天を破りて・後B22
イレイザーの状態は俺も把握していた。
ソータは最初期───第1話や2話の、初めてガリウスG一号機に搭乗した時から、天才的なダメージコントロールを会得していた。操縦技術も初めてとは思えない、それこそ長年の経験を培ってきたシドウにも劣らないほどに。
そこに様々な経験や、状況に臨機応変に対応できる瞬間的な判断力が加わったからこそ、最強の名を冠するに至るのだ。まさに相応しい人物と言える。
原作にない過分な背負い物と言えるマルチプルジャケットは大半がビーム兵器であり、あとは誘導弾である。ビーム兵器のエネルギーはシーナ式ツインリアクターシステムで賄えるとはいえ、ミサイルの残量が少なくなり、さらにXタイプの第三形態に移行したのであればと、火力より軽量化を優先した選択だった。
この選択を瞬時に行えるパイロットは少ない。アークやビーツくらいだろう。俺はまだ自信がない。オールパーパスジャケットを手放そうという気にはなれない。
しかしソータは短期決戦のために選んだ。余計な重量を脱ぎ捨てて、俊敏性にものを言わせる戦い方にシフトしたネイキッド状態となることで、イレイザー本来の特徴である敏捷を基に戻した。
それでこそだ。それでこそ、俺が憧れ、もっとも成長に期待し、歪むことも曇ることも無く、真っ直ぐに育ってくれるように祈りながら手塩にかけてきた。少しだけ曇った時もあったけど、結果がすべてなこの世界。俺の努力が実を結んだ。あ、いやそれはほんの少し程度なんだろうけど。大半はソータの努力だろうな。うん。
『お前は、調子に乗るなぁああああああああ!!』
全力の加速。イレイザーは爆発によって一瞬だけ動きが止まったXタイプの腰にダイブする。あれを食らって無事でいる方がおかしい。が、Xタイプは装甲の厚みが減ったとはいえ防御力は全アンノウンの頂点だ。そして惜しいことに衝突するまでの距離が足らなかった。全身に裂傷が走るというダメージを与える快挙こそあったが、まだ致命打には繋がらない。
それでも成果はあった。Xタイプは分身を出せなくなった。マルチプルジャケットの爆発とタックルが効いたのだろう。遠くまで飛ばされて、やっと停止してから俺たちを睨んでいるばかりで、追撃をする気配がない。
時間稼ぎなんてする必要はない。ではなんの意図があって?
そんな疑念が渦巻くなか、俺たちには、特にビーツとシーナには別の問題が発生し、憤りの指摘と焦りの懇願が俺を同時に襲う。
『お、おい小此木………お前、これは………2番はどうした!?』
『曲が………曲が止まっちまったぞ!』
『あー、悪い。ほぼ趣味で作ったものだから、1番しかないんだった』
『ふざけるなよ貴様ァ! この期に及んでそんな失態、許されると思っているのか!? 万死に値する!!』
『そうだよ! 腹切れ腹ァッ!!』
こいつら、さっきから息も合わないし競い合ってるし邪魔し合ってるのに、共通の敵ができた途端に手を組むのだからな。都合よく俺を罵倒してくれやがって。
それならリクエストに応えよう。
『だーれがこの程度で終わるって言ったよ。んなわけねぇだろ!』
『なにぃっ!?』
『奥の手を見せて、いや聞かせてやる!』
俺の強気な発言に、期待するような声音をするビーツ。なんだかんだ言って、こいつはクズでカスで下衆なんだけど、ノリだけは良い。前世となにも変わっていない。
ファイルのなかから、とっておきの曲を再生する。
それこそビーツとシーナのテンションが再稼働し、震え上がるほどの衝撃だっただろう。
『これ………お前、エースッ!』
『おうよ! 気合い100倍! 挿入歌!』
『語呂いいな!?』
某、顔がパンでできたキャラクターの台詞をインスパイアすると、シーナがまた狂喜する。
それは作中でもっとも盛り上がるシーン、例えばイレイザーがロールアウトして戦場に投入される時などに流れる挿入歌で、第1クールから続投して使われているものだ。ファンなら誰でも知っているし歌える。
絶望を乗り越えて希望にしよう。というテーマの曲調。男性ボーカルが歌い上げる情熱感溢れる声。特にサビの盛り上がりが印象的で、最終回でも流れた。
メンタルがボロカスになっても立ち上がり、仲間のために戦うソータを象徴するような曲だ。大嫌いな奴はひとりもいない。
『うぉおおおおおおおおおおおお!! 勝利確定BGMだぁあああああああ!!』
