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『那須資晴、二度目の転生』  作者: 山田村


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第30話 斬り拓け、海賊の島




 山賊の砦は、岩の切れ目が入口になっていた。かなり広い見張り台では、二人の見張りが雑談に興じている。一本の矢に魔力を込めて放つと、二人は同時に倒れ、見張りはあっけなく片付いた。


 洞窟かと思いきや天井はなく、中は岩に囲まれた広い空間が広がっていた。狭まった箇所に簡素な塀と門があり、ぱっと見、抜け道はなさそうだった。


 砦の死角から近づき、半開きの門の隙間から中を窺う。


「見張りはいない。塀にも人はいないな。砦の中に固まっているようだ」


 俺は仲間に地面で簡単な敵の配置図を描いて示し、それぞれの持ち場を指示した。


 静かに近づき、「ドン」という激しい音とともに中へ突入して、自分の持ち場の敵を次々と倒していく。激しくぶつかる音と奇声や悲鳴が外へ漏れ聞こえ、待機していた喜八たちは身を震わせながら戦闘が終わるのを待ち続けた。


 途中、二名の山賊が入口に向かって逃げ出してきたが、主馬の一太刀でそのままあの世へと旅立った。


「お前がここの頭か? 正直に答えれば、命は保証してやる」


 俺は生き残った男にそう言い放ち、服従の術を使って尋問した。


「ここにアラブ系の女がいるはずだが、どこへやった?」


「島の取引所に送った……。海賊どもが盗品を扱う場所だ。ここにはもう何もない、金だけだ。目当ての女なら向こうにいる」


「ここから近いのか?」


「下の海岸から船ですぐだ」


「よし、案内しろ」


「はい、分かりました」


 というわけで、海岸に停泊しているダウ船に乗り、島の取引所へと向かうことになった。


 出発前に金貨の袋を回収し、全員で墓穴を掘って死体を埋める。ルイスが祈りを捧げ始めると、突然、玄妙が「拙僧が倒した者は、拙僧が送りたい」と言い出した。


 結果、ルイスが祈る傍らで玄妙が読経する——なんとも歪な光景が出来上がった。


 その奇妙な弔いをしばし眺めてから、俺たちは次の目的地へと船を向けた。サマンダルの妻を救出するために——島の取引所へ。


 件の島を目指してダウ船に乗り込み、俺は案内役の山賊に命じた。


「スムーズに上陸できるよう手配しろ」


「かしこまりました」


 数刻後——。


 海賊たちの島、その取引所へと接近した。


「おい、これから上陸する」


 案内役の山賊が船上から声を張り上げる。


「なんだ、お前、昨日来たばかりじゃねえか? 追加か?」


 港にいた海賊が応じた。


「あーそうだ。ロープ受け取ってくれ」


 山賊がいつものように海賊と言葉を交わし、接舷する。


 ここにいる敵はおよそ五十名。そのうち何人かは、奴隷として売られるために捕らえられた者たちだろう。


 まずは港を押さえる。主馬たちに港を担当させ、我ら三人で海賊を討伐して人質を救出する。六之助には他に逃げ道がないか確認させた。


 玄妙が左、直勝は中央、俺は右から攻め込む。言葉は通じぬが、玄妙にはジェスチャーで左の人質救出と「女たちを守れ」と伝えておいた。


 まず直勝が中央を突破して派手に騒ぎを起こし、その合図で主馬と弥四郎が港を制圧する。俺は個室のある右手の敵を削っていく。


 玄妙が人質の前に立ちはだかる敵を倒し、堅固な守りに入った。直勝も中央から力押しで進み、早くも二十人は倒しただろうか。俺もひと息に速度を上げ、最後の一人が立てこもる個室の扉を蹴り破った。


 中には、いかにもといった入れ墨の悪人面の老人が、剣を構えて待ち受けていた。


「貴様ら——」


 俺が一閃すると、それが最期の言葉となり、老人はその場に崩れ落ちた。


 直勝と合流する。これで五十名ほどの海賊をすべて倒した。


 案内役の山賊を呼び出し、問い詰める。


「商品と金はどこにある?」


「奥の部屋が物置だ。人は左。金はこの個室で親分が管理していて、金庫の鍵は首から金の鎖でぶら下げているはずだ」


 それを聞き、俺は先ほど倒した老人の胸元から金のチェーンを取り出した。金庫を開けると、袋に入った金と銀がぎっしり詰まっている。確かめを済ませ、人質のいる方へ向かった。


 そこへ六之助が裏手から合流してきた。


「裏に逃げられる場所はありません」


「分かった。喜八とサマンダルを呼んできてくれ」


 六之助にそう伝え、俺は囚われていたアラブ系の女を見つけた。


「あなたは、サマンダルの奥さんですか?」


 俺が尋ねると、この世の終わりのような絶望に染まっていた顔がぱっとこちらを向いた。


「サマンダルは生きているんですか!?」


「ああ。もうすぐここに来る」


 そう告げると、彼女は泣き崩れ、そのままパタリと気絶して倒れてしまった。


 間もなくサマンダルが到着し、妻が倒れているのを見てひどく狼狽えていたが、「興奮して気絶しているだけだ。命に別条はない」と伝えると、ようやく落ち着いてくれた。


 他にも、地元の女性三人と子供一人が捕らわれていた。


「これからグジャラートに戻り、お前たちを解放する。何か問題はあるか?」


 俺が聞くと、代表らしき女が答えた。


「コーリ族に全てを奪われた私らはよいのですが、この子は両親を殺されて、一人では生きてゆけません」


「当面の生活費があれば、やっていけるんだな?」


 俺の言葉に、女たちは皆、静かに頷いた。


「その子は私が預かりますよ。私になついているし」


 代表らしき女がそう申し出てくれたので、その通りに手配することにした。


 そこへ喜八がやってきて、戦利品の報告をした。


「とてもしっかり管理されていて、帳簿らしき物もありました。サマンダルから聞いた香辛料もあるようです。香辛料の袋は親から受け継いだ大切な物らしいので、それは彼に返します。目ぼしい宝物はありませんが、商品の質は良いですね」


