第75話 残り火——決着
元和六年(1620年)初冬
足尾の一件から、十日ほどが過ぎた。
捕らえた浪人たちの処遇について、資景は烏山城で六之助と話し合っていた。
「香取平三郎ほか、主だった三人は、江戸へ送りました」
「残りの者たちは」
「七人です。いずれも、火薬には触れていましたが、陣屋を焼くことには加わっていません。香取に従っていただけの者もおります」
資景はしばらく考えた。
「その七人は、どうなる」
「本来なら、全員が同罪として裁かれるでしょう」
六之助が言った。
「殿がお望みなら、口添えはできます」
「口添えを頼む。首謀者と、それ以外は分けて考えたい」
「江戸には、そう伝えます」
六之助は頭を下げた。
———
陸奥の鍛冶職人たちについては、また別の判断が要った。
新九郎が調べたところでは、彼らは銃身の技を教えようとしたわけではなく、迷った末に断っていたという。それでも、隠れて信仰を続けているという事実だけで、見つかれば重い咎めを受ける。
「あの者たちのことは、報告に含めません」
資景が言った。
「なぜです」
一馬が聞いた。
「あの者たちは、取引を断った。銀も受け取っていない。ならば、今回の一件には関わりがなかった、ということでいい」
一馬は少し間を置いてから、頷いた。
「……承知しました」
「山を下りて、別の土地に移ったのだったな」
「はい。もう、どこにいるかは分かりません」
「それでいい」
資景はそう言って、文を書き始めた。
———
初冬、資景は江戸へ上がった。
秀忠様への謁見は、いつもと変わらぬ静かなものだった。資景は上野・足尾・陸奥の一件について、簡潔に報告した。
「浪人による銀の不正な採掘があり、火薬の製造も確認いたしました。内々に処理し、火薬はすべて押収、首謀者以下は捕縛いたしました。陣屋への被害はございません」
秀忠様は、しばらく黙って報告を聞いていた。
「死人は」
「ございません」
「……そうか」
それだけだった。多くを語らない方だというのは、以前からよく分かっている。
「陸奥の方はどうなった」
資景は一瞬、言葉を選んだ。
「特に、これといった動きはございませんでした」
秀忠様は資景の顔をしばらく見ていた。何かを見透かすような、それでいて追及しない目だった。
「そうか」
もう一度、同じ言葉が返ってきた。
それ以上、何も聞かれなかった。
———
謁見を終えて下がる時、廊下で側近の一人に呼び止められた。
「那須殿」
「はい」
「上様が、一つだけ仰っていました」
側近は声を落とした。
「那須は、いつも静かに片付ける、と」
それだけ言って、側近は去っていった。
資景はしばらく、その場に立っていた。
父上のやり方と、同じだった。目立たず、痕跡を残さず、火種だけを消す。それが幕府から見て、どう映っているかを、初めて知った気がした。
———
烏山に戻ると、直之が稽古場で汗を流していた。
資景はしばらく、その様子を眺めた。以前より、太刀筋に迷いがなくなっている。
「直之」
「殿」
直之は稽古を止めて頭を下げた。
「江戸での話は片付いた。香取平三郎ほか首謀者は江戸で裁かれる。従っていただけの者たちは、放免するよう取り計らった」
「……そうですか」
「不服か」
「いえ」
直之は少し考えてから答えた。
「哀れな者たちだと、思っていました。放免と聞いて、安堵しました」
「斬った相手のことも、まだ考えているのか」
「はい」
「それでいい」
資景は静かに言った。
「忘れる必要はない。ただ、それを抱えたまま、次に進めばいい」
———
一馬と新九郎は、六之助のもとで報告を終えていた。
「よくやった」
六之助が言った。
「次は、もっと大きな仕事も任されるだろう」
「父上は」
一馬が聞いた。
「もう、こういう仕事から退くのですか」
六之助は少し笑った。
「まだ、そうは言っていない。だが、いつまでもというわけにはいかない。お前たちが動けるなら、俺は後ろに回る」
「引退ですか」
新九郎が聞いた。
「引退とは言っていない」
六之助はそう言って、また笑った。
「まだ、もう少しだけだ」
———
資景は書院で、江戸から戻った報告の写しを読み返していた。
陸奥の鍛冶職人たちのことは、どこにも書かれていない。彼らがどこへ行き、これからどう生きていくのかも、分からない。それでいいと思った。
那須が守れるものは、多くない。だが、目の前にあるものだけは、静かに守ることができる。
資景は文を閉じた。
窓の外、直之の稽古の音がまだ聞こえていた。木刀が空を切る音が、規則正しく続いている。
これで、一つの火種が消えた。
だが、那須の外には、まだいくつも火種がある。次に何が起きるかは、誰にも分からない。
それでも、と資景は思う。
今はまだ、対処できる者たちがいる。直之がいる。一馬と新九郎がいる。六之助がまだ後ろで見ている。
それで、十分だった。