『狂ったことほざいてんじゃねぇぞクズ! 処刑用BGMって呼べやぁああああああああああ!!』
たまらず叫び出すビーツとシーナ。俺としては勝利確定BGMでも処刑用BGMでも、構わないのだけど。どちらも事実だし。
シーナの超絶なパッションがライラを通じて伝わったのか、Xタイプがかなり警戒を示す。
用いたのは分身───いや、第三形態を模したものではない。これは、その分身を捻って作ったDタイプだ。Dタイプよりかなりサイズダウンしているが、その数たるや100体を超える。
『いきなりあっちも奥の手を使いやがったか!』
『小さなドリルが私に通用すると考えてんなら滑稽だなぁ! その耳かきみてぇな棒切れで、私を殺せるものならやってみやがれ!!』
Dタイプの脅威を知っている俺とは違い、シーナだけは臆することなく飛び出す。
ソータとアークも飛翔する。どの程度の被害が出るかは不明だが、ビーツは単独で行動。俺はあえて狙われるよう、目立つよう蛇行しながらXタイプに接近した。いざとなったらソータをいつでもフォローできるように。
一斉に小型Dタイプが放たれる。ミサイルというより、これは───至近距離で目にする大きな花火のようだ。
各機、ハイマニューバで宙域を駆け抜ける。様々な軌跡が複雑に折り重なり、小型のDタイプを避けてXタイプへと距離を詰めた。
花火のような小型分身はそれ一発で終了───ではなかった。次の小型DタイプがXタイプの周囲に出現したのだ。小型ならコストも低く、そこまで集中する必要もないのだろう。ソータが削いだ余裕が少しだけ戻っていた。
『まだだ! まだ行けるよなぁライラァッ!!』
『うん! らいら、まだ戦え───だめ、しーなもどって!』
高速のステップを連続で踏むように回避していたライラだが、攻勢を維持しようとするシーナの意志を振り払うかのような警戒を呼びかけ、そしてバックステップに転じる。
普段、ライラはシーナを拒絶したり否定することはない。初めての反発かもしれない。けれど、必ずそこには意味がある。
『分身をワープさせやがった………!!』
『シーナ!!』
ここにきてXタイプがさらなる狡猾な手段を講じてきた。俺たちにあの花火のように拡散する小型Dタイプは自分の周囲にしか放てないと印象を刻ませた。まさか他の場所で炸裂するとは俺も思わなかった。うまく乗せられてしまった。
炸裂するように弾ける小型Dタイプはすべてワープさせられて、バックステップする直前のボジションに現れて弾ける。至近距離で炸裂を受けたライラは、両腕で腹のなかのシーナを守り後退。二の腕や肩、膝に被弾しながらも紙一重で急所は避けた。
するとXタイプも外にいたので、炸裂に巻き込まれることになる。複数の裂傷を作りながらも回避運動を取り、なんとか生き抜いた。
後退するライラを、イレイザーとタキオンが回収する。いや、それは間違いだ。誰かが負傷した者に近付くことこそ、狡猾なXタイプの狙いだったのだ。
『下がれソータ! アーク! 狙われてるぞ! くそっ………ビーツッ!!』
『仕方あるまい! 不本意ではあるがな。サビを目前にして、栄光を譲るなぞ!』
ビーツは俺のやることを瞬時に理解した。それが脳内チップ持ちの利点だ。言葉にせずとも、イメージをそのまま送信することができる。
指示を受けた後退を実行しようとするソータとアークだが、その眼前にXタイプの罠が発動して出現。小型のDタイプが、手負いとなり回避行動も難しくなったライラを抱えたまま飛翔するのはほぼ困難となったイレイザーとタキオンを射抜かんと、推進を開始して───
ブクマ、リアクションありがとうございます!
さて………4話で完結と一昨日に申し上げましたが、B22を執筆しておりましたら思った以上に膨れ上がり、結果としてB23を作ることにしました。
B23、C1、エピローグという形にさせていただきます。結局今週末に完結になりそうです。
作者からのお願いです。
この作品は皆様の温かい応援で成り立っております。ブクマ、評価、感想、リアクションなどのありがたい応援を、ガソリンのごとく注入していただければ、作者は尻尾があれば全力でぶん回しつつ筆を加速させることでしょう。何卒よろしくお願いします!
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