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『那須資晴、二度目の転生』  作者: 山田村


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第33話 海底の黄金、木津川へ急げ




「爺、ここ数日同じ服を着ているから気持ち悪いんだけど」


「お嬢様、もう少しでバーレーンの港に着きます。そこまでご辛抱ください」


「でも爺、臭くない?」


 身だしなみを気にしている様子だ。俺たちは目的地のバーレーンが三日目でようやく見えてきた。喜八たちはこの地の名産である真珠の買い付けを予定している。俺はナツメヤシ(デーツ)の買い付けも頼んでおいた。


 港に着いて早速、補給と買い出しに向かった。お嬢様には護衛を数名付け、二手に分かれて帰路に必要な物と名産品を揃えていく。半日で準備が完了し、いよいよ目的地点を目指す。俺の予想する海域を広くサーチして、反応があった地点でサルベージするという計画だ。


 地図は必要ないが絵になるので地図を眺めながら精神を集中させるそぶりをとりつつ、一番近い地点で停止した。裸になってダイビングで潜り、海底に沈む船を目指す。比較的新しい船なのか、海藻や貝の付着もなく綺麗なままだ。中央に破壊された跡があり、そこから船体が割れて左右に分かれていて、中に入りやすい状態だった。サーチで反応のある方へ進み、中型の宝箱を発見した。


 急いで浮上し、声を上げた。


「あったぞー! 縄をくれ!」


 先端に投網の付いたロープが投げられ、こちらへ落ちてくる。それを掴んでもう一度海底へ勢いよく潜り、宝箱に網を掛けてロープを強く二回引くと、ゆっくりと引かれていく。沈没船から宝箱が抜け出たところでもう一度ロープを引くと、宝箱が勢いよく上昇した。それに掴まって俺も一緒に上がっていく。


 甲板にゆっくりと引き上げられ、皆の前で宝箱の開封となった。おっとりとしたお嬢様も、さすがに少し興奮している。喜八たちが箱の鍵を確認すると、ヒンジに鏨を当てて勢いよく叩き、三か所を壊してバールを差し込み、一気に開けた。中には海水が入り込んでいたが、金色の輝きが見える。麻袋も少し入っていた。


「真珠です。全て真珠のようですが、海水で光沢が鈍って表面が曇っていますね。他に金貨と書類が入っています」


 喜八が袋の中を確かめてそう告げると、おおっと歓声が上がった。アラビア語の書類を見ると、ペルシャ関係の書類のようだ。爺に羊皮紙を見せると、「これは我らとは別の船の物だ」と言う。別を当たることになったが、初回で手応えを得て、皆の士気が高まった。しかし日が傾いてきたので、本日の捜索はここまでとして翌日に再開することにした。



 翌日、朝から風が強く曇り空のため、捜索は中止となり翌々日に延期となった。


「本当に宝があるのね。なんか、私のお爺様の宝もある予感がする。こんなにわくわくしたのは、生まれて初めてよ」


 あまり話し上手ではないお嬢様が、少し興奮気味に明日の捜索への期待を口にした。



 三日目、晴天だ。早速、目的地へ向かう。数か所で反応があった地点の中で、ひときわ大きな反応のある場所の真上近くに船を移動させた。藻や貝に覆われ、木材が朽ちて原型をとどめない船が砂に埋もれている——そこに反応があった。


 一旦浮上して状況を説明し、対策を考えた。結論は人海戦術だ。布袋や網袋に詰めて引き上げる方法をとることにした。素潜りの得意な九鬼水軍衆から五名を選んで引き上げを開始する。水深二十メートル。初めは俺がポイントを指示し、あとは任せることにした。


 十分に時間をかけ、サーチで全て回収したと確認してから、最後の九鬼衆を船に上げてお宝の確認を始めた。


 大半は金塊と金貨、それに銀貨と宝石。真珠の袋は粉になって自然に還っていた。


「間違いない、この金貨は国が鋳造した金貨だ!」


 爺が叫んだ。どうやら当たりのようだ。爺とお嬢様は共に驚き、歓喜し、最後には泣いていた。俺はそんな二人の微笑ましい光景を眺めながら、進路をドバイ・クリークへ向けた。



 数日後、お嬢様に分け前を渡し、ロマンスのかけらもなく、マスカットへ戻ることになった。六之助がお嬢様に手を振って名残惜しそうにしていたが、そっとしておいた。



 マスカットに戻り、預けていた馬を回収してゴアを目指した。俺たちの船にはポルトガル旗と旭日旗、そして那須家と九鬼家の旗を掲げて港に入る。この旗を掲げた艦船は無敵だという噂が立っているようで、マラッカまでの航行中に船団への誘いが多く、むしろ迷惑していた。なぜなら、他の船がいると海賊退治ができないからだ。楽しみを減らされてはかなわん。


