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『那須資晴、二度目の転生』  作者: 山田村


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第13話 飯炊き女




 兵長が報告にやってきた。

「奴らはここから北に拠点を構えているようです。捕らえた者の自供によれば、守りは十五名。賊はモンゴルと朝鮮の連合で、モンゴル人が主体だとのことです。内部には戦利品や人質もいるらしく、救出を優先したいのですが、我らの任務はあくまで物資の運搬……。今日中に町へ到着し、町の兵に応援を要請するつもりです。そこで、武芸に秀でた那須殿に、拠点の攻略をお願いできないでしょうか」

「十五名程度なら造作もありません。任せてください。ただし、戦利品の運搬用馬車と人員だけは手配をお願いしますよ」

 俺がそう返すと、兵長は安堵したように頷いた。

「もう一人の賊はどうなりました?」と尋ねると、兵長は「……口が堅かったので、死にました」と短く答えた。


 顔の腫れ上がった賊を案内人として、北へと進む。奴は間違いなく正しい道を案内しているようだ。俺の感知能力が、そちらの方角から反応を捉えていた。

 拠点が近づいたところで足を止め、賊の男に術を掛けた。喉を封じ、一切の声を出せなくする術だ。本人はまだ自覚がないだろうが、後で思い知ることになる。


 アジトが見える場所まで進み、ここからは単独行動に移る。

 一番手薄な箇所から侵入し、死角にいる賊を音もなく始末していく。一人、また一人。外にいた連中を全滅させ、内部へと潜り込んだ。

 比較的大きな部屋で、五名の賊が雑談に興じていた。寝床と思われる仕切られた空間には誰もいない。この狭いアジトにこれだけの人数がどう雑魚寝しているのかは知らぬが、今は静かなものだ。

 奥の部屋の右側に、数名の反応がある。おそらく人質だろう。二階にも数名、横になっている気配があった。


 まずは二階へ向かう。最初の部屋では賊が女と寝ていた。次は一人で就寝中。その隣には左手に包帯を巻いた負傷兵が眠っている。残りは空き部屋だった。

 負傷者と寝ていた男を速やかに始末し、下へと戻る。

 ここで地下室の存在に気づいた。五人の賊がいる部屋から地下へ繋がっているらしい。俺は座っている五人へ、まとめて即死の術を放った。抵抗する暇もなく、五人は一斉にことんと倒れ伏した。


