天を破りて・後B20
Xタイプが俺たちを阻止できたのは、計10本の腕があったからだ。簡単には刃を通さないほどの強度があったが、先程はソータとアークが横からではなく縦から刃を通すと驚くくらいあっさりと切断できた。ふたりも応戦しながら弱点を探り当てたのだろう。
そして今、俺たちを止めるための手段が極端に減少したXタイプは、両腕だけではガードが足らず、頭部や首、肩や腹など、無防備となっている箇所に無慈悲なくらいの剣戟が突き刺さり、悶えては大きく回転する。ブレードが突き刺さった場所から傷が広がり、肉片が抉れようが構わずに刃から逃れたのだ。
『コアには届かなかったか!』
どんなアンノウンにも、人間で言う心臓のようなものがある。それがコアだ。アンノウンがいかなる場所、環境においても必要とされる炎熱を発生させる器官である。コアが潰されれば熱が保てなくなり、崩壊する。
『これでまだ動けるか。しかし深手を負った今ならば………なんだと!?』
ビーツが驚愕する。俺もそれを目の当たりにして言葉を失った。
確かにビーツの言ったように、深手を負ってろくに動けないほどのダメージがあるはずだ。しかし手負いの獣のほど、時としてはこちらの予想もしなかった奇行に移る時がある。
まさに、今がその時だったのだ。
「Xタイプが………黒く………!?」
アークが呻く。これまで原作に登場したタイプ、あるいはしなかったタイプまで会敵してきたが、変色するアンノウンなど見たことがなかった。ライラの例はまた別ものゆえに枠外として。
銀色のシルエット。それがアンノウンの共通する色彩だ。それがXタイプだけが戦闘中に変色したのだ。これについて驚くなという方が無理があるかもしれない。
変色以前に、Xタイプは全アンノウンのなかでも形態変化する固体。原作では第二しかなかったが、今回は俺たちも知らない能力を兼ね備えていたので、第三形態もあるかもしれないと冗談交じりで疑っていたのだが、真実になるとは。
黒化とでも呼ぶべきか。Xタイプは背中から生えた4本の腕を失った代わりに、形状が歪な翼状の膜を展開し、俺たちに相対したのだ。全体的にマッシブだった第二形態と比較して、わずかに細身になった印象がある。
『第三形態………これですべてが未知数となった。クランド艦長は、貴様を信じると言ったが、もうこの領域になると勝利できるかも危うい。第二形態のうちに殺せなかったのが悔やまれる。これがまさに、絶望というものなのかもな』
口数が多く、同時に珍しくも会敵した時点で弱音を吐くビーツ。
ソータとアークも第三形態となったXタイプの威容に軽口を叩けなくなった。シーナは別だ。まだ煽り続けている。『黒くなってますますゴキブリみてぇになったなぁ! 叩き潰してやんよおっ』とか。
シーナはともかく、俺もそれなりに絶望は感じている。勝てるイメージが、より遠のいた。
けれども………なんでだろうな。この感情は。先程よりも俺は、別の感情が強くなり始めていた。
『本当にそうかな? 絶望なんて言葉、死んでもお前の口から聞かされることはないと思ってたけど』
『なぜそう言える? 貴様はあれを見て、なんとも思わないのか?』
『思わないわけないよ。すっげぇ怖い。でもな、逆に言えば、それだけ俺たちがXタイプを追い詰めたって証拠だろ? あいつも、もう後がないのかもしれない。背水の陣ってやつだ』
『楽観主義者め』
ビーツは呆れたトーンをして返すも、いつもの皮肉は飛び出すことはなかった。奴なりにも、ポジティブに考えられる要素があったのかもしれない。
『この危機的状況で、そこまで豪語するんだ。得策が無いとは言わせない。ほざけば真っ先にXタイプの贄にしてやる』
『無いね。弱点も見当たらない』
『………墓標に刻む言葉が確定したな』