 順調にゴアからマラッカへ向かう。もう数日でマラッカという頃、海賊が現れた。しかも三隻だ。だが攻撃の意思はなく、こちらへ話しかけてきた。


「おめーら、話がある。攻撃しない。おめーらは有名だ。そんなバカなことしない」


 変な連中が来やがった。


「何だ。襲わないなら、こちらも攻撃はしない。要件は何だ」


「俺は船大工のパン・ラマット。おめーら、船を買わないか? 安くするぞ」


「ダウ船は買わない。外洋には出られないからな」


「違う、ポルトガルの船だ。俺たちが修繕した」


「修繕した? どういうことだ」


「見ればわかる。ついてこい」


 主馬に意見を聞いた。


「嘘つきではなさそうですね。キャラック船なら、停泊している場所は交易できる程度の港のはずです」


 それを聞いて俺は答えた。


「よし、ついて行く。案内してくれ」


「こっちだ」


 しばらく行くと小さな島が見え、島を回り込むと湾が現れた。小島が目隠しになった湾の奥に、こじんまりとした港と町が形成されていた。奥に細身のガレオン船が停泊している。俺は見た目だけで「ほう、立派に見える」と感心した。ミゲルや九鬼殿も興味深々だった。


 桟橋でガレオン船と並べて停泊し、パンに現地語と思われる古マレー語で話しかける。


「このガレオン船はどこで手に入れた?」


「壊れた三隻の船を拾って合成した。中を見てみろ、完璧だ。運航に必要な道具も付ける。海図もあるぞ」


「では案内してくれ。船に詳しい者、集まってくれ。見学だ」


 外観から甲板、船倉まで見て回り、感想を聞いた。


「原型に忠実に復元しているが、海に出てみないと分からん」


 ミゲルがそう言い、九鬼徳隆殿の意見も同じだった。


「パン、少し動かしてみていいか?」


「それは当然のこと、俺の実力を見てくれ」


 自信満々だった。了解を得たのでミゲルと九鬼殿に任せ、下船した。俺は喜八たちとパンとの値段交渉を始めた。パンは初め四十と言って引かなかったが、これが無いあれはどうしたと指摘しながら交渉を続けた。火薬はないが大砲は付いている。装備品への追加として旋回砲を買うことにした。火薬については、薬屋専門の喜八が硝石や火薬を大量に仕入れてある。


 しばらくして九鬼殿が戻ってきた。船員たちの評価をパンに伝える。


「外洋へ出ることはできるが、防水の処理が不十分で多少海水が漏れる。大砲は三本に亀裂があり、数回で壊れる。結論——日ノ本までなら問題ない」


 パンは大砲の件については「俺は大砲の素人だ。その分は値引きする」と答え、水漏れについては黙殺した。結論として金三十二キロで話がまとまった。互いに売買契約書に署名を交わし、目の前に金塊を積み上げると、「まさか金塊とは思わなかった」とパンが驚いたが、重さを確認して納得してくれた。


 帰り際、「これも持っていけ」と布地に包まれた何かを広げると、旗だった。


「これは我が部族の印だ。この海域でこの旗を付けていれば襲われない」


 ありがたくいただき、港を後にした。


 数日でマラッカに着き、船員の補充に時間をかけた。マラッカの魔女に魅入られた男も発見したし、ポルトガル人数名と現地マレー人数名、それに九鬼衆数名を加えてようやく人数が揃い、ぎりぎりの構成でマカオを目指すことになった。



 マカオに到着してさらに数名を補充し、天津から堺を目指す。約束の品を天津の周大人や趙弘毅に卸してから、堺へ向かう途中、平戸に補給のため立ち寄ると、毛利水軍が畿内へ動くという噂を聞いた。


 現在は七月初め。急げばぎりぎり間に合う。


「毛利水軍と村上水軍が木津川河口の石山本願寺へ支援に向かうらしい。おそらく織田軍は九鬼殿を中心に迎え撃つと思う。急げばぎりぎり間に合うが、行ってくれるか」


 九鬼殿に問いかけると、即答が返ってきた。


「もちろんです。今すぐ出航しましょう! 皆に伝えます!」


 慌ただしく動き始めた。俺はミゲルに堺近くで海戦があることを伝え、他の船員への周知を頼んだ。そして主馬と話し合いに入った。


「敵は村上水軍と毛利水軍に雑賀衆、総勢八百。対する織田水軍は九鬼嘉隆率いる安宅船を中心に三百、しかも素人船乗りが多い。我らはぎりぎり間に合うか、着いた時には勝敗が決しているかのどちらかだ。どう動くのが最も効果的か?」


 主馬は少し考えてから口を開いた。


「ぎりぎりとは面白い。数から見てダウ船がキャラック船に群がる構図、そして織田軍の船員は素人——結論は負けますね。織田水軍が潰される前に毛利の尻尾に噛みついてみましょうか。派手に大砲でかく乱しますか。それともいつもの様に舟に飛び乗り暴れますか? 敵の攻撃は焙烙火矢と焙烙玉、少々厄介ですが射程が短い。弾薬を織田水軍に向けて消費した頃合いが好機ですね。数日ありますから、今ある物で最良の作戦を考えます」


【お知らせ】


第34話「木津川口、南蛮砲轟く」は

近日公開予定です。

主馬による作戦説明を会話形式で

お届けします。お楽しみに!

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