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『那須資晴、二度目の転生』  作者: 山田村


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第11話 明へ散歩に




 山賊退治の続報が奉行所から届いた。

「捕らえた一党は細川家に関連している疑いが濃厚です。もし手配中の関係者であればちょっとした騒ぎになりますぞ」

 奉行所の役人がそう告げると、賊の首領格は「儂は細川家とは無関係だ」と突っぱねたらしい。だが、所持していた短刀や書付は細川家ゆかりの者の物で間違いなかった。

「かつての権力者も、今やお尋ね者か。食い詰めて山賊にまで成り下がるとはな」

 俺が吐き捨てると、役人は「いずれ将軍家から細川家の者が派遣されれば、すべて明らかになるでしょう」と報告を締めくくった。


 年が明け、山賊の砦から救い出した子供と女たちは、今では鷹司邸で働いている。

 寺の宿舎が手狭になってきたため、少し離れた場所にある城跡を次の住まいにしようと考えていた。城と言っても、水のない浅い堀があるだけの平地の跡だ。織田家からはすでに許可を得ているので、縄張りを行い、簡単な小屋を建てる予定だ。地理的には、今よりも若干京都に近い。


 その頃、織田信長公は将軍・足利義昭に対して「十七箇条の異見書」を突きつけていた。両者の仲は険悪を極め、その重苦しい空気は京の町中にも広がっている。

 俺たちは京都奉行所の下請けのような立場で、寺と城跡、そして大和屋を含む東方面の治安維持を担うことになった。三月に入る頃には京都の政務再編が進み、信長公によって京都奉行の権限はさらに強化されていった。

 城跡の砦兼住居が完成すると、俺たちの組織も再編された。畿内の下級武士や地方の浪人も入隊し、二つの拠点は七割ほどが埋まった。この調子なら、すぐに満杯になるだろう。

 縁に恵まれた者は京に家を借り、そこに世帯を持たせている。身元が確かな者を近くに置くのは、治安維持の上でも有効な手立てだった。


 そんな中、国元の父から文が届いた。

「佐竹氏と和睦した。娘を佐竹徳寿丸と婚約させ、領地の一部を割譲する」

 という内容だ。長年の争いに終止符が打たれたことで、少しは落ち着けるだろう。国境の監視も緩くなるはずだ。それにしても、佐竹徳寿丸といえばまだ赤子ではなかったか。割譲したのは、おそらく山を越えた先の土地だろう。


 鷹司邸にいた女子供を寺へ移した後は、少し静かになるかと思っていたが、入れ替わりで鷹司のご子息夫婦が戻ってきた。

 今度は、彼らの子供が元気いっぱいに家の中を走り回っている。親が注意する声も加わって、以前より賑やかなくらいだ。幼児というものは、こちらが別棟にいようとお構いなしに突撃してくる。

「うるさくしてしまい、申し訳ございません」

 恐縮する夫婦に、俺は首を振った。

「元気があるのは良いことではありませんか。ただ、我ら武士は血生臭い場に身を置くこともあります。刺激の強い現場を幼子に見せて心に影を落としてはいけませんので、危うい時はこちらへの立ち入りを制限させていただくことをご了承ください」

 そう伝えると、夫婦はコクリとお辞儀をして戻っていった。


 春になると、信長公は伊勢・伊賀方面の国衆を制圧し、着々と勢力を拡大していった。俺はこの間、京で待機し、流れ者対策や治安維持に従事していた。特に、戦に敗れて行き場所を失った者たちを積極的に拾い上げている。