『まぁ落ち着けよカス。これまで危機的状況なんて何回もあっただろうが。でも原作でも今回でも、やることは同じだった。原作のソータは第二形態となったXタイプに勝算があって戦いを挑んだのか? 違うだろ。常に全力でぶつかった。死ぬ気でやった。それでやっと勝てた。………なら俺たちは? もうさっきから死力を尽くしているのは知っている。なら………俺が、お前とシーナに希望を与えてやるよ。とっておきだ。負ける気がしなくなるくらいのものをくれてやるよ』
これでもヒントくらいは与えてやっているつもりだ。
これから行う行為について、ソータとアークは意味がわからないかもしれない。
けれども俺とビーツとシーナは違う。ビーツとシーナはそれを知った時、必ず狂喜する。しなければおかしいくらいだ。
『へぇ。楽しみじゃねえか。私の笑顔が消えた瞬間、テメェに脳内汚染を実行してやるよ』
『その心配はねぇよ。きっと………ルンルン気分でXタイプをボコボコにできるだろうよ。ほら、聞け! 聞いて理解したなら、踊り狂え!!』
俺の端末に保存した、とある音楽を再生する。
ピアノが旋律を奏でるイントロ。もちろんソータとアークはわからない。けれど───
『ア゛ッ!?』
『こ、これはっ………第2クールの、オープニングテーマ曲か!? 小此木………お前、お前ぇえっ!』
イントロだけで理解できるからこそファンだ。
シーナを内蔵し動きをトレースしているライラならともかく、ブラックイレイザーまで激しくビクンと跳ね上がった。初めて絶望を知ったビーツが、目に見えて漲っている。
『改めて評価しよう………小此木。お前は天才だ!! まさかこの曲まで再現していたとは!』
『最高じゃねぇか………まさか異世界転生した先で、この世界のオープニングテーマ曲を聞けるなんてなぁ! 本当、テメェAIの使い方を熟知してんなぁ! マジで最っ高! さっきより万能感が漲ってきやがった!!』
『そのとおりだ。不思議なものだな。細部まで再現されたこの曲を聞いただけで………もう負ける気がしなくなった! 勝利はこの手のなかにある! 俺に続け! 逆転劇を見せてやるッ!!』
『ざけんなビーツテメェ!! 逆転劇を見せるのは私なんだよぉッ!!』
すごいもんだ。感応現象を打ち破るために、俺とビーツとシーナの感情をひとつにする必要があったので第1クールのオープニングテーマを流して感情を爆発させたのが最後だと思わせて、ここぞという時に使う第2クールのオープニングテーマ。
しっとりとしたピアノのイントロが終われば、激しいドラムとギターとベースが爆発的で躍動感のある音に変調し、実力派のアニソンシンガーがデュエットする。これに喜ばないファンはいない。俺だって初めて聞いた時は心奪われた。カラオケで何度も歌った。ビーツ───楠木と。
何度も歌った曲なら再現できる。途中から参入するヴァイオリンの旋律の再現も完璧だ。
女性シンガーふたりの歌声も正しく発声している。我ながら完璧なものを作ってしまった。
予想どおり狂喜したビーツとシーナは、絶望や怒りを置き去りにして、喜びを携えて雄叫びを上げながら黒化したXタイプ第三形態へとまったく臆することなく戦いを挑んだのだった。
『黒くなり、背中に膜を張った程度で強くなったつもりか貴様ぁああああああ!!』
『そんなんで私がビビるわけねぇだろうがぁああああああああ!!』
シーナとビーツは、まるで競い合うようにXタイプに攻め込んだ。
いったいどのような攻撃を仕掛けてくるのか、まったくわからないというのに。なんて元気な連中だろう。音楽ひとつでモチベーションが変わるとも予想していなかったのも事実ではあるが。
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あと少しで終わります。なんて書いてるうちにBも20を突破してしまいました。いや長すぎぃ!
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