときに限って果肉を食べているようだった。
果肉を塗った種がなくなる日もあれば、まったく手をつけられない日もある。
木皿そのものが少し動いていることもあった。
確かに何かが来ている。
それなのに、姿を見ることだけはできなかった。
「私たちが中にいることを、分かっているのでしょうか?」
「その可能性もあります」
オスカーは隠れ場所を見ながら答えた。
「見た目や匂いだけではなく、我々の息遣いや、わずかな動きを感じているのかもしれません」
「それなら、どうすればよいのですか?」
「気長に待つしかありません」
あっさりとした答えだった。
「動物が、あの場所に危険はないと納得するまで待つのです。我々が焦れば、その分だけ遠ざかります」
待つことも調査のうち、か‥‥‥
それは分かっていても、何日も姿を見られないと、さすがに気持ちが沈んでくる。
観察を始めてから九日目。
その日の午後は、私とマリアネーゼが隠れ場所へ入っていた。
木皿には、新しい黒い種が一つ置かれている。
表面には、ごく薄く果肉を塗ってあった。
これまでと同じように鳥が鳴き、虫が飛び、陽輪花が風に揺れている。
今日も現れないかもしれない。
そう思い始めたとき、マリアネーゼの指が私の腕へ一度触れた。
私はすぐに外へ目を向けた。
何も見えない。
小鳥も、虫もいない。
けれど、少し離れた草が、風とは違う方向へ動いている。
何かがいる。
私は息を殺し、決して体を動かさないようにした。
草の揺れは、少しずつ木皿へ近づいてくる。
一度止まり、また動く。
こちらの様子を確かめながら、慎重に進んでいるようだった。
やがて、草の間から、二つの耳が現れた。
形は猫の耳に似ている。
けれど、耳の先は犬のように少し垂れていた。
次に、丸い頭がゆっくりと姿を見せる。
大きな瞳。
短い鼻。
頬の辺りには柔らかそうな毛が広がり、その口元には、硬い果実の殻を割るためなのか、小さな牙が覗いている。
猫のようにも見えるし、犬のようにも見える。
けれど、そのどちらとも違う生き物だった。
私が今まで一度も見たことのない生き物が、草の間からこちらをじっと見つめていた。




