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『那須資晴、二度目の転生』  作者: 山田村


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第34話 木津川口、南蛮砲轟く



 翌日、主馬による作戦の披露が始まった。


「では、説明を。此度の木津川口への介入ですが、すでに勝敗の計算は済んでいます。名付けて『四段構えの陣立て』。南蛮船の圧倒的な性能差を合理的に押し付ければ、毛利水軍は必然的に沈黙します。実に簡単な作業です」


 まず第一に、外海から我がキャラック船とガレオン船を木津川口へ進入させる。毛利の安宅船や関船は接舷戦闘と火器の投擲を前提にした戦法しか知らない。大口径の艦砲射撃など、彼らの想定の外にある。密集した敵陣に対し、射程外から舷側砲の斉射を浴びせるだけだ。竹束や盾板など我らの大筒の前では紙も同然。見たこともない巨船からの砲撃に、毛利水軍の心理は恐慌に陥り、織田の包囲網は一瞬で瓦解する。


「次は?」と俺が聞くと、主馬が続けた。


 第二に、敵が混乱した隙に敵陣の只中へ船を進め、織田の九鬼嘉隆らを回収する。群がってくる敵船に対しては甲板の旋回砲から散弾を撃ち下ろす。巨大船と和船では乾舷の高さが絶望的に違う。敵の切り札である焙烙火矢は下から上へ投げようとも物理的に届かない。こちらは高所から一方的に甲板を掃射できる。文字通りの蹂躙だ。


「三段目は」


 指揮系統が麻痺したその時機に、南蛮船から綱を降ろし、毛利の旗艦——乃美宗勝や村上武吉の安宅船へ那須殿、赤井殿、玄妙の三名を直接降下させる。狭所での白兵戦においてあの三人の戦力は過剰なほどだ。砲撃で戦意を喪失した敵兵など障害にもならない。村上水軍は頭目の統率力に依存する組織ゆえ、首魁を排除すれば自動的に機能停止する。


「最後は」


 後処理だ。巨大な船体を盾として配置し、残存する織田の船を外海へ逃がす。毛利の武装では我らの船に傷一つつけられない。彼らにできるのは、我らが悠然と撤退するのを無力に眺めることだけだ。


 主馬が締めた。


「以上です。何か質問は?」


 しばしの沈黙の後、皆が納得したように頷いた。以前の山賊戦でのゲリラ作戦も見事だったが、短期決戦の今回の作戦も見事だ。


「質問がないようなので、注意事項を伝えます。現場では前回同様、適時に合図を出します。特に今回は短期決戦。合図通りに動けば、我が軍の損傷は軽微で収まります。木津川の河口は狭く、潮目や風向きによっては座礁、あるいは立ち往生の憂き目に遭うこともあります。ゆえに『川の奥深くまでは踏み込まず、河口の広き海にて毛利を誘い出し、大筒の餌食とする』——これが最も重要な点です」


 壱岐から対馬海峡、淡路島沖を経て大阪湾へ入ったのは、ちょうど十三日の夜のことだった。遠くの方が明るい。どうやら、すでに始まっているようだ。少し遅れたのかもしれないが、慎重に進んだ。


 状況は——圧倒的な機動力によって蹂躙される、火だるまの織田艦隊といったところだ。瀬戸内海の操船技術に長けた村上水軍が、小回りの利く小型船で織田軍の大船を包囲している。木造で燃えやすい織田の船が、逃げ場を失ったまま次々と焼き払われていた。


 遅ればせながら、ここから我らのターンとさせていただきます。


 主馬から攻撃準備の合図があった。小半刻にも満たぬ間に攻撃の合図が響く。それからは計画通りに主馬の合図が適時に出され、危なげなく第四の段まで終わった。織田軍は壊滅寸前だったが、毛利軍にも同等の被害を与えた。



【毛利水軍の生き残り】


 俺たちは少し離れて、遠巻きに焼かれる船を眺めていた。この船の頭が言う。


「あのような素人船乗りで、われらの策に抗えるわけがない」


 全くその通りで、自分もそう思う。俺は早く家に帰って嫁を抱きたいと、完璧な勝利に気が抜けていた。


 その時、俺たちの目の前を南蛮船がゆっくりと通り過ぎていく。そのでかさに視界が遮られ、薄明かりの中に旗が見えた。九鬼水軍の旗だ。俺は慌てて頭を見る。頭は手のひらをこちらへ向けて、無言で静まるよう合図した。物音を立てぬよう、身動き一つせずじっと見ていた。


 二隻の南蛮船が停止して、攻撃を知らせる音らしきものが響いた。しばらくして再び合図の後、「ズドォォォン」と等間隔でけたたましい音がし、続いて「ドガァァァンッ!! ――メキメキ、バリバリィッ!」という音がする。それが数回繰り返され、二隻の南蛮船はゆっくりと河口へ移動した。