 倒した海賊たちを埋葬して弔い、引き上げの準備をした。案内役の山賊はここに残し、「この場所を管理しろ」と金のチェーンを渡す。そして俺たちは戦利品を持って港へと戻った。


 サマンダルは深く頭を下げた。


「妻を助けていただき、ありがとうございます。香辛料の袋まで返していただいて、感謝します。わずかな蓄えを元手に、また一から出直します」


 そう言って、彼は妻とともにその場を後にした。


 解放した女たちには金貨を渡し、「これで当面は暮らせるはずだ」と言って別れた。


 子供を引き取ってくれた女には「お前には少し多くしておいた」と言いながら、多めに金貨を渡す。彼女は満面の笑みで礼を言ってくれた。


 最後に子供の頭を撫でて「元気でな」と声を掛け、別れを告げた。


 俺たちが船へ向かう頃には、あらかじめ戻っていた六之助が船員を数人連れてきており、荷物の運搬を手伝ってもらいながら、無事に出航した。


 甲板で一息ついていると、主馬と六之助が近づいてきた。


「あの子、結局は売られるかもな」


「殿。私もそう思います」


 俺は耳を疑った。


「えっ、今、何と言った?」


 聞き返すと、主馬が真顔で答える。


「那須殿、あの女は悪ですぞ」


 さらに六之助が、呆れたようにため息をついた。


「殿、三人も女子を娶っておきながら、女心が分からないとは。だから妹のやよいから『殿のそばで、女に騙されておかしなのを連れてこないよう見張っていて』と念を押されたのですよ。これは春様もご承知のことです」


 ピシャリと言い切られてしまった。俺がぽかんとしていると、主馬が吹き出した。


「ははは! 無敵の御仁かと思いきや、こんな人間らしい一面があるとは。こりゃ愉快だ」


 すっかり主馬にからかわれてしまった。


 それから船は順調に進み、ホルムズへと到着した。


 喜八や甚内たちが慌ただしく動き始め、商材の手配に取り掛かる。二度目ともなると手際がよく、前回の半分ほどの時間で仕入れが完了した。あとは町を見て回り、異国の空気を楽しみながら過ごした。


 次の目的地マスカットでは大っぴらに酒を飲めない。そのためここホルムズの歓楽街へ、ポルトガルの船員が先導して馴染みの店に案内し、九鬼の水軍衆と一緒に繰り出していった。五体満足で帰ってきてくれればそれでいいと、俺は彼らを送り出した。


 翌朝、酒臭い者もいたが、そのままマスカットへ向けて出航した。


 前回のように海賊に襲われることもなく到着し、馬の手配をする。ここでは勘右衛門と主馬が大いに活躍してくれた。馬に精通した二人の目利きが的確で、思い通りの良馬を手に入れることができた。


 勘右衛門と主馬は俺に借金をしてまで自分用の馬を購入し、人が変わったように馬を愛でていた。普段は冷静な二人の、思わぬ一面を垣間見た。


 ここでまた、ちょっとしたことが起きた。


 ポルトガルの砦で兵たちが慌ただしく動き始めているのだ。ミゲルの話では、ウンム・アル=カイワイン周辺で山賊と地元住民の紛争があり、支援要請が来ているとのことだった。およそ三日前の出来事らしい。


 数隻のポルトガル船とやり取りを済ませてきたミゲルが、俺の顔を見てニヤリと笑った。


「行くんだろ、山賊退治」


「まさか、勝手に引き受けてきたのか?」


「いや、『船主に確認してからだ』と答えておいた。ただよ、副官から『海賊退治の専門家にはぜひ参加を願いたい』と言われたぞ」


「ここで恩を売って実績を作っておけば、今後さらに優遇されるぞ」


 そう後押しされた。日数はかかるが、ポルトガルとの得難い信頼を積み上げられると思い、俺たちも現場へ向かうことにした。


 数日後、ウンム・アル=カイワインの沖合で小舟に乗り換え、現場の村に到着する。


 そこは、真珠を採って収入源にしている小さな漁村だった。


 今回の討伐隊の団長が、村長から状況を聞き出している。「村に山賊が襲ってきて、財産と女性を奪って逃げた」とのことだ。実に分かりやすい、よくある話だ。


「具体的には、どこへ逃げたのか?」


 俺が横から尋ねると、団長は首を振って話を打ち切った。


「山賊はすでに逃げた。しばらくは襲われまい。危険は回避されたと見ていいだろう。我らはいつまでもここに留まるわけにはいかない——撤退だ」


 恐らくポルトガル軍としては、要請を受けて現場に駆けつけたという実績さえ残せればいいのだろう。


「同感だな。ただ俺たちは俺たちで、村長に直接話を聞いてみよう」


 そう仲間たちに告げ、俺たちは村の中へと入っていった。


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