5-4 二日目の観察
二日目も、朝からオスカーとマリアネーゼが観察を始めた。
しかし、午前中に来たのは、昨日と同じ種類の小鳥と、小さな虫だけだった。
果肉を塗った部分には虫が集まり始めている。
昼になる頃には表面が乾き、昨日より色も悪くなっていた。
「このまま置いても、例の動物は食べないのではありませんか?」
私が尋ねると、オスカーが頷いた。
「乾いた果肉は取り除いたほうがよいでしょう。ただし、果実そのものは同じ物を使います」
「新しい物へ替えないのですか?」
「見慣れた物が急になくなり、違う物が置かれたら、また警戒するかもしれません」
乾いた果肉だけを水で湿らせた布で拭き取り、厨房から運んできた新しい果肉を薄く塗り直した。
虫を完全に防ぐことはできない。
だから、塗る量は初日よりも少なくした。
その日の午後は、マリアネーゼに屋敷の仕事があった。
そこで私は、別の侍女と一緒に観察することになった。
同行したのは、普段から私の衣装や部屋の手入れを手伝っている、若い侍女のエマだった。
「いいですか?エマ、中では話してはいけません」
「承知しております」
「動物を見つけたら、私の腕へ一度触れてください。動いてはいけないときは二度です」
「お嬢様も、驚いて飛び出してはいけませんよ」
「マリアネーゼと同じことを言わないで‥‥‥」
隠れ場所へ入ってから、私たちは声を出さずに待ち続けた。
ところが、エマは外の様子より、布の隙間から入ってくる虫のほうが気になるらしい。
小さな虫が腕に止まるたび、声を出さずに追い払おうとして、体を動かしている。
そのたびに、覆いに使った草がかすかに揺れた。
これでは、警戒心の強い動物が近づいてこないかもしれない。
私はエマの腕へ二度触れた。
動かないで、という合図だ。
エマは真剣な顔で頷いた。
その直後、今度は私の頬へ虫が止まった。
手で追い払いたかったけれど、先ほどエマへ注意したばかりなので動けない。
虫は頬から鼻の横へ移動し、さらに上へ登ろうとする。
くすぐったい‥‥‥それでも必死に耐えた。
隣を見ると、エマが笑いを堪えている。
私は、彼女の腕へ三度触れたくなった。
危険があるときの合図だ。
私にとっては十分な危険だったけれど、虫一匹で観察を中止すれば、あとでマリアネーゼに呆れられる。
その日も、動物は現れなかった。




