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『那須資晴、二度目の転生』  作者: 山田村


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第29話 南海、斬って捨てる




 あれから数日後、俺達は堺の港に停泊している三太丸の甲板にいた。最終の確認が済み、これからいよいよ出航だ。

 見送りには、今井宗久殿と松井友閑殿、それに堺の会合衆の面々が来てくれている。九鬼家の船大工である善吉は、今回はお見送り役だ。

 これから我らは、概ね四つの行程で進むことになる。途中、天津や他にも寄り道はするが、大まかな流れは以下の通りだ。


一、堺から長崎 → マカオ(天津からマカオ)

二、マカオ → マラッカ(マレー半島)

三、マラッカ → ゴア

四、ゴア → ホルムズ(グジャラートで香辛料を買う)


 前回と同じルートだが、乗組員が皆国内の者なので、どこか緊張した空気が漂っていた。九鬼水軍のメンバーは選りすぐりの者が集まった。ほとんどが希望者だというが、外洋と南蛮船の魅力には抗えぬのだろう。自分に置き換えても、きっとその選択をしたはずだ。


 外洋に出てからは、初めに天津を目指す。

 九鬼殿は天津までは何度か運航した経験があるので、明の海域近くで周大人から渡された旗を掲げて入港する。そこで雪瑤の文や、こちらの仕入れたい物、周大人や趙弘毅の欲しい物リストを受け取って、マカオで売れる商品を仕入れてからマカオへ向かった。今回はアブド総合商社の一割引証書を使い、ゴア、コーチン、グジャラート、マラッカのいずれかで買い物ができるか試すつもりだ。


 マカオには無事に到着した。船乗りでない者たちもだいぶ慣れ、陸と変わらず普通に動けるようになって一安心だ。

 ここで、商人たちが商いをする。前回知り合った現地の商人を相手に、言葉の達者な喜八達が中心となって活動開始だ。現金のやり取りというより物々交換になるが、必要な物資を有利に交換していく。主に明の物や、堺で仕入れた品が中心になる。

 補給が完了すると、すぐに出航してマラッカを目指した。前回の航海で海賊の実態が分かったので、今回はより狙われやすくするため、あえて一隻で航行している。いらっしゃい、海賊、といった気分だ。


 ここまで危険な障害は無かった。俺の心の中では、安堵と「つまらない」という感情が同居していた。

 皆はここまでの航海で、初めて目にする景色と口にする食べ物、熱帯の気温と湿度、見たことのない動物と現地の人々に触れ、まるで好奇心に満ちた子供の頃に戻ったかのようだった。


 さすがにマラッカの「海賊銀座」を通る一隻のキャラック船を見逃す海賊はなく、餌に群がる魚のように集まってきた。十三隻の船が高速で近づき包囲し、下手なポルトガル語で叫んでくる。

「降伏しろ。抵抗するな。歯向かえば殺す」の三点だ。


 俺と直勝は二手に分かれて敵船に乗り込み、海賊掃討に打って出た。

 作戦とは名ばかりで、乗り込んで片っ端から暴れ、武を見せつけるだけだ。手はず通り、先に直勝が船に乗り込んで騒ぎを起こし、その最中に俺は反対側の海賊を弓で射抜いていく。

 数刻で海賊たちは矢に倒れた。安全を確かめるべく船に乗り込み、反抗的な者が残っていないか確認する。俺が見終わる頃、直勝から「全員、かたづけたぞー」と声が掛かり、海賊退治は完了した。


 喜八から「船は売れるから、けん引する」と声がかかる。「船が残ると海賊が減らんぞ」と言うと、「漁船にもなるし、水や食糧と交換できる」と返されたので従うことにした。

 そんな一幕を数回こなして、俺たちはマラッカに到着した。


 俺達の武を間近で見た九鬼水軍は驚愕していたが、秋津主馬と玄妙はさらに驚いていた。主馬は考え込み、玄妙は「次は拙僧も参加したい」と申し出た。

「一騎当千が二人か! 戦いが変わるな!」と主馬が独り言をつぶやくと、「殿はこんなものじゃないですよ」と勘右衛門が囁き、彼はギョッとしていた。

 マラッカで補給をした後、さらに数か所で物資を調達しながら、海賊の襲撃にも遭わず無事にゴアへと到着した。ここからは薬屋の喜八と甚内が中心になって商いをする。我らは用心棒兼、観光といったところだ。

 彼らはたった一日で積荷を全て売り払い、金に替えてみせた。特に日本から持ってきた刀が高値で取引されたらしく、喜八が「自分の見立ては確かだった」と自慢げに喜んでいた。この辺りの剣とは異なり、珍しい代物であることは確かだ。