 拠点が増えたことで、国元には「管理を任せられる者。家老の器とまではいかずとも、その素質がある者」という条件を添えて、人員の派遣を求める文を出した。


 伊勢が落ち着いた頃、信長公に呼び出された。

「夏、浅井・朝倉への包囲を強化し、湖北の諸城を攻略する」

 公の言葉に、俺は問いかけた。

「私が活躍できる隙間はありますか?」

 少しの間の後、信長公はニヤリと笑った。

「貴様は褒美より戦を好む男だからな」

「いえ、私だって褒美は欲しいですよ」

「ほう、面白い。落とした城でも欲するか?」

「いえ――支那の明朝の末期を見てきたいのです。それと天竺やオスマン帝国、ポルトガルも」

 俺がそう告げると、信長公は目を見開いた。

「貴様、よくぞ言った。だが、今はまだ戦にお前が必要だ。戦場は用意してやる。それまで待て」

「明に関しては、往復三ヶ月もかかりますまい。見るべき場所もそれほど多くはないと見ています」

 俺が食い下がると、信長公はしばらく考え込み、

「冬までには戻ってこい。武田が待っている」

 と許しをくれた。

「自称最強の騎馬軍団ですか。……明で、モンゴル帝国の流れを汲む本物の騎馬軍団を見てくるのも一興かもしれませんな」

 俺が独り言ちると、信長公は「モンゴル騎馬兵か、面白い」とニヤリと笑った。

「土産を持って帰れ。それと、こいつを連れて行け」

 公が指さしたのは、小姓の万見重元(仙千代)だった。

「必ずや、生かして連れ戻ります」

 俺は礼を言い、仙千代を連れてルイス・フロイスの元へ向かった。


 道中、身の上話をしてみると、仙千代と俺の(外見上の)年齢がそれほど違わないことが分かった。本当の歳を教えると、彼は腰を抜かさんばかりに驚いていた。

 同世代ということで少し気楽になったが、行き先が耶蘇教の拠点だと聞くと、彼は露骨に嫌そうな顔をした。身内に寺関係者がいるのか、未知の存在への警戒か。だが、明への道はフロイスがいなければ開けないのだ。


 フロイスの元へ着くと、彼は町民を集めて説教の最中だった。俺に気づくと軽く会釈をし、数分後にこちらへやってきた。

「今日は我々の話を聞きに来てくださったのですか?」

 ニコニコと微笑むフロイスに、俺は釘を刺した。

「ルイス、この者は売り物ではないぞ」

「そのようなことはしておりませんよ」

「ああ、それは豊後国(大友領)の話でしたな」

 皮肉で返すと、彼は苦笑した。

「それで、船に乗る時期は決まりましたか?」

「その通りだ。明へ散歩に行こうと思う。秋の前には帰ってくる予定だ」

「それはかなりの強行日程ですね」

「都に寄り、軍の見学をして帰るだけだ。簡単だろう? 報酬は銭のほかに、ルイスの協力者を提供してやる」

「本当ですか! それは期待していますよ」

 具体的な日程のすり合わせを行い、四月初めに天津を目指すことが決まった。


 一行は、フロイスを含めてわずか十名の少数精鋭。

 船旅は順調そのもので、堺から九州の府内、博多を経由して天津へと到着した。

 伝手もなく上陸した俺は、近くにいた人夫に北方官話マンダリンで声をかけた。

「儲け話がある。この辺りの顔役を紹介しろ」

 男はニヤリと笑い、手を差し出した。「俺への取り分は?」

「もちろんだ。案内料は払おう」

 男に連れられ、市内の狭い路地を抜けて広い空間に出た。

 男が「銭を連れてきたぞ!」と叫ぶと、ガラの悪い連中がわらわらと現れた。

「すべて置いていけ。荷物も、命もな!」

 連中が大笑いする中、俺は冷ややかに笑った。

 刹那、俺は刀を抜き、案内役の男を含めた全員を斬り伏せ、土の肥やしにしてやった。


 ただ一人、奥で様子を伺っていた頭の良さそうな男だけを残して。

「出てこい」

 声をかけると、男はゆっくりと姿を現した。

「お前がここの大人ターレンか?」

 尋ねると、彼は首を振った。

「私は通訳としてここにいます」

「何語を話す?」

「モンゴル語、ポルトガル語、日本語、そして朝鮮語です」

「それは重宝する。案内人に感謝しなければな」

 俺は転がっている死体に目を向けた。その視線の先では、仙千代が船酔いと惨状へのショックが重なったのか、激しく嘔吐してへたり込んでいた。

 俺は構わず、通訳の男に命じた。

「死体を片付けられる者を呼べ。それと、こいつらが持っていた金はお前が管理しろ」

 その様子を見ていたフロイスが、不思議そうに尋ねてきた。

「なぜ、彼はこうも素直に従うのですか?」

「我が家の秘儀だ。説明はできんよ」

 俺はただ、ニッコリと笑って答えた。

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