 俺たちは恐怖で身動き一つとれなかった。傍らにいた頭を見て、二度驚愕した。弓で喉を射抜かれ、倒れていた。


 俺たちは、知られていて見逃してもらったという事実に、震えが止まらなかった。そのまま、南蛮船による蹂躙の続きを眺めているほかなかった。



【織田水軍の生き残り】


 俺の目の前で安宅船が小舟に囲まれ、火攻めにあっている。小型の伝馬船に乗る俺たちは、船乗りの多い船だ。こうなったら手が付けられない——経験豊富な俺たちは少し離れて状況を観察した。


 そんな中、破損した警護船が近づいてくる。中から殿(九鬼嘉隆)が飛び乗ってきた。


「殿、御無事で」


「戦にならなかった」


 一言だけ口にした、その瞬間。「ドガァァァンッ!! ――メキメキ、バリバリィッ!」という音がする。遅れて「ズドォォォン」と数回響いた。


「雷が落ちた!」


 俺は思わず叫んだ。殿が「物見をする。船を慎重に近づけろ」と命じると、船はゆっくりと動き出した。村上や毛利を避けながら進むと、河口に大きな船影が見える。あれはもしや——。


「徳隆の船じゃ! 間違いない。なんという天の差配か!」


 殿が叫んだ。その後も「ドゴォンッ!」という爆音が響くたびに、みるみる毛利水軍が目減りしていく。指揮官の船はいち早く離脱し、残りは南蛮船に触れると文字通り「すり潰す」ように沈んでいく。安宅船への火攻めの武器はとうに使い尽くして底をついているだろう。


 やがて南蛮船からの白兵戦が始まり、しばらくして戦闘音は止んだ。


「向かうぞ」


 殿の声で、明るくなってきた戦場へ向かった。毛利の無事な船を使い、味方を救助しているようだ。俺たちは南蛮船にゆっくりと近づく。


「父上、御無事で」


「おー、殿だ。御無事で」


 上から声がかかった。


「おー、皆も無事でなによりだ。しかし見ての通り大敗じゃ。だが、お主らの活躍で五分に持ち込んだ。感謝する」


――


 九鬼嘉隆殿を乗せて堺港に入港し、諸々の話を手短に済ませると、九鬼嘉隆殿は京にいる信長様へ報告に向かった。我らは喜八と甚内を中心に会合衆と慌ただしく荷物を搬入する。出迎えの松井友閑様にアラブ馬を引き渡し、我らの今回の冒険は幕を閉じた。


 久しぶりに日ノ本で一夜を過ごし、翌朝から松井友閑様や今井宗久殿たちと旅の話を披露して大いに盛り上がった。今回の最後の戦で大砲が破損したので、堺の職人なら国産も可能だろう。それと、ガレオン船を船大工の善吉に見せて図面を引いてもらおう。今は志摩の九鬼水軍の本拠地である鳥羽にいると聞いているから呼び寄せよう。きっと飛んでくるはずだ。


 夕方に京から那須軍が到着し、献上品から土産まで荷車に乗せ、翌日一緒に向かうことになった。


 京の屋敷に到着すると、信長様から明日来るようにとの報告を受けた。げんなりしながらも春たちの出迎えを受け、その日はゆっくりと過ごした。


 翌日、信長様に面会して報告する。


「また、船を購入したらしいな。それを献上品とせよ」


「ははー、それはよいのですが、あれは正規の船ではありません。破損船三隻を繋ぎ合わせた船で、破損の可能性もあります。今九鬼の船大工の善吉が頭になり、あの船を模造して新造船を作るのが安全かと思われます。それともう一つ、大砲の破損です。木津川口の戦いで亀裂が入り、次の戦いには使用できません。無防備ではとても危険です」


 長々と話し終えると、「あい分かった」と一言。傍らで控えていた九鬼殿が「そのような船だったのか。善吉は難儀していたな。現物を見れば作業が進むか」と言う。


「船大工が揃えば可能かと。ただし、百人の職人で二年以上はかかるかと思います。木材も三千本ほど必要と聞いています。それと錫を入れた青銅の大砲となれば、シャムから錫を買い付けなければなりません。最後は船員の訓練と育成です。和船とは勝手が違いますから、それは必須かと」


「殿、南蛮船は時間がかかります。火に強い船なら、安宅船に青銅板や鉄板を貼り付けて火除けとする方法が早く仕上がります」


 そう提案して反応を待つと、「然り、進めよ」との一言。そうして、その場は散会した。


 話は前後するが、俺が呼ばれる前日、信長様はこの大敗に激怒したと伝わっている。しかし嘉隆に対しては「次は勝て」と言わんばかりに、巨大な予算を投じて新型船の開発を続行させる流れが、すでに出来上がっていた。


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