 仕事が終わり、ホルムズへ向かう準備を整えて船に戻ると、久しぶりに会う友がそこにいた。船長代理を務めていたミゲル・シルヴァ・サントスだ。落ち着きがあり、真面目な性分は相変わらずのようだ。

「サンタ・ヴィトリア号を見かけて、もしやと思い立ち寄ったんだ」

 そう声を掛けてきたミゲルは、面識のある喜八や甚内たちと挨拶を交わしている。しかし、どこか表情に暗いところがあった。

「何か、あったのか?」

 尋ねてみると、彼は少し口籠もった。

「船主とちょっとあってな。今は仕事を探しているんだ」

 事情を察して九鬼殿たちの方へ視線を向けると、九鬼徳隆殿が深く頷いた。

「ミゲルは信頼できる船乗りで頼りになる。是非迎えたい」

 そう太鼓判を押すので、俺はミゲルに向き直った。

「うちの船に乗るか? 条件が一つあるが、どうだ?」

「それは有り難い。那須殿がいれば航海は安全だからな。それで、条件とは?」

「ミゲルの仲間を、二人くらい連れてこれるか?」

「ははっ、それは簡単だ。船主と喧嘩して、俺を含めて四人辞めたからな。今は酒場に居ると思う」


 そういうわけで、新たに四人の船乗りを補充することになった。徳隆殿と長兵衛殿の負担が減ることで、二人にも余裕が生まれるだろう。

 懐かしの四名を迎え、我らはホルムズへ向けて出航した。ホルムズではアラブ関連の品を大量に仕入れる予定だ。そしてマスカットで馬を調達し、帰国する手筈である。


 途中、香辛料が安いグジャラートに寄る。前回、喜八が悔やんだ「安く香辛料を買ってゴアで売る」という野望を、今回は果たせそうだ。

 例のアブド総合商社の一割引証書を、ここで試しに使ってみることにした。

 大通りに看板があるわけでもなく、地元の者にアブド総合商会について聞くと、「この先十軒ほどかと」と曖昧な返事が来た。小銭で礼をして、アラブ風の店に入り「アブドの店か?」と尋ねたら頷いたので、割引証書を見せて通用するか確かめてみた。

 すると店員は「本当に来た」と驚いていた。

「どう知らされたかは知らないが、この店のスパイスを全部一割引きで購入する」

 そう言うと店員が慌てだした。

 無事に買付が済んで、「帰りも寄るから大量に用意してくれ」と言い残し、補給も済ませて船へ向かった。


 港が近くなって、泣き声が聞こえてきた。我ら一行が近づくと、縋り付くように訴えてくる。

「どうかお助けください。どうか」

 泣き叫んでいるのは、ずぶ濡れのアラブ系の男だった。

 喜八が「どうかしましたか?」とポルトガル語で話しかけるが、「どうかお助けください。どうか」と繰り返すばかりだ。俺はペルシャ語で「どうした?」と聞いてみた。

「妻が攫われたのです」

「何処で」

「ここから町外れの街道で、馬車ごと奪われました」

「山賊か。……面白そうだが、皆はどう思う」

 俺が振り返ると、喜八が「どうせいつもの様に退治するんでしょう」と言う。

「あー、そーだな。俺はお宝の目利きが出来ない。安全は確保するから付いてきてくれ」

 そう喜八と話してから、男に向き直った。

「どんな山賊だ。人数とおおよその場所を教えてくれ」

 俺が山賊について問うと、男は少し落ち着きを取り戻した。

「私はペルシャ商人のサマンダルです。山賊はコーリ族系の部族です。町を見下ろす峠に現れる少数部族で、砦には二十人以上は居ると思います」

 と冷静に語ってくれた。

「妻が心配だろう。案内してくれ」

 と言って、俺、直勝、主馬、玄妙、六之助、弥四郎、それに喜八とルイスが向かうことになった。

「あなた方だけですか? 他の方々は来ないのですか?」

 サマンダルが不安げに聞く。

「二人だけでも十分だが、あとの者は後ろの商人と修道士の護衛、そしてお前の護衛だ」

 と言ったら、「私の護衛! それでも……本当に大丈夫ですか」とさらに慌てた。

「心配するな、後で分かる」

 そう言って、俺たちは砦へ向かった。


「この方向です」

 サマンダルが指をさした。五十人ほどの気配だ。

「玄妙、踏み込むから手を貸してくれ。主馬は門で逃げる奴を頼む。六之助は裏を探してくれ、弥四郎は二人(喜八とルイス)を頼む」

「殿、私も中へ」

 そう言う弥四郎を、「この程度なら主馬の智も要らぬ。力押しで数刻で終わる。もし逃げ出す者が多かったら入口を頼む」と宥め、見えぬ砦をにらんだ。


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