 地下への階段を降り、扉を開ける。そこには一人の男が牢の前で座り込み、うたた寝をしていた。牢の中は奪った宝の山となっており、男はその番人だったようだ。

 近づいてみると、即死の術がここまで届いたらしく、男はすでに息絶えていた。牢の中に人質がいなかったことに安堵する。


 人質の生存を確認した。子供一名に女が二名。固まって震えていた。

 賊の証言が正しければ、これで上の連中を含めて十五名。念のため二階に上がり、唯一生かしておいた男を小突いた。

「おい、起きろ。襲撃だぞ」

「うるせえ……女と寝てるときに起こすなと言っただろうが!」

 男は怒鳴り散らしたが、俺が再度小突くと、ようやく目を見開いた。そのまま顎を叩いて卒倒させる。

 横にいた女は、俺をじっと見つめていた。

「女、お前も仲間か?」

 俺が問うと、彼女は拙い北方官話で答えた。

「わたし、仲間ちがう。仕事でここに来た」

 途中から朝鮮語が混じったので、俺も朝鮮語で返した。

「仕事だと? 飯炊きか、それとも売春婦か?」

「違うよ。ご飯や洗濯、掃除。あとは寝床……これは毎日じゃないけどね」

 女は力なく笑った。

「女。それはこの山賊の仲間と変わらん。今から楽にしてやる。首を差し出せ」

 俺が刀を振り上げると、彼女は恐怖のあまり気絶した。念のため、二人とも拘束しておく。


 男を目覚めさせ、尋問を始めた。

「この女は仲間か?」

 芋虫のように縛り上げられた男は、虚勢を張った。

「貴様、俺にこんな真似をして生きて出られると思っているのか!」

「お前以外、仲間はこの世に一人も残っていないぞ」

 俺が冷淡に告げると、男はさらに声を荒らげた。

「何も分かってねえな! もうじき仲間たちが帰ってくる。そうなれば貴様は終わりだ。今のうちに縄を解けば、命だけは助けてやるぞ」

「ああ、仲間のことか。三百ちょっといた賊なら、一人を除いて全員討伐されたぞ。残った一人が、お前たちの拠点を自白して案内してくれたんだ」

 その言葉を聞いた途端、男の態度が一変した。

「嘘だ……あり得ない……ハッタリだろ……」

 焦燥が男の顔を支配していく。

「俺が聞きたいのは、この女が仲間かどうかだ。答えろ」

「あ……ああ、あの女か。仲間じゃねえが、身内みたいなもんだ」


 そこへ、下から仙千代の声が響いた。

「終わりましたか?」

「ああ、大体な。今、最後の一人を尋問中だ。奥に人質がいるから、保護を頼む」

 俺が日本語で応じると、男はさらに混乱したようだった。

「下の女たちは何だ?」

「金になるから生かしてある。昨日捕まえたばかりだ」

 男がそう答えたところで、再び意識を奪った。


「いました! 子供一人と、女性が二人。ただ、言葉が通じません!」

 仙千代が叫ぶ。俺は下へ降り、二階で縛り上げた男女を連れてくるよう命じてから、人質たちの元へ向かった。

「ここの賊はすべて討伐した。明日、兵が来るまでここで待機だ。いいな」

 年長の女に伝えると、彼女は震えながら聞き返した。

「分かりました……。私共は、本当に助かったのですか?」

「兵長が約束した。間違いないだろう。明日は馬車が来るはずだ」

 彼女はようやく安心したようで、ふと思い出したように言った。

「私共が乗ってきた馬車もあったのですが……」

「後で確認しよう。それと、上にいた女は何者だ?」

「あの人は身の回りの世話をしてくれる人で、私達には優しくしてくれました」

 なるほど、処分は保留だな。

「今夜は安心して休め。言葉は通じないが、こいつがお前たちを守る」

 仙千代を指さし、俺は拘束した男たちの前へ戻った。案内人の賊は、自分の声が出ないことにひどく狼狽していた。術を解いてやると、奴は驚いて声を上げた。

「な、なんで……声が出た!」

「おい、大人しくしろ」

 俺は有無を言わさず、再び奴を気絶させた。


 二階の女の拘束を解き、目覚めさせる。

「起きたか」

「死んでない……? 旦那、勘弁してよ」

「お前の処分は明日、役人が来てから決まる。それまで逃げるな。逃げようとすれば……分かっているな」

 俺が、死者を弔っているルイスの方を指さすと、女は何度も首を縦に振った。

「お前、飯は作れるか?」

「当たり前ですよ! 私は飯炊きとして連れてこられたんですから」

 女は意外にも元気よく声を張り上げた。

「では、人数分用意しろ」

「はいよ!」

 女は妙に高いテンションで調理場へと向かった。

 しばらくすると、食欲をそそる良い香りが漂ってきた。山賊の屋敷で出来立ての食事にありつけるとは思っていなかったが、女のおかげで有り難い夕餉となった。

 酒も大量に保管されていたようで、女は上等な酒を持ち出してきて俺に勧めたが、俺はそれを酒好きの部下たちに与え、束の間の休息を取らせることにした。

 女は、言葉の通じない部下たちの前で一人酒を煽り、「こんな上等な酒、滅多に飲めないのに……勿体ない!」と独り言を漏らしていた。歌い、踊り、やかましく騒ぐ彼女を、俺たちは黙って無視していた。


 夜が明けた。部下たちと周辺の見回りに出ると、厩舎の奥に馬車と五頭ほどの馬を見つけた。馬たちは喉が渇いているようだったので、部下が世話を焼いてやる。

 人質の女が言っていた馬車も見つかった。俺は彼女のところへ行き、

「お前の言っていた馬車があったぞ。後で確認してくれ。それとお前たちの荷物だが、役人の立ち会いのもとで確認してからの返還になる。承知しておけ」

 そう伝えた。


 遠くから馬車の音が響いてくる。仙千代は一晩中、真面目に警護を務めていたようだ。

 ようやく役人が到着した。立てておいた目印の布が役に立ったらしい。

 人質たちの事情聴取が行われ、荷物の引き渡しと馬車の返還が始まった。馬が二頭ほど別の個体にすり替わっていたが、山賊の襲撃時に逃げ出したのだろう。人質の女たちは、賢い馬だったと残念がっていたが、最後には諦めたようだ。


 飯炊き女は無罪放免となった。

 俺たちは戦利品と山賊を馬車の荷台に乗せ、役人の待つ町へと向けて出発した。


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