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『那須資晴、二度目の転生』  作者: 山田村


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第12話 天津の顔役




 通訳のクァンに「大人ターレンを紹介しろ」と命じると、彼は困ったように首を振った。

シュウ大人のことは知っているが、俺のような端くれでは側に寄ることすら叶わない。だが、側近の末端にいる許となら話ができる」

「そいつは、俺が先ほど始末した連中と同格か?」

「……ああ、そうだ」

「チンピラか。いいだろう、そいつの所へ案内しろ」


 案内された男を前に、俺は単刀直入に切り出した。

「関の雇い主と、その子分どもを俺が倒した。そこで相談だ。俺はこの国の者ではないし、旅の途中でたまたま追いはぎに遭って反撃しただけだ。だから、あの縄張りは俺には不要だ。俺は周大人に会いたい。あんたの親分に紹介してくれたら、あの縄張りをそっくり渡そう」

 男は少し考え込み、こう答えた。

「いくら俺でも、手ぶらで親分には会えない。……そうだ、お前は強いんだろ? 実は『シー』の兄貴の縄張りで、港の新興チンピラによる被害が出ている。奴らはアジトを持たない流しの連中で、居所が掴めない。どうだ、解決できるか?」

「ネズミの駆除程度なら簡単だ。条件が一つある。その地区の土地勘がある者を一人付けてくれ」

「分かった」

 許はすぐに手下を一人寄越した。


 手下の案内で現地に着いた頃には、もう夕刻だった。腹ごしらえをしながら、港の屋台で情報の最終確認を行う。敵は二十名ほどで、住民が暮らす一角を根城にしているらしい。そして何より、奴らはひどく「臭う」とのことだった。他人の食い物を盗む、まさにドブネズミのような連中だ。

 その夜、港で張り込みを続けていると、怪しく動く集団を発見した。五人組が倉庫を物色している。強盗の真っ最中だ。俺は部下たちに待機を命じ、音もなく近づいて一瞬で全員を制圧した。


 捕らえた一人を尋問すると、意外な事実が判明した。運河の下水道に、かつての富豪が逃走用に作った秘密の部屋があり、そこに潜伏しているという。

 俺は盗賊と案内人を連れ、その場所へと向かった。鼻を突くような悪臭が立ち込める中、隠し部屋の前で足を止める。

「制圧してくる。生かすか殺すか、どうする?」

カシラだけ残して、後は全員やってくれ」

 返事を聞くや否や、俺は扉を蹴り開けた。素早く移動しながら魔法を放ち、全員を麻痺させる。宣言通り、一人を除いてすべて処分した。

 生き残った男を拘束し、案内人に「許に連絡しろ」と告げて走らせた。


 数時間後、鼻をつまみながら許たちが到着した。尋問の結果を伝えると、許は顔をしかめた。

「石を快く思わない『ソウ』という男の指示で動いていたようだ。盗品はあそこだ」

 俺が指し示した先には、大量の荷が積まれていた。許は満足げに頷き、手下に盗品の回収と死体処理を命じた。

「明日の午後にまた来てくれ。紹介の件を進めておこう」

 そう言って、許たちは盗賊を連行して去っていった。


 拠点に戻った俺は、まずは体を清めた。

 明日の準備をしようと思っていると、許の手下がやってきた。「明朝、迎えに行くので準備を」とのことだ。

 俺は関を連れて服屋へ向かった。アジトには着替えもあったが、チンピラ風の服ばかりで、思わず「わっ、これは無理だ!」と叫んでしまったからだ。魔法を使えば洗濯も一瞬で済むが、人前では不自然なので、一人の時以外は控えている。


 翌日、迎えの馬車で石の屋敷へと向かった。それなりの豪邸だ。

 紹介された石氏は、なかなかの人物に見えた。

「私は日ノ本の都から来た那須資晴と申す。入国の目的は、明の産業や軍事の視察だ。今後のため、天津の大人との交流を深めたいと考えている」

 こちらの事情を立て板に水で説明し、反応を待つ。

「それは良い心がけですな。ネズミの駆除をしてくれたことも聞いております。早速会えるよう取り計らいましょう」

 石氏はニコニコと機嫌が良い。ライバルを蹴落とすネタが手に入り、失った金品まで戻ってきたのだから当然だろう。三日後にある定例会合の後に、面会をセッティングしてくれることになった。


 観光をして三日を過ごし、ついに周大人との面会が叶った。

 俺は「小物の彼」を軽く洗脳し、北京へ向かう手はずを整えさせた。馬車に揺られて北京に到着すると、周大人の友人が軍部にいるとのことで、早速内部を見学させてもらう。

 結果から言えば、軍は腐っていた。大きな戦争がないせいか、武具は手入れもされず錆びつき、武官たちの姿もたるみきっている。ある意味で非常に参考になった。

 武官が自慢げに披露した馬上からの弓の実演には丁寧にお礼を言い、土産として砂金の袋を渡した。中を確かめた途端、武官は手のひらを返して「また来いよー!」と愛想よく声をかけてきた。現金な奴らだ。


 次は焼き物だ。俺自身はあまり興味がないのだが、日ノ本にはまだ磁器の技がなく、輸入に頼るしかない。

 周大人に相談したところ、「若いが腕の良い職人がいる」と紹介され、見学に向かった。「マー」という職人の作品を前に、俺が「美しいのは分かるが……」と首を傾げていると、後ろで仙千代が目を輝かせていた。

「これは良い品ですね……!」まるで鑑定士のような台詞を吐き、「殿が見たら、きっと欲しがりますよ」と続けた。

 それなら話は早い。

「馬さん、うちの家に来て仕事しないか?」

「嫁を見つけてくれ、それと銭が良ければいつでも行くよ」

 今の稼ぎを聞くと、日ノ本の年収と大差なかった。俺は倍の報酬を提示し、さらに弟子が一人前になったら翌年から三倍にすると約束した。

 馬は「即決だ! 今から荷物をまとめる」と言って奥へ引っ込み、手荷物だけを持って戻ってきた。彼の作品をすべて買い取り、箱詰めして周大人に発送を依頼した。


「日ノ本では質の良い石炭がまだ採れない。繋ぎとして、数量限定で売ってくれないだろうか?」

 周大人へのこの提案も、「簡単なことです」と快諾された。これで原料の確保も目処が立った。

 あっという間に目的を達成し、あとは帰るだけだ。

 そんな中、馬がぼやいた。

「あのさ、石炭なんだがよ。最近、近くに賊が出て運搬が襲われるんだ。軍も警護しているが、手が回らなくて数が手に入らんのだよ」

「馬よ、安心しろ。俺が退治してやる」

「けっ、冗談はやめてくれ。腹が痛いぜ」

 馬は腹を抱えて笑っていた。


 翌日、周大人が情報を仕入れてきた。

「那須殿、本気なのですか?」

「本気です」

「……分かりました。軍から二十名の兵が石炭運搬の護衛に出ます。それに同行する形であれば認めましょう」

「こちらは問題ありません。非武装の者が一名いますが、よろしいか?」

 俺が言うと、周大人は笑った。「ああ、ルイスさんは良い人ですが、大丈夫ですか?」

 ルイス本人は「この目で見て記憶に留めたい」と一点張りだった。周大人と馬、関の三人は「足手まといになりたくないので、こちらで待機します」と当然の選択をした。


 翌日、炭鉱へ向けて出立した。軍人と商人を含む一行は、傍目には大きな商隊に見えるだろう。

 俺は軍から弓を、全員には盾を貸与して装備を整えさせた。行きは数日かけて、獣を狩ったりしながらのどかに進み、炭鉱に到着した。

 石炭を積み込み、帰路につく。商人は残し、軍と俺たちだけだ。今回は軍が運搬を管理しているため、半数の兵が荷の扱いに従事している。


 行きの道中で「怪しい」と睨んでいた場所に差し掛かった時、かなりの人数が潜伏している気配を感じた。俺は兵長に待ち伏せの可能性を伝え、戦いやすい広場での待機を提案した。

「俺が出る。矢には注意しておけ」

 そう言い残すと、俺は一番近い弓部隊を目指して走り出した。

 魔法の麻痺を使い、目標を確実に無力化していく。小山に控えていた約五十名の弓隊をあっという間に潰した。悲鳴で異変に気づいた敵兵たちがこちらを向くが、俺はその隙を与えず、貸与された弓で五十本の矢を続けざまに射ち尽くした。


 突撃してくる兵たちの中へ飛び込み、次々と斬り伏せていく。再び麻痺を使い、目の前の百名を無力化。本体がようやく俺の異常さに気づき、一斉に動き出した。

 だが、すでに遅い。次々と倒され、残りが五十を切ったあたりで敵は反転して逃げ出した。逃がさぬよう広範囲に麻痺を発動させて動きを止め、一人一人に止めを刺していく。最後に残った二名だけは、尋問のために拘束した。


 兵長の元へ戻り、結果を報告した。

 数名の兵が現場を検分しに行ったが、戻ってきた彼らは顔を真っ青にしていた。俺を化け物でも見るような目で見ている。いつもの反応にうんざりしながらも、俺は対応を続けた。

「戦利品はどうする?」

 そう聞かれたが、賊の剣はどれもなまくらだし、弓も軍製の方が質が良い。欲しいのは予備の矢くらいだ。

「使える矢だけください」

 そう伝えると、兵たちは総出で戦利品の回収に当たった。

「……こいつら、モンゴルや朝鮮の混成部隊だな」

 回収作業中、そんな声が聞こえてきた